第27話 本当の夫婦
朝の陽が差し込む寝所。
レオニードは、まだ布団に小さく丸まっている王女を見下ろし、思わず息を呑んだ。
昨夜、互いの想いを確かめ合い、初めて「夫婦」となったばかりだ。
その余韻に包まれたまま眠りについた彼女の寝顔は、まるで少女のように無邪気だった。
――こんな姿を、自分に見せてくれるのか。
「殿下。……もう朝です」
そっと声をかけると、布団の中から甘えるような声が返ってきた。
「ん……まだ眠いですわ……」
レオニードは思わず苦笑を漏らす。
普段は凛とした王女である彼女が、今はただの甘えん坊な娘のように見える。
「……今まで、こんなに甘える方だったのですか?」
問いかけると、エリスティアは小さく欠伸をして、ふわりと笑った。
「今までは我慢してましたの。……だって、わたくし、あなたに嫌われたくありませんでしたもの」
その一言に、胸の奥が温かくなる。
これまで自分に遠慮して、抑えていたのか。
真面目に、公爵の妻としてふるまおうとしていたのか。
そう思うと、彼女の可憐さが余計に愛おしくなる。
「嫌うはずがないでしょう」
レオニードがそう答えると、王女は嬉しそうに目を細め、布団の中から両腕を伸ばして彼に抱きついた。
「……大好きですわ」
その囁きに、彼は不覚にも頬が熱くなる。
やがて朝食の席に移っても、王女の甘えっ子ぶりは止まらなかった。
「このパン、切ってくださいます?」
「葡萄の皮も、剥いていただけます?」
小首をかしげながら頼まれると、断れるはずもない。
「殿下、自分でなさるという発想は……」
そう言いかけたレオニードの手は、結局パンを切り、葡萄を剥いていた。
王女はにっこりと笑みを浮かべ、まるで当然のようにそれを口にする。
「やっぱり、あなたにしていただくと、美味しさが違いますわね」
「……そうですか」
呆れ混じりの声を返しながらも、胸の内は不思議と満たされていく。
食事を終えたあと、王女は椅子から立ち上がり、レオニードの隣に腰を下ろした。
「ごちそうさまでしたわ」
そう言って、不意に頬に唇を寄せる。
「っ……殿下……」
驚きの声をあげる彼に、王女はにっこりと微笑んだ。
「今度からは我慢いたしませんの。チュッチュ、してもよろしいでしょう?」
そう言うが早いか、もう一度唇が触れた。
軽い口づけ。だが、心臓が跳ねる。
彼女は本当に可愛らしく、そして恐ろしいほど愛おしい。
ユリウスの子グマの精霊が「くぅ」と小さく鳴き、王女の膝の上にのぼる。
エリスの黒猫の精霊スーも椅子の下でしっぽを揺らし、二匹は仲良く並んで座っていた。
まるで、この新しい絆を祝福しているかのように。
レオニードは、彼女の小さな手をそっと握った。
「……エリス。これからも、よろしく頼む」
「はい!」
王女は子どものように元気よく答え、無邪気な笑顔を浮かべる。
――これが、本当の夫婦。
そう実感するには、十分すぎる朝だった。




