第4話 精霊が結ぶ縁
その日、私は中庭で黒猫の精霊ララと共に散歩していた。
春の陽気に花壇の花々が咲き誇り、風はやわらかく香りを運んでくる。
ララは蝶を追いかけて駆け回り、尾をぴんと立ててはしゃいでいた。
「ララ、花壇を荒らさないで」
そう呼びかけたとき、別の声が耳に届いた。
「殿下、石段にお気をつけください」
「ありがとうございます、カイル」
振り返ると、王女殿下が姿を現した。
陽の光を浴び、金糸の髪がきらめく。その傍らに控えるのは、王女付きの騎士、カイル・シュタイン。
彼は一歩下がりながらも絶えず殿下を見守り、小さな段差や裾の揺れにまで気を配っていた。
そのとき、ララの耳がぴくりと動き、駆け出した。
向かった先には、殿下の黒猫の精霊・スー。
二匹は目を合わせると同時に尻尾を絡ませ、楽しそうに花壇を転げ回った。
「スー!」
「ララ!」
私と殿下の声が重なり、思わず視線が合う。気まずさが走ったが、殿下はふわりと笑んだ。
「……あの子たち、ずいぶん仲が良さそうね」
「ええ。きっと気が合うのでしょう」
精霊たちの無邪気な姿に、私たちもつられて小さく笑ってしまった。
「あなたとこうしてお話しするのは、初めてね」
殿下の瑠璃色の瞳が、まっすぐに私を見つめる。
「……はい。精霊たちのおかげでしょうか」
「ふふ、そうね。スーがこんなに楽しそうなのは久しぶり」
殿下は優しく微笑んだ。その横で、カイルが控えめに声をかける。
「殿下、陽射しが強いようです。少し休まれてはいかがでしょう」
「大丈夫よ、ありがとう」
その自然なやりとりに、私は小さく心をざわつかせた。
(……二人は仲がいいのね。たしか幼馴染だと聞いたことがあるわ)
騎士としての忠誠心なのか、それとも幼い頃からの親しさなのか。
どちらにせよ、殿下が大切にされているのは伝わってきた。
***
その夜。
窓辺に座り、月を見上げながら昼間の光景を思い返していた。
殿下の儚げな微笑み。美しい金の髪と瑠璃色の瞳。
甘えん坊のような一面を見せながら、自然と周りに守られてしまう人。
その隣には、いつも騎士が寄り添っている。
(……こんなに可愛らしい人を、レオニードが好きにならないはずがない)
ララが足元にすり寄り、ぺろりと私の指を舐めた。
けれど胸の影は消えない。
友情が芽生えたはずなのに、嫉妬もまた芽生えてしまった。
そして――そんな嫉妬をしてしまう自分が、何よりも醜く思えてつらかった。
(彼女は優しくて、あんなに美しいのに……どうして素直に受け入れられないの……?)
心の奥に広がる暗い感情が、私を締め付けて離さない。
「ララ……私、どうしたらいいのかしら」
ララはただ静かに喉を鳴らし、私の膝に顔をうずめてきた。
それが余計に切なくて、涙が零れ落ちた。