第三十話 クロス将軍との邂逅
ミラが捕らえられたという知らせは、すぐに誠一の元に届いた。
「クロス将軍からの伝言です」
使者が、震える声で言った。
「『聖浄師の仲間を預かった。取り返したければ、一人で来い。国境の無人地帯、古代の廃墟で待つ』——と」
誠一は、拳を握りしめた。
「罠だな……」
「明らかに罠です」
リーネが言った。
「でも、行かないわけにはいかない」
「一人でなんて——」
「黒崎は、俺を呼んでいる。一人で来なければ、ミラの命はないだろう」
「でも——」
「リーネ」
誠一は、リーネを見た。
「俺がいない間、王都を頼む」
「セイ……」
「封水点を守れるのは、俺たちだけだ。俺がいなくても、君たちならできる」
リーネは、唇を噛んだ。
「……必ず、戻ってきてください」
「ああ。約束する」
誠一は、一人で王都を出発した。
国境の無人地帯。荒涼とした大地が広がる、不毛の地。
その中央に、古代の廃墟がそびえている。かつて何かの神殿だったのだろうか。今は、朽ち果てた石柱だけが残っている。
「来たか」
廃墟の中心で、黒崎が待っていた。
その足元に、ミラが縛られている。
「ミラ!」
「セイ……来ないで……罠よ……」
「黙れ」
黒崎が、ミラの頭を蹴った。
「ミラには、手を出すな」
誠一は、黒崎を睨んだ。
「俺が来た。ミラを解放しろ」
「まあ待て。そう急ぐな」
黒崎は、不敵に笑った。
「久しぶりに、ゆっくり話そうじゃないか。元上司と元部下として」
「……何が言いたい」
「お前、覚えてるか。俺が会社をクビになった日のこと」
誠一は、眉をひそめた。
「クビ……?」
「知らなかったか。俺は、お前を馬鹿にしていたあの頃、実は会社から退職勧告を受けていた」
「……何だと」
「管理能力不足、クレーム多発、顧客満足度最低。そんな理由で、俺はクビを宣告されていた」
黒崎の口調に、初めて苦いものが混じった。
「俺は必死だったんだ。上に取り入り、同僚を出し抜き、あらゆる手を使って出世した。なのに——」
「それで、俺に八つ当たりしていたのか」
「八つ当たり……そうかもしれん」
黒崎は、自嘲的に笑った。
「お前は、俺が欲しかったものを持っていた」
「俺が……?」
「落ち着きだ。どんなに馬鹿にされても、お前は動じなかった。自分の仕事に誇りを持って、黙々と続けていた」
「……」
「俺には、それができなかった。常に周りの評価を気にして、上ばかり見て、自分を見失っていた」
黒崎の目が、暗く光った。
「お前が羨ましかった。だから、壊したかった」
「それが、お前の本心か」
「ああ。くだらないだろう? 自分でもそう思う」
黒崎は、笑いを止めた。
「だが、この世界では違う。俺は力を手に入れた。お前を見下ろす立場になった」
「力……瘴気か」
「そうだ。瘴気は俺に馴染む。汚すこと、壊すこと、腐らせること。それが、俺の本性だったんだ」
「黒崎……」
「だから、お前を倒す。お前が大切にするものを、すべて奪う。それで、俺は——」
「何を証明したいんだ」
誠一が、静かに言った。
「俺を倒して、何が変わる。お前の中の空虚は、埋まるのか」
「……黙れ」
「お前は、利用されているだけだ。瘴帝国は、お前を使い捨てにするつもりだ」
「黙れと言っている」
黒崎の声が、低くなった。
「お前に、俺の何がわかる」
「わからない。でも、一つだけわかることがある」
誠一は、黒崎を真っ直ぐに見つめた。
「お前は、不幸だ」
「……」
「力を手に入れても、地位を得ても、お前は満たされていない。俺を倒しても、それは変わらない」
「うるさい……!」
黒崎が、瘴気を放った。
「黙れぇっ!」
黒い津波が、誠一に向かって押し寄せる。
「浄化!」
誠一が、光で迎え撃つ。
瘴気と光がぶつかり、激しい衝撃波が広がった。
「いいだろう、汐見。言葉で通じないなら——」
黒崎が、両手を広げた。
「力で、決着をつける!」
最終決戦が、始まった。




