第25話 最後の愛(レオニード視点)
あの日、王命で王女エリスティアを妻に迎えることになった。
本来なら、隣に立つのはセリシアだったはずだ。
初夜のために王女の部屋に向かった時、胸の奥では「減税を実現する夢を諦め、王女に見張られて生きるのか」という思いが渦巻いていた。
だが扉を開けて最初に聞かされた言葉が、すべてを変えた。
――私も、減税した方が国は豊かになると思っています。
意外だった。王家の娘が、減税派の意見を持っているとは。
思わず語り合い、気がつけば夜通し議論をしていた。
そして夜明け前、私は正直に言った。
「……王女殿下。私はセリシアを愛している。だから、あなたを抱くことはできない」
彼女は静かに頷き、受け入れてくれた。
その夜から、私たちは「夫婦」という仮面をかぶりながら、密かに減税のための準備を進めていく仲間となった。
王に密告されないように、寝所で話し合いを重ねた。
――それが、セリシアに誤解を与えていたことなど、思いもしなかった。
本当は、あの頃も今も、私はセリシアを愛している。
だが結婚してから、王女とも気が合い、一緒にいることが心地よいと感じる瞬間が増えていたのも事実だった。
セリシアがいなくなってからは、狂ったように探した。
そして、セオドア殿下から連絡を受け、やっと会えたと思ったら――彼女は事故で記憶を失っていた。
愛しているのに、伝わらなかった。
いや、そもそも伝えようとしていなかったのだ。
今日、彼女が記憶を取り戻したと告げたとき、もう自分のもとには戻ってこないと悟った。
セリシアは「愛人でいるべき女」などではなかった。
彼女は聡明で、誇り高く、美しい女性だ。
彼女自身は「地味で平凡」と思い込んでいるようだったが――学生時代、彼女を狙う男は後を絶たなかった。
そのたびに牽制するのが大変だったのを、私はよく覚えている。
……そうだ。彼女は、誰よりも美しく、誰よりも尊い女性だ。
ならば、自分以外の人と結婚して、幸せになるべきだ。
それが彼女にふさわしい未来だ。
だから、これでいい。
これでいいんだ。
私には、彼女の血を引くユリウスがいる。
彼女の分まで、この子を大切に育てよう。
――それが、セリシアに贈る、最後の愛だ。




