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ライブハウス

第2章、とりあえずプロローグ的な閑話を一つ。


続きはちょっとお待ちください。

「じゃあ春夏、ちょっと出掛けてくるな」


ガシィ!


「コラ、ブラぐらい着けて行けや!いつになったら女の自覚が出るのよ!」


「えぇ~、そんなに変わんないじゃん、先っちょがポチっとなってるだけで」


「世の中にはそのポチィの出っ張りに欲情する男が大勢いるんだよ!元は男なんだからわかるでしょ」


「いや、俺は脚派だったから」



こいつめ〜。玄関先でギターケースを背負ったお兄ぃの肩を掴む。サングラスと帽子被っただけで変装したつもりか、Tシャツとジーパンで出て行こうとすな。

入院後は気が緩んでるな、金髪ウィッグはどうした。お母さんにチクるぞ。


「それでどこ行くの?ギターケースなんか持って、歌の仕事?」


私服だから会社では無さそうだが。


「あ〜、悪りぃ、説明してると約束の時間になっちゃうから、めんどいし春夏も一緒に行くか?」


「?、もう、しょうがないなぁ、ホラ、パーカーくらい羽織りなよ」






ちょっと薄暗いBARカウンターにお兄ぃと並んで座る。

お兄ぃは機嫌良く店員さんに声をかけた。


「あ、お兄ちゃん、私は角のハイボールね。春夏はどうする?」


「ん~、とりあえずホットドッグで」



「は、ハイ!しょ、少々お待ちください!!」


カウンターを挟んで店員さんが慌てている、ほれみろ正体バレバレやん。

て言うか、阪神タイガースのキャップにサングラスの組み合わせはどうなん?金髪ウィッグは付けてる時間なかったから、顔はどう見てもUTUMIのまんまなんだよね。

サインを頼まれていたがイラストを描くのが面倒なのか握手と写真で済ませてやがる、店員さんは喜んでるからいいか?


長野駅から徒歩3分、スタバの入ったビルの地下にお兄ぃに連れて来られた。20人も入れば満員になりそうなこじんまりとしたライブハウスだ。

陽子ちゃんは呼ばないの?とお兄ぃが聞いてくるが誘う暇なんかなかったじゃない。


「ふ、ふ、ふ、あえて教えて無いわ」


呼んだら面倒くさいし。


「陽子ちゃん怒るぞ~」


「しょうがないでしょ、まさかライブハウスに行くとは思わなかったんだから!」


目的地を言わなかったお兄ぃが悪い。


「言ってなかったっけ?じゃあサプライズってことで」


「聞いてないわよ、私の学校の知り合いに会うって言うからどこ行くねんと思ってったら、ここだっだし、それにもうすぐライブ始まるんでしょ」


スマホで時間を確認する、入口の案内には16:00からスタートと書いてあった、後10分だ、今から陽子を呼んでも間に合わないだろう。


「あぁ、これ飲んだら行ってくるわ」


お兄ぃはそう言って、濃いめのハイボールを一気に喉に流し込むと、立ち上がった。




正月に長野駅の階段で転けて入院したお兄ぃだが、その時に私の高校の生徒に赤十字病院の受付で偶然あったらしい、お兄ぃは私の高校では有名人だから、すぐにわかったようだ、パジャマで病院内彷徨くなよ骨折してるくせに。ちなみにその子はお婆ちゃんの付き添いで日赤に来ていたらしい。


軽音部のギブソン君?いやレスポール君だったか、何それイギリス人留学生か?詳しく聞いたら学園祭のカラオケ大会でギターを借りた子らしい、じゃあ、日本人じゃねぇか、確かえ〜とそう!宮島君だ。

その宮島君が所属するバンドが今日ここでライブをするらしいのだ、高校生の癖に社会人とバンド組んでるなんてやるじゃん宮島君。

ギターを借りた借りもあるし、飛び入りで参加すると言ったらしいのだが、バンドのメンバーには信じて貰えなかったのかな、入ってるお客さんはパラパラとあまり多くない。


オーナーさんにもさっき挨拶したのだが、めっちゃビックリしてた。まぁ、バンドメンバー、しかも男子高校生が言ったところですぐには信じて貰えなないか、宮島君そんなに口が上手い方じゃなかったし。



バツン、カチカチカチ


アンプにシールドを繋ぐ。


ジャルリラン♪


「お、始まるみたいだね」




ザワザワ、ザワ…


「な、なぁ、あれって、まさか」

「マジか、本物?」

「えっこんな小さいライブハウスに」

「白のストラトだし、本物だよ、第一にスッゲエ格好いい!」

「脚長ぇ」

「黄色のレイバンがスターの雰囲気あるぅ!」


「「「UTUMIだぁ!!」」」


ジーパンにダボっとしたパーカーだがな、あの脚線美は同じ女として羨ましいな。




「ども、UTUMIで~す、今日はお友達のギブソン君に誘われたので来ちゃいました、飛び入り参加ですが頑張って弾きますので聞いてくださいね」


お兄ぃにスポットライトが当たる、楽器を持って4人も並べばいっぱいの狭いステージ、その最前面でウインクをかますお兄ぃ、こいつ完璧に女になってやがる。


「「「「ウォオぉおおおおおおオオオオオオオオオオオオオオ!!」」」」


10、2、3人居たお客さんが野太い雄叫びを上げる。


「じゃあ、まずは、あれ…………何弾くんだっけ?」


ズコォーーーーーー!


