第十一話 王宮の腐敗
黒崎の来訪から三日が経った。
誠一は国王に報告し、王都の警備が強化された。だが、不安は消えなかった。黒崎があれほど簡単に侵入できたということは、内部に協力者がいる可能性がある。
「セイ、少しいいか」
ガルド騎士団長が、誠一の部屋を訪ねてきた。
「何かあったのですか」
「内密の話だ」
ガルドは周囲を確認し、声を低くした。
「王宮内に、スパイがいるかもしれん」
「やはり……」
「黒崎の侵入経路を調べたが、外からの突破は不可能だった。つまり、内部から手引きした者がいる」
誠一は眉をひそめた。
「心当たりは?」
「いくつかある。だが、確証はない」
ガルドは溜息をついた。
「正直に言えば、王宮の中は腐敗しておる。派閥争い、権力闘争、私利私欲。国の危機よりも、自分の地位を優先する者が多い」
「……」
「セイ殿が聖浄師になったことを、快く思わない者もいる。よそ者が突然現れて、高い地位についた——そう考える者は少なくない」
誠一は、その言葉に苦い思いを覚えた。
現実世界でも同じだった。
真面目に働いている者より、要領よく立ち回る者が出世する。地道な努力は報われず、政治的な駆け引きがものを言う。
「俺にできることはありますか」
「……王宮の状況を、見て回ってほしい」
ガルドは言った。
「聖浄師として、王宮内の『浄化』を行うという名目で。その過程で、何か不審なものがあれば報告してくれ」
「わかりました」
翌日から、誠一は王宮内の「衛生点検」を開始した。
表向きは、清掃と瘴気汚染のチェック。だが、本当の目的は、スパイの探索だった。
「失礼します」
誠一は、各部署を訪問し、排水口や換気口の点検を行った。
その過程で、様々なことが見えてきた。
宮廷魔術師団の棟では、誠一を見る目が冷たかった。彼らは「浄化の巫女」の血筋を持つリーネを無能と蔑んできた者たちだ。誠一が外部からやってきて、彼らより高い地位を得たことを、快く思っていないのは明らかだった。
「聖浄師殿、何用ですかな」
団長のレオナルドという男が、不機嫌そうに言った。
「衛生点検です。排水口と換気口をチェックさせてください」
「我々の棟は清潔ですぞ。そのような点検は不要です」
「念のためです。全棟を回ることになっていますので」
レオナルドは、しぶしぶ通してくれたが、その目には敵意が宿っていた。
誠一は、魔術師団の棟を調べた。
表面上は、確かに清潔だった。だが、誠一の清掃員としての目は、違和感を捉えていた。
換気口の一つに、わずかな黒ずみがある。通常の汚れではない。瘴気の痕跡だ。
「ここから……何かが出入りしている?」
誠一は、その換気口をマークした。
点検を続ける中で、誠一はもう一つの問題に気づいた。
王宮の衛生状態は、見た目ほど良くなかった。
排水路は長年のメンテナンス不足で詰まりかけており、換気も不十分だ。厨房の衛生管理も甘く、食中毒が発生してもおかしくない状態だった。
「これは……」
誠一は、王宮の「汚れ」の深刻さを実感した。
物理的な汚れだけではない。権力闘争、派閥争い、腐敗した人間関係。そういった「心の汚れ」が、建物全体を蝕んでいる。
「どこから手をつければいいんだ……」
圧倒されそうになりながらも、誠一は一歩ずつ前に進むことにした。
まずは、物理的な清掃から。排水路の浄化、換気口の清掃、厨房の衛生指導。
小さなことから始めて、少しずつ環境を改善していく。
それが、清掃員のやり方だ。




