第十二話 ゴルド老師
王宮の点検を続ける一方で、誠一はゴルド老師の元にも通っていた。
「今日は、封水点の詳細について教えてほしいんです」
「よかろう。座れ」
ゴルド老師の家は、相変わらず雑然としていた。だが、誠一が通うようになってから、少しずつ片付いてきている。誠一が、来るたびに軽く清掃をしているからだ。
「お主、また掃除をしたな」
「すみません、つい手が動いて……」
「構わん。おかげで、この家も住みやすくなった」
ゴルド老師は、苦笑しながら言った。
「では、封水点について説明しよう」
老師は、大陸の地図を広げた。
「七つの封水点は、それぞれ異なる役割を持っておる。聖王国領内の三つは『陽の封水点』と呼ばれ、浄化の力が強い。瘴帝国領内の三つは『陰の封水点』で、瘴気を封じ込める役割がある」
「そして、国境の大封水点は?」
「七つの封水点を統括する、中枢じゃ。ここが破られれば、他の六つも連鎖的に崩壊する」
「最も重要な場所……」
「そうじゃ。そして、瘴帝国が最も狙っているのも、この大封水点じゃろう」
誠一は、地図を見つめた。
「守る方法は?」
「封水の儀を完成させ、七つの封水点を強化することじゃ。そうすれば、たとえ一つや二つが破られても、全体の崩壊は防げる」
「封水の儀の詳細を、教えてください」
ゴルド老師は頷き、一冊の古い本を取り出した。
「これが、儂が五十年かけてまとめた研究の集大成じゃ。お主に託す」
「老師……」
「儂には、もう時間がない。この知識を、次の世代に引き継ぐのが、儂の最後の務めじゃ」
ゴルド老師の目には、複雑な感情が浮かんでいた。
「お主の『封水』のスキルは、古代の浄化師が持っていたものと同じじゃ。いや、それ以上かもしれん」
「俺のスキルが……?」
「お主は、異世界から来た。その事実が、重要なのじゃ」
ゴルド老師は、声を低くした。
「古文書には、こう記されておる。『異界より来たりし者、封水の鍵を持つ』と」
「異界より……」
「お主は、偶然この世界に来たのではない。何らかの力が、お主を呼んだのじゃ。この世界を救うために」
誠一は、言葉を失った。
偶然ではない。必然だった。
あの夜、排水口に引き寄せられたのも——
「俺は……選ばれた、ということですか」
「選ばれた、というより、導かれた、と言うべきじゃろう。お主の十五年間の経験、清掃員としての矜持、それらすべてが、この世界で力を発揮するための準備だった」
誠一は、自分の手を見つめた。
節くれだった、汚れを落としてきた手。
その手が、世界を救う鍵になる。
「……わかりました。俺、やります」
誠一は、顔を上げた。
「封水の儀を完成させて、この世界を守ります」
ゴルド老師は、満足そうに頷いた。
「期待しておるぞ、聖浄師セイ」




