第二十二話 清掃班結成
王都ルミナスに、緊張が漂っていた。
瘴帝国との戦争が、正式に宣言された。聖王国全土に動員令が発せられ、兵士たちが国境に向かって移動を始めている。
その中で、誠一は独自の行動を開始していた。
「『聖浄班』の結成を、提案します」
国王への謁見で、誠一は言った。
「聖浄班……?」
「瘴気汚染に対処する、専門部隊です。私とリーネ王女、ミラ、そしてゴルド老師の四名で構成します」
「たった四人で、何ができる」
「四人だからこそ、機動力があります。大軍では動けない場所にも、素早く対処できる」
「具体的には?」
「封水点の防衛と、汚染地域の浄化。この二つが、聖浄班の任務です」
国王は、しばらく考え込んだ。
「……認めよう。ただし、護衛は付ける」
「護衛は、最小限にしてください。目立つと、敵に狙われやすくなります」
「わかった。精鋭の騎士を五名、付けよう」
こうして、「聖浄班」が正式に発足した。
メンバーは、以下の通りだった。
汐見誠一——聖浄師。班長。 リーネ・クリスタル——聖王国第三王女。浄化の巫女。 ミラ——元奴隷。瘴帝国の情報を持つ。 ゴルド老師——元宮廷魔術師。封水の儀の研究者。 騎士五名——護衛。
「これで、やっと本格的に動ける」
誠一は、聖浄班のメンバーを見回した。
「最初の任務は、聖王国領内の封水点の確認と強化だ」
「三箇所、ありましたね」
リーネが言った。
「そうだ。北の山岳地帯、西の森林地帯、そして——王都の地下」
「王都の地下……?」
「ゴルド老師の研究によれば、王都の真下に封水点がある。だから、王都は古代から聖地とされてきた」
「知りませんでした……」
「ほとんどの人が知らない。だから、そこが最も危険でもある」
誠一の表情が、険しくなった。
「王宮内にスパイがいたということは、王都の封水点も狙われている可能性がある」
「では、最初に王都を——」
「いや」
誠一は首を振った。
「王都は、最後に回す。まずは、北と西の封水点を強化して、敵の注意をそちらに向ける」
「囮、ということですか?」
「そうだ。敵が北と西に戦力を割けば、王都の防衛は楽になる」
作戦は、すぐに実行に移された。
聖浄班は、まず北の封水点に向かった。
山岳地帯を三日かけて進み、古代の遺跡に到着した。
「ここが……封水点……」
リーネが、息を呑んだ。
そこは、巨大な洞窟だった。入り口は狭いが、中に入ると広大な空間が広がっている。天井には無数の鍾乳石が垂れ下がり、床には地下湖が静かに水面を湛えていた。
そして、湖の中央に——
「あれが、封水点だ」
誠一が指さした先に、石造りの祭壇があった。古代の文字が刻まれ、微かな光を放っている。
「二千年以上前に、古代の浄化師たちが築いたものじゃ」
ゴルド老師が説明した。
「この祭壇が、封水点を維持している。じゃが、見ての通り——」
祭壇の一部が、崩れていた。光も弱まっている。
「封印が、弱まっているな」
「そうじゃ。このままでは、あと数ヶ月で封印が破れる」
誠一は、祭壇に近づいた。
手を当て、集中する。
「……見える」
封印の構造が、脳裏に浮かんだ。複雑に絡み合った魔力の線が、一つの結界を形成している。だが、その一部が切れかけている。
「修復できる」
「本当に?」
「ああ。俺の封水スキルを使えば」
誠一は、両手を祭壇に置いた。
「封水——強化」
青白い光が、祭壇に流れ込んでいく。切れかけていた魔力の線が、繋ぎ直されていく。崩れていた石が、元の位置に戻っていく。
数分後。
祭壇は、元の姿を取り戻していた。光も、以前より強くなっている。
「すごい……」
リーネが、感嘆の声を上げた。
「二千年分の劣化を、一度で修復するとは……」
「まだ終わりじゃない」
誠一は言った。
「強化した封印を、維持する仕組みが必要だ」
誠一は、祭壇の周囲に新たな術式を描いた。ゴルド老師に教わった、封水の儀の一部だ。
「これで、当分は大丈夫なはずだ」
「では、次は西の封水点じゃな」
「ああ。急ごう」
聖浄班は、北の封水点を後にした。
西の封水点は、広大な森林の奥にあった。
ここでも、同様の作業を行い、封印を強化した。
「二つ終わった。残りは、王都の地下だけだ」
「順調ですね」
リーネが言った。だが、誠一の表情は晴れなかった。
「順調すぎる……」
「どういうことですか?」
「敵の妨害が、ほとんどない。瘴帝国は、俺たちの動きを把握しているはずなのに」
ミラが、険しい顔をした。
「罠……かもしれませんね」
「おそらく。敵は、俺たちを泳がせている。王都の封水点で、一網打尽にするつもりだ」
「では、どうしますか」
「予定通り、王都に戻る」
誠一は、真っ直ぐ前を見据えた。
「罠だとわかっていても、封水点を放置はできない。行くしかない」
「覚悟は、できています」
リーネが言った。
「私も」
ミラが続いた。
「儂も、もちろんじゃ」
ゴルド老師が頷いた。
聖浄班は、王都に向かって進み始めた。
最後の——そして最も危険な——任務が、待っていた。




