第十三話 古文書の謎
ゴルド老師から託された研究書を、誠一は毎晩読み込んだ。
封水の儀の詳細。七つの封水点の歴史。古代の浄化師たちが残した技術の数々。
その中で、一つの記述が誠一の目を引いた。
「『世界を繋ぐ水脈は、あらゆるものの境界である。清浄と汚穢、生と死、此岸と彼岸。封水とは、その境界を維持する術なり』……」
誠一は、その言葉を何度も読み返した。
「境界を維持する……」
それは、まさに清掃員の仕事そのものだった。
清潔と不潔の境界を維持する。衛生と不衛生の境界を守る。目に見えない線引きを、日々の作業で保ち続ける。
「封水は、世界規模の清掃なんだ……」
その理解が深まるにつれ、誠一の封水スキルも強化されていった。
【封水 Lv.7】
レベルが上がるたびに、できることが増えていく。より広い範囲を、より強固に、より長時間、封じることができるようになった。
ある日、リーネが興奮した様子で誠一の部屋を訪ねてきた。
「セイ、大発見です!」
「何があった?」
「禁書庫で、新しい文献を見つけました。『封水点の守護者』について書かれています」
リーネが持ってきた羊皮紙には、古代文字が記されていた。
「『各封水点には、守護者が配置されていた。守護者は、封水点を維持し、侵入者から守る役目を担った。しかし、千年の時を経て、守護者の血筋は途絶え……』」
「途絶えた……」
「でも、ここを見てください。『浄化の巫女の血筋は、守護者の末裔である』と」
誠一は、リーネを見た。
「つまり、リーネは——」
「私は、封水点の守護者の子孫なんです」
リーネの目が輝いていた。
「だから、私にも封水を扱う素質があるはず。セイに教わって、ようやくそれが発現し始めた」
「なるほど……」
パズルのピースが、一つずつはまっていく感覚があった。
リーネの血筋。誠一のスキル。ゴルド老師の研究。
すべてが、封水の儀を完成させるために必要な要素だった。
「一人では無理でも、皆で力を合わせれば——」
「世界を救えます」
リーネが、力強く言った。
「私たちなら、きっとできます」
その言葉に、誠一も頷いた。
「ああ。一緒に、やり遂げよう」
その夜。
誠一は、窓から夜空を見上げていた。
二つの月——この世界には月も二つあった——が、静かに輝いている。
「黒崎……」
敵の顔を思い浮かべる。
あの男は、何を考えているのだろう。なぜ、「汚す側」を選んだのだろう。
現実世界では、黒崎は誠一を見下していた。「底辺」「老害」と蔑んでいた。
だが、同時に——
「あいつも、何かを抱えていたのかもしれない」
誠一は、ふとそう思った。
要領がよく、出世が早かった黒崎。だが、その裏には、何があったのか。
「……考えても仕方ないか」
誠一は首を振った。
今は、目の前のことに集中するしかない。
封水の儀を完成させる。世界を守る。
それが、自分の「仕事」だ。




