第二十六話 封水点の秘密
リーネの覚醒から、三日が経った。
彼女は、王宮の一室で療養していた。力を使い果たしたせいで、しばらくは起き上がれない状態だ。
「大丈夫、すぐに回復します」
リーネは、見舞いに来た誠一に微笑んだ。
「無理をさせて、悪かった」
「いいえ。私の意思で、やったことですから」
リーネは、自分の手を見つめた。
「不思議な感覚でした。封印を修復しているとき、何かが——私の中で目覚めた感じがして」
「浄化の巫女の力だ」
「……ずっと、自分には能力がないと思っていました。でも、違ったんですね。ただ、発現の仕方を知らなかっただけで」
「君には、才能があった。俺は、それを引き出す手伝いをしただけだ」
リーネは、誠一を見つめた。
「セイは、いつもそうですね。自分の手柄を、人に譲って」
「別に譲ってるわけじゃない。事実を言ってるだけだ」
「……そういうところが、セイらしいです」
リーネは、くすりと笑った。
「早く元気になって、また一緒に戦いたいです」
「ああ。待ってる」
誠一は、リーネの部屋を出た。
その足で、ゴルド老師の元に向かった。
「老師、封水点について、もっと詳しく教えてほしいんです」
「何が知りたい?」
「七つの封水点の関係性。そして——クロス将軍が、なぜそこまで封水点にこだわるのか」
ゴルド老師は、深く頷いた。
「良い質問じゃ。座れ」
誠一は、老師の前に腰を下ろした。
「封水点は、単なる『封印』ではない」
ゴルド老師が、古い地図を広げながら言った。
「それは、この世界のエネルギーの結節点じゃ」
「エネルギーの結節点……?」
「この世界には、目に見えない『水脈』が流れておる。地下水のようなものじゃが、物質ではなく、魔力の流れじゃ」
地図には、七つの封水点が示されている。そして、それらを繋ぐように、線が描かれていた。
「七つの封水点は、この水脈の交差点に位置しておる。そこで、魔力を制御し、世界全体のバランスを保っておるのじゃ」
「もし、封水点が破壊されたら……」
「魔力のバランスが崩れる。瘴気が溢れ出すだけでなく、世界そのものが不安定になる」
ゴルド老師の表情が、険しくなった。
「最悪の場合、この世界は滅亡する」
「滅亡……」
「そうじゃ。瘴帝国が封水点を狙う理由は、単に瘴気を広げるためだけではない。世界を、根本から作り変えようとしておるのじゃ」
「作り変える?」
「瘴気で満たされた世界。それは、魔界と同じ環境になる。そうなれば、魔界の存在が、こちらに渡ってこられるようになる」
誠一は、戦慄を覚えた。
「魔界の存在……」
「古代の文献には、恐ろしい記述がある。かつて、魔界と繋がっていた時代、この世界は地獄のような状態だったと」
「それを、瘴帝国は望んでいる……?」
「瘴帝国の支配者層は、魔界との繋がりを持っておる。彼らにとって、瘴気に満ちた世界こそが『理想』なのじゃ」
誠一は、黒崎のことを思い浮かべた。
あの男は、知っているのだろうか。自分が手を貸している計画の、本当の意味を。
「クロス将軍は……」
「異世界からの転生者じゃな。おそらく、計画の全貌は知らされていないじゃろう」
「では、彼は——」
「利用されておる可能性が高い。力を与えられ、地位を与えられ、敵を倒す役目を担わされておる。じゃが、最終的には——」
「使い捨てにされる、と」
「そうじゃ」
ゴルド老師は、静かに言った。
「転生者は、特別な力を持つ。じゃが、それは瘴帝国にとっても危険な存在じゃ。計画が完了したら、処分されるじゃろう」
誠一は、複雑な思いを抱えた。
黒崎は敵だ。許せない相手だ。だが、彼もまた——
「……考えても仕方ない」
誠一は、首を振った。
「今は、封水点を守ることに集中します」
「そうじゃな。七つの封水点のうち、聖王国領内の三つは強化した。残りの四つは——」
「瘴帝国領内と、国境の大封水点」
「そうじゃ。それらは、敵の勢力圏内にある。近づくのは難しい」
「でも、いずれは——」
「いずれは、踏み込まなければならん」
ゴルド老師は、地図を指さした。
「特に、大封水点。ここが、すべての鍵じゃ」
「大封水点か……」
誠一は、地図上の一点を見つめた。
聖王国と瘴帝国の国境。無人地帯の中央に位置する、最も重要な場所。
「最後の戦いは、そこで起こるのかもしれませんね」
「おそらくな」
ゴルド老師は、深い溜息をついた。
「その時に備えて、さらに力を蓄えなければならん。お主の封水スキルも、まだ成長の余地がある」
「わかっています」
誠一は、拳を握りしめた。
「必ず、この世界を守ります」




