第四十話 新たな日常
戦いから、一年が経った。
世界は、平和を取り戻していた。
瘴帝国は崩壊し、残った人々は聖王国に帰順した。各地の瘴気汚染も、徐々に浄化されている。
そして——
「聖浄学院、開校式を始めます」
王都の中心に、新しい建物がそびえていた。
「聖浄学院」——次世代の浄化師を育てる、教育機関だ。
「セイ、緊張してますか?」
リーネが、誠一の隣で微笑んだ。
「そりゃな。こんな大勢の前で話すなんて——」
「大丈夫です。いつも通りで」
「いつも通り、か」
誠一は、深呼吸した。
壇上に立ち、集まった生徒たちを見渡す。
様々な出身、様々な年齢の若者たちが、期待に満ちた目で誠一を見つめている。
「えー、俺は——」
誠一は、言葉を探した。
「俺は、元の世界では、ただの清掃員だった」
生徒たちが、静かに耳を傾けている。
「便所を掃除して、床を磨いて、ゴミを回収して。誰にも感謝されない、地味な仕事だった」
「……」
「でも、俺はその仕事が好きだった。なぜかって——」
誠一は、笑みを浮かべた。
「きれいにすることが、好きだったからだ」
「誰かがやらなきゃ、汚れは消えない。俺の母さんは、よくそう言っていた」
「この言葉は、この世界でも——変わらない」
誠一は、生徒たちを見つめた。
「君たちは、これから浄化の技術を学ぶ。瘴気を払い、汚染を清め、人々を救う方法を」
「でも、忘れないでほしい」
「本当に大切なのは、技術じゃない。心だ」
「汚れを見つける目。汚れを放置しない意志。そして——汚れを清めた後に、何を残すかを考える心」
「それがあれば——君たちは、きっと立派な浄化師になれる」
誠一は、深く頭を下げた。
「俺は、君たちに全てを教える。俺が持っている全ての技術、全ての知識を」
「だから——一緒に、この世界をきれいにしていこう」
拍手が、会場を包んだ。
開校式の後。
誠一は、学院の屋上に立っていた。
王都の街並みが、眼下に広がっている。一年前の戦いの傷跡は、ほとんど消えていた。
「セイ」
リーネが、隣に来た。
「良いスピーチでしたね」
「そうか? 緊張して、何を言ったか覚えてない」
「それでも、生徒たちには伝わったと思います」
リーネは、微笑んだ。
「セイの言葉には、いつも——重みがあります」
「重み……」
「経験に裏打ちされた、本物の言葉。だから、人の心に届くんです」
誠一は、照れくさそうに頭を掻いた。
「そうだといいけどな」
「セイ」
「ん?」
「これからも——一緒に、頑張りましょうね」
リーネは、誠一の手を握った。
「この世界を、きれいにしていきましょう」
誠一は、リーネの手を握り返した。
「ああ。一緒に」
二人は、王都の街並みを見つめた。
平和な日常。穏やかな風。青い空。
「さて」
誠一は、袖をまくった。
「今日も掃除を始めるか」
「え? 学院長が、自分で掃除するんですか?」
「当たり前だろ。俺は清掃員だからな」
誠一は、笑みを浮かべた。
「誰かがやらなきゃ、汚れは消えない——だろ?」
リーネは、呆れたように、そして嬉しそうに笑った。
「……そうですね。私も、手伝います」
二人は、学院の廊下に向かった。
新しい日常が、始まっていた。
【完】
終章 排水口の向こう
現実世界。
東京都内の、あるオフィスビル。
「おーい、新人。そっちの掃除、終わったか?」
「はい、先輩。今、トイレの最終チェックをしてます」
若い男性清掃員が、便器のリム裏を丁寧に拭いていた。
「お前、仕事丁寧だな」
「そうですか? 普通ですよ」
「普通じゃねえよ。最近の若いのは、手を抜く奴が多いのに」
先輩清掃員は、感心したように言った。
「お前、なんでこの仕事選んだんだ?」
「なんでって……」
若い清掃員は、少し考えてから答えた。
「誰かがやらなきゃ、汚れは消えないから——ですかね」
「……変わった奴だな」
先輩は苦笑したが、どこか嬉しそうだった。
その夜。
ビルの地下で、清掃員たちが仕事を終えた後——
誰もいない廊下の片隅で、排水口が微かに光った。
光は、すぐに消えた。
だが、よく見れば——
排水口の奥に、青白い光が、かすかに揺れているのが見える。
まるで——
どこか遠い場所から、誰かが見守っているかのように。
【異世界転生清掃員小説『封水の勇者』——完結】
以上で全40章+終章の執筆が完了しました。物語は誠一の成長、黒崎との対決と和解、そして新たな日常の始まりで締めくくられています。
Claude は AI のため、誤りを含む可能性があります。回答内容は必ずご確認ください。




