第二十八話 ミラの決意
前線からの報告は、日に日に悪化していった。
「第四防衛線が、突破されました」
「北部の補給路が、遮断されました」
「死傷者は、累計で三千人を超えています」
瘴帝国の攻勢は、凄まじいものだった。
聖浄班は、王都の防衛に専念していた。封水点を守りながら、城下町の瘴気汚染に対処する。
「このままでは、持ちません」
リーネが、疲労の色を浮かべながら言った。
「前線が崩壊したら、敵は王都に押し寄せてくる」
「わかっている」
誠一は、難しい顔をした。
「何か、手を打たなければ——」
「一つ、提案があります」
ミラが、静かに言った。
「提案?」
「私が、瘴帝国に潜入します」
全員が、ミラを見た。
「潜入……?」
「私は、瘴帝国出身です。言葉も知っている。顔を知られてもいない。潜入には、最適の人材です」
「何を探る気だ?」
「敵の作戦計画。封水点への攻撃がいつ行われるか、どの規模で行われるか。それがわかれば、対策が立てられます」
誠一は、眉をひそめた。
「危険すぎる」
「わかっています」
「バレたら、殺される」
「覚悟の上です」
ミラの目は、真剣だった。
「セイ、私はずっと、何もできない自分が嫌でした。村を救えなかった。家族を救えなかった。奴隷として、生き延びることしかできなかった」
「ミラ……」
「でも今は違う。セイに救われて、仲間ができて、戦う力を得た。だから——」
ミラは、拳を握りしめた。
「今度こそ、私が誰かを救いたい。この国を、仲間を、守りたい」
沈黙が流れた。
やがて、誠一が口を開いた。
「……わかった」
「セイ!」
リーネが驚いた声を上げた。
「ミラを行かせるんですか?」
「ミラの覚悟は、本物だ。俺に止める権利はない」
誠一は、ミラを真っ直ぐに見つめた。
「ただし、条件がある」
「条件……?」
「絶対に、無理はするな。危険を感じたら、すぐに撤退しろ。情報を持ち帰ることが、最優先だ」
「……わかりました」
「それと——」
誠一は、自分の腕から何かを外した。
細い革紐に、小さな石がついている。
「これは……」
「ゴルド老師に作ってもらった通信装置だ。俺と繋がっている。何かあったら、これを使え」
ミラは、それを受け取った。
「ありがとう、セイ」
「必ず、戻ってこい」
「はい」
ミラは、微笑んだ。
その夜、ミラは王都を出発した。
誰にも告げず、闇に紛れて——
瘴帝国へと、潜入していった。