お客さんがずっこっける、掴みはOKだね、天然だけど。後ろの宮島君に向かって首を傾げるお兄ぃ、打ち合わせくらいちゃんとしとけや。


「あぁ、HIDEちゃんのコピーバンドって言ってたっけ、それじゃオープニングナンバーはミサイルダイブで!」


「「「ワァーーーーーーッツ!!」」」


ジャガジャガジャララ♬ジャララ


Aha~~~~~~~~~~~~!


お兄ぃが歌うんかい!!サポート言うてたやんか。

ノリノリやん、とりあえずプロでもやってるんだから自重しろ、ホラお客さん全員スマホ構えてるじゃん、コレ絶対後で中山さんに怒られるんじゃ無いかな?紅白の後に居酒屋で歌った時にもサービスしすぎだってぐちぐち嫌味言われたじゃん、学習しなよ。


ジャララン!


「「「「ウォオぉおおおおおおオオオオオオオオオオオオオオ!!」」」」


すっごい盛り上がりだな、いつの間にかお客さん増えるし、あ、陽子からライン来てるヤベェ。見つかったか?本当にお兄ぃの事には目ざといなアイツ。


「次、ピンクの蜘蛛行きま~す!」


ジャガラ、ジャガラ、ジャガラ、ジャー!キロキロキロー♪


しっかし、お兄ぃの歌とギター、こんな狭いライブハウスで聴くと迫力凄いな、声デカくてマイクいらないじゃん。結構格好いいぞ。


ポチポチポチ


「陽子へ、3曲しかやらないみたいだから、来る頃には終わってるよっと、送信」


ピロン、ピロン、ピロン、ピロン、ピロン、ピロン、ピロン、ピロン、ピロン!


陽子からのラインの着信音が止まらない。


「ダァーーー、諦めなさいよ!一応動画は撮っておいてあげるから!」


「「「「ウォオオオオオオオオオ~!」」」」


「わぁ、何々?」



「お~熱くなってきたね!予定にないけど他の曲も演っていいかな!」


「「「「ウォオぉおおおおおおオオオオオオオオオオオオオオ!!」」」」


「え、マジで?ごめん陽子、3曲じゃないみたい」


ノリノリのお兄ぃは結局12曲も歌いやがった、映画の主題歌や紅白でやった歌の時なんか店が揺れるほどの歓声で、演奏が終わる頃にはライブハウスはギュウギュウ詰めで身動きが取れない状況になっていて、私は楽屋に避難させてもらった。








ガチャ



「いやぁ~、盛り上がった盛り上がった!いいね、こう言うライブも、ギブソン君も今日は誘ってくれてありがとね♡」


「俺まだ、夢見てるみたいです」


「「………マジで凄かった、あのUTUMIと一緒のステージなんて死ぬまで自慢出来る」」


「最後に歌ったストーンズの悪魔を憐れむ歌、めっちゃカッコ良かったです」


「ブライアンがいた頃のストーンズは好きなんだ私」


「「「めっちゃ渋いなUTUMI」」」


楽屋に戻って来たお兄ぃ達、お兄ぃ以外のメンバーは宮島君もドラムとベースの人もグッタリしているが良い笑顔だ、ごめんね~あんなにいっぱい演奏する予定じゃなかったもんね。全部お兄ぃの所為だよね。


「大学の頃、藤崎と二人で夜中に権堂のアーケードでギター弾いたの思い出しちゃった」


「えっ、UTUMIさんそんな事してたんですか?見たかったなぁ〜」


宮島君がキラキラした目でお兄ぃを見るが、それは男の時の事だよね。

そんなことより、上機嫌でハイネケン片手にタバコをくわえたお兄ぃに問いかける。


「で、お姉ちゃんこの後どうやって帰るの?店の外はお客さんだらけだよ」


「……」


可愛い仕草で首を傾げたって事態は変わらんからな。


ステージの方からはアンコールの声が大音量で聞こえて来ている、この店のオーナーもスタッフもそれの対処に追われて楽屋には来れないようだ、でもこの店って地下だから出入口が一つなんだよな。

マジでどうやって帰るのよ。


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