第八話 弟子入り志願
謁見を終えた後、誠一は王宮内の一室を与えられた。
客室とは名ばかりの、豪華な部屋だった。天蓋付きのベッド、毛足の長い絨毯、窓からは王宮の庭園が見える。
「落ち着かないな……」
誠一は、ソファに座りながら呟いた。
十五年間、六畳一間のアパートで暮らしてきた。こんな豪華な部屋は、生まれて初めてだ。
コンコン。
ドアがノックされた。
「どうぞ」
入ってきたのは、リーネだった。
「セイ、少しいいですか?」
「ああ、何だ?」
リーネは部屋に入り、誠一の前に立った。
そして——跪いた。
「え、ちょっと——」
「改めてお願いします。私を、あなたの正式な弟子にしてください」
「正式な弟子……?」
「村では、非公式に教えていただきました。でも、これからはセイの『聖浄師』としての活動を、正式に手伝いたいんです」
リーネの目は、真剣だった。
「私は『浄化の巫女』の血筋でありながら、能力が発現しませんでした。王宮では無能と蔑まれ、存在価値を疑われてきました」
「リーネ……」
「でも、セイに教わって、初めて光を出すことができた。初めて、自分にも何かができると思えた」
彼女の声が、震えていた。
「お願いです。私に、もっと教えてください。この国の民を救う力を——私に」
誠一は、しばらく黙っていた。
彼女の姿が、かつての自分と重なった。
誰にも認められない。誰にも必要とされない。それでも、何かを成し遂げたいと願う。
「……立ってくれ」
誠一は、リーネの手を取り、立ち上がらせた。
「弟子とか、そういうのは堅苦しいからやめよう」
「え?」
「一緒に学ぼう。俺も、この世界のことはまだわからないことだらけだ。お互いに教え合って、一緒に強くなろう」
リーネの目が、大きく見開かれた。
「セイ……」
「ただし、手は抜くなよ。清掃の世界に、楽な道はない」
「はい! 絶対に手を抜きません!」
リーネは、満面の笑みを浮かべた。
その笑顔を見て、誠一も自然と微笑んでいた。
翌日から、本格的な訓練が始まった。
「基本は、繰り返しです」
誠一は、王宮の訓練場でリーネに教えていた。
「同じ動作を、何百回、何千回と繰り返す。そうすることで、体が覚える。意識しなくても、自然と最適な動きができるようになる」
「清掃員の方は、皆そうしているんですか?」
「ああ。毎日同じ作業を繰り返すから、どこに汚れが溜まりやすいか、どうすれば効率よく落とせるか、体が勝手に判断するようになる」
誠一は、自分の手を見た。
「俺の場合、十五年かかった。でも、リーネは才能がある。もっと早く習得できるはずだ」
「本当ですか?」
「ああ。『浄化の巫女』の血は、伊達じゃない」
リーネは嬉しそうに頷き、練習を再開した。
誠一は、彼女の成長を見守りながら、自分自身の課題についても考えていた。
黒崎——クロス将軍。
あの男に勝つためには、今の力では足りない。
もっと強く。もっと効率的に。
「俺も、訓練しないとな……」
誠一は、自分の両手に光を灯した。
【浄化 Lv.3】
レベルは少しずつ上がっている。だが、黒崎に対抗するには、まだまだ足りない。
「限界を超えろ」
誠一は、自分に言い聞かせた。
十五年間、地道に積み重ねてきた。この世界でも、同じだ。
一歩ずつ、前に進むしかない。




