第28話 誓いの光
王宮の礼拝堂は、白百合と薔薇で埋め尽くされていた。
天井のステンドグラスを透かして差し込む光が、虹色に床を染め上げ、まるで天上の祝福そのもののようだった。
今日、私はセオドア殿下と夫婦になる。
重厚な扉が開くと同時に、参列者たちの視線が一斉に注がれた。
私は深呼吸をし、純白のドレスの裾を持ち上げながら歩き出す。
隣に立つ殿下がそっと手を差し伸べてくれ、その温もりに心臓の鼓動が少し落ち着いた。
「大丈夫。君は美しい」
殿下が小さく囁いた。
頬が熱くなる。緊張も不安も、その一言で霧が晴れるように消えていった。
そのとき――。
白い輝きが視界を横切った。
セオドア殿下の白鹿の精霊が、堂々とした足取りで中央の道を歩み出てきたのだ。
その隣には、私の黒猫の精霊ララ。
二体の精霊が並んで歩く姿は神々しく、まるで「この二人は結ばれるべき」と告げているようだった。
参列者から感嘆の声が漏れる。
「精霊が……並んで……」
「これは祝福の証だ……」
私は胸がいっぱいになり、涙をこらえるのに必死だった。
精霊たちはゆっくりと私たちの前を歩き、祭壇へと導いていく。
最前列には父と母である、アーデル伯爵夫妻が座っていた。
母は目を真っ赤にしながらハンカチを握りしめ、父は涙をこらえるように唇を噛み締めている。
兄はというと、不器用に笑いながら袖で目元を拭っていた。
――こんなにも愛されていたのだと、胸の奥が熱くなる。
視線を横にやると、ヴァレンティン公爵夫妻(レオニードと王女エリスティア)が肩を並べて座っていた。
二人は落ち着いた表情で、穏やかにこちらを見つめている。
レオニードの瞳には、どこか遠い痛みが宿っているように見えた。
けれど隣の王女がその手をそっと握り、優しく微笑むと、彼はわずかに頷いた。
――二人もまた、新しい未来を歩み始めているのだ。
ふと、視線の先に小さな姿を見つけた。
ユリウス。
父であるレオニードに抱かれ、きょとんとした顔でこちらを見ている。
ユリウスの小さな子グマの精霊が、嬉しそうにララの足元へ駆け寄った。
ララは「にゃあ」と鳴き、鼻を突き合わせる。
その光景に胸が震えた。
――遠くても、会える。
母としての絆は、決して消えない。
神官の厳かな声が響き渡る。
「セオドア殿下、病める時も健やかなる時も、彼女を愛し、共に歩むことを誓いますか」
殿下は強い声で答えた。
「誓います。セリシア、君を愛し、君と共に生きる」
次に私へと問いかけが向けられる。
「セリシア・アーデル、病める時も健やかなる時も、彼を敬い、共に歩むことを誓いますか」
私は涙を浮かべながら、力強く答えた。
「誓います。私は……セオ様と共に、人生を歩んでいきます」
互いに指輪を交換した瞬間、礼拝堂の鐘が鳴り響いた。
鳴り止まぬ鐘の音とともに、天井のステンドグラスから光が差し込み、白鹿とララを包み込む。
精霊たちは祭壇の前で立ち止まり、振り返って私たちを見つめていた。
まるで「未来への道はここにある」と導いているかのように。
参列者たちの拍手が広がる。
父母の涙、兄の笑顔、王女とレオニードの静かな頷き。
そしてユリウスの無邪気な笑み。
すべての祝福を受けて、私とセオドア殿下は夫婦となった。
――これからは殿下と共に。
そして遠くにいても、ユリウスと共に。
全ての愛を抱いて、私は新しい人生を歩み出す。




