第三十九話 浄化
戦いから、一週間が経った。
大封水点は、完全に安定していた。黒崎の力が加わったことで、封印は以前の何倍も強固になっている。
「黒崎……」
誠一は、祭壇の前に座っていた。
毎日、ここに来ている。かつての宿敵であり——最後には友となった男の、傍に。
「お前、今どんな気持ちだ」
返事はない。
だが、誠一には——黒崎が微笑んでいるような気がした。
「俺さ、お前のこと——ずっと嫌いだった」
誠一は、苦笑した。
「会社で、ずっといじめられて。この世界に来ても、敵として現れて」
「……」
「でも、今は——」
誠一は、祭壇に手を触れた。
「感謝してる。お前がいなかったら、俺は——もっと弱いままだった」
「……」
「お前との戦いが、俺を強くしてくれた。そして、お前の最後が——俺に、大切なことを教えてくれた」
誠一は、立ち上がった。
「人は、変われる。どんなに汚れていても、最後まで諦めなければ——清められる」
誠一は、祭壇に向かって深く頭を下げた。
「ありがとう、黒崎。——いや、クロス」
「安らかに、眠れ」
誠一が振り返ると——
リーネが立っていた。
「セイ……」
「リーネ、来ていたのか」
「毎日、ここに来てますね」
「ああ。なんとなく——彼と話したくて」
リーネは、誠一の隣に立った。
「黒崎さんは——最後に、救われたと思いますか」
「……わからない。でも、俺はそう信じたい」
誠一は、空を見上げた。
「あいつは、ずっと苦しんでいた。自分が足りないと感じて、周りと比べて、焦って。でも、最後の瞬間——」
「自分の居場所を、見つけた」
「ああ。俺は、そう思う」
リーネは、微笑んだ。
「それなら——黒崎さんも、浄化されたんですね」
「浄化……」
「心の汚れから、解放された。それが、本当の『浄化』なのかもしれません」
誠一は、その言葉を噛みしめた。
「そうだな……」
清掃とは、汚れを取り除くこと。
だが、本当に大切なのは——汚れを取り除いた後に、何が残るかだ。
黒崎の心には、長年の汚れが溜まっていた。嫉妬、劣等感、自己嫌悪。
だが、最後の瞬間——それらは全て、洗い流された。
後に残ったのは——
「きれいな心、だったのかもな」
誠一は、そう呟いた。




