第二十七話 狙われる封水点
それから一週間が経った。
前線からの報告は、厳しいものだった。
「瘴帝国が、大規模な攻勢を開始しました」
ガルドが、軍議の場で報告した。
「国境の防衛線が、次々と突破されています」
「どのくらいの被害が?」
「三つの砦が陥落。兵士の死傷者は、千人を超えています」
国王の顔が、苦渋に歪んだ。
「西の同盟国からの援軍は?」
「まだ到着していません。あと二週間はかかると」
「二週間……持ちこたえられるのか」
「厳しい状況です」
軍議の空気が、重くなった。
その中で、誠一が発言した。
「陛下、一つ提案があります」
「何だ、聖浄師」
「瘴帝国の本当の狙いは、封水点です。正面からの戦いは、陽動かもしれません」
「陽動……?」
「大軍を前線に向けさせておいて、その隙に別動隊が封水点を攻撃する。先日の王都地下での戦いと、同じパターンです」
将軍たちが、顔を見合わせた。
「確かに……」
「ありえなくはない……」
「そこで、提案です」
誠一は続けた。
「聖浄班を、再編成させてください。封水点の防衛に特化した部隊を、新たに編成します」
「どのような部隊を?」
「浄化能力を持つ者を集めた、精鋭部隊です。数は少なくても、機動力と対瘴気能力に優れた部隊を」
国王は、しばらく考え込んだ。
「……認めよう。必要な人員と資材は、自由に使ってよい」
「ありがとうございます」
誠一は頭を下げた。
聖浄班の再編成が、すぐに始まった。
まず、リーネが復帰した。覚醒した彼女の浄化能力は、以前の数倍になっている。
次に、ミラ。彼女は戦闘能力こそ高くないが、瘴帝国の情報と、瘴気の察知能力に優れている。
そして、ゴルド老師。封水の儀の知識は、誰にも代えられない。
さらに、新たなメンバーを加えた。
「これからよろしくお願いします、聖浄師殿」
若い騎士が、誠一の前に跪いた。
「ライオネル・クレイモア。浄化の才能があると聞いた」
「はい。微弱ではありますが、瘴気を払う力があります」
「微弱でも構わない。これから鍛えれば、強くなる」
ライオネルの他にも、浄化の素質を持つ者を五名、聖浄班に加えた。
「全員で十名か」
誠一は、新しい聖浄班を見回した。
「少数精鋭だ。だが、俺たちにしかできない仕事がある」
「封水点の防衛ですね」
リーネが言った。
「そうだ。正規軍が前線を守る。俺たちは、封水点を守る。役割分担だ」
誠一は、地図を広げた。
「現在、聖王国領内の三つの封水点は、すべて強化済みだ。だが、敵はそれでも攻めてくるだろう」
「どこが、最も危険ですか?」
「王都の地下だ」
誠一は、地図上の一点を指さした。
「王都が陥落すれば、すべてが終わる。ここを、最優先で守る」
「わかりました」
全員が、決意を込めて頷いた。
その夜。
誠一は、一人で夜空を見上げていた。
「セイ」
ミラが、近づいてきた。
「眠れないんですか?」
「ああ。考え事をしていて」
「黒崎のこと?」
「……半分は」
誠一は、溜息をついた。
「あいつは、利用されている。知っているんだろうか、自分がどんな計画に加担しているか」
「知っていても、関係ないんじゃないですか」
ミラの声には、冷たい響きがあった。
「私の村を滅ぼしたのは、瘴帝国です。黒崎が直接手を下したわけじゃないかもしれない。でも、彼はその一員です」
「……そうだな」
「同情なんて、する必要ないですよ」
「同情じゃない」
誠一は、首を振った。
「ただ——同じ世界から来た人間として、少し考えてしまうんだ。俺が清掃員で、あいつが上司だった。その関係が、この世界でどう変わったのか」
「変わっても、本質は同じじゃないですか」
「本質……」
「セイは、汚れを清める人間。黒崎は、汚れを広げる人間。その違いは、元の世界でも変わらなかったんでしょう?」
ミラの言葉が、誠一の胸に刺さった。
「……そうかもしれない」
「迷わないでください、セイ。あなたには、守るべきものがある。私も、リーネも、この国の人々も」
ミラは、真っ直ぐに誠一を見た。
「私たちは、あなたを信じています」
「……ありがとう、ミラ」
誠一は、微笑んだ。
「もう迷わない。黒崎が敵なら、倒すだけだ」
その決意を胸に、誠一は明日の戦いに備えた。




