第24話 託す想い
王宮の白い客間は、昼の光に包まれていた。
窓辺から差し込む陽射しが、金色の絨毯にやわらかく反射し、そこに立つ彼らを照らしている。
扉をくぐった瞬間、胸が熱くなった。
そこにいたのは、ユリウスを抱いたレオニードだった。
「……ユリウス」
思わず駆け寄り、腕を伸ばす。
レオニードは静かに頷き、息子を私に託した。
小さな体を抱き上げた瞬間、胸の奥にこみ上げる熱いもの。
「……大きくなったわね」
震える声を必死に整え、微笑む。
ユリウスはきょとんとした顔で私を見つめた。
半年以上も離れていたのだ。まだ赤ちゃんの彼にとって、私は「母」ではない。
それでも泣かず、私の指をぎゅっと握ってくれる。
それだけで、胸が締め付けられるほど愛おしかった。
ユリウスの子グマの精霊がララに駆け寄る。
ララは「にゃあ」と鳴き、子グマと鼻を突き合わせた。
まるで「血の絆は確かにここにある」と伝えるように。
私はその姿に救われ、そっと目を伏せた。
――けれど。
私は決意していた。
「……私は全部、思い出しました」
ユリウスを抱き締めながら、レオニードを見つめて告げる。
「母としてユリウスを愛している。けれど――あの子は、あなたと王女様に育ててもらった方が幸せになれると思うの」
「レオニード。あなたも、本当の意味でエリスティア様と夫婦になった方が、きっと幸せになれる」
レオニードの瞳がわずかに揺れる。
私はさらに言葉を重ねた。
「そして私は……セオドア殿下と共に生きていくと決めました。
彼となら、母としての想いも、女としての想いも、大切にしていけると信じています」
短い沈黙の後、レオニードはユリウスを抱き直し、静かに口を開いた。
「セリシア……君の幸せが、僕の幸せだ。今でも君を……愛している。……ありがとう」
そして、少し優しい声で続ける。
「それと……いつでもユリウスに会いに来ていいからな」
「……本当に?」
「当たり前だ。君はあの子の母親なんだから」
心がほどけるような言葉だった。
私はユリウスの頬に口づけし、髪を撫でる。
「ユリウス。幸せになってね。……お母様は、ずっとあなたを愛している」
ユリウスは意味を理解せず、無邪気に笑った。
その姿に涙は流さず、私はただ強く微笑んだ。
ララが小さく鳴き、子グマと鼻を突き合わせる。
母子の絆は、これからも消えることはない。
私はユリウスをレオニードに託し、静かに言った。
「ありがとう、レオニード。そして……あなたも幸せでいてね」
レオニードは短く「ああ」と頷き、昼の光に照らされたその横顔は、穏やかな決意を宿していた。
扉の外では、セオドアが待っていた。
差し出された手を取ると、彼はそっと私の肩に手を置き、まっすぐに見つめてくる。
「これからは、一緒に生きよう」
私は前を向き、静かに頷いた。
「はい」
昼の光に包まれながら、私は新しい人生の一歩を踏み出した。




