第三十八話 最終決戦・後編
光が収まると——
魔王の腕が、穴の中に引きずり込まれていた。
「封印が……完成した……」
誠一は、力尽きて倒れた。
だが、意識は保っている。
「セイ!」
リーネが、駆け寄ってきた。
「大丈夫ですか!」
「ああ……なんとか……」
誠一は、薄く笑った。
「終わった……のか……」
だが——
「まだだ」
穴の中から、声がした。
魔王の声だ。
「封印は完成した。だが、私は——まだ消えていない」
穴の縁から、巨大な目が覗いている。
封印によって、魔王は完全に魔界に押し戻された。だが、その意識は——まだ、この世界に届いている。
「千年前と、同じだ。封印されても、私は滅びない」
魔王の声が、響き渡った。
「いずれ、また封印は弱まる。その時、私は再び——」
「黙れ」
誠一は、立ち上がった。
「お前は、二度とこの世界に来られない」
「何を——」
「封印を、さらに強化する」
誠一は、祭壇に手を置いた。
「俺の命を、封印に加える」
「セイ!」
リーネが叫んだ。
「それは——死ぬということですか!」
「違う」
誠一は、首を振った。
「俺自身が、封印の一部になるということだ」
「そんな——」
「大丈夫だ。死ぬわけじゃない。ただ——この祭壇から、離れられなくなる」
「それじゃ——」
「それでいい」
誠一は、微笑んだ。
「俺は清掃員だ。この世界の『汚れ』を、永遠に見張り続ける。それが、俺の仕事だ」
「セイ……」
「リーネ、君たちには——この世界を任せる」
誠一は、祭壇に両手を置いた。
「封水——永久封印」
光が、誠一の体を包み込んでいく。
「ありがとう、みんな。俺は——幸せだった」
「セイ!」
リーネの叫びが、遠のいていく。
誠一の意識が——
「待て」
声がした。
黒崎の声だ。
「俺が、代わりになる」
「黒崎……?」
誠一は、光の中から黒崎を見た。
黒崎は、血まみれの体を引きずりながら、祭壇に近づいてきた。
「俺は、ずっと汚してきた。この世界も、お前の人生も」
「黒崎……」
「だから、俺が責任を取る」
黒崎は、誠一を祭壇から引き離した。
「お前は、生きろ。汐見」
「待て、黒崎!」
「俺の瘴気を——封印に加える。汚れを知っている俺だからこそ、汚れを永遠に封じられる」
黒崎は、祭壇に手を置いた。
「俺は——やっと、自分の居場所を見つけた気がする」
「黒崎……」
「悪かったな、汐見。色々と」
黒崎は、微笑んだ。
「お前のことを、ずっと——羨ましかった」
「黒崎……!」
「元気でな」
黒崎の体が、光に包まれていく。
「封水——永久封印」
光が、黒崎と祭壇を包み込んだ。
魔王の叫び声が、響き渡った。
「馬鹿な……! 人間風情が……!」
「うるせえ」
黒崎の声が、最後に聞こえた。
「お前みたいな『大汚れ』は——俺が永遠に見張ってやる」
光が、収束していった。
後には——
祭壇と、そこに融合した黒崎の姿だけが残っていた。
「黒崎……」
誠一は、祭壇の前に膝をついた。
「馬鹿野郎……」
涙が、頬を伝った。
「お前は——最後まで、要領が悪いな……」
封印は、完成した。
魔王は、永遠に封じられた。
そして——黒崎は、この世界の守護者となった。




