第18話 誤解の真実
部屋には重苦しい沈黙が落ちていた。
レオニードの蒼の瞳が、まっすぐに私を射抜く。
その視線は、切羽詰まった必死さに揺れていた。
「……セリシア。君にどうしても伝えなければならないことがある」
握りしめられた拳が震えている。
彼の声は低く、絞り出すようだった。
「エリスティア王女とは……初夜を迎えていない」
その一言に、胸の奥がかすかにざわめく。
でも、記憶の中に響くものは何もない。
「減税の話し合いを進めたかった。だが……王女が減税派だと王に知られれば、彼女は王から罰せられる。だから、あえて彼女の寝所を借りて、夜に打ち合わせをしていたんだ」
言葉は真摯で、ひとつも嘘を含んでいないように思えた。
それでも――。
「……そうですか」
私は小さく首を傾げ、淡々と返す。
「……でも、記憶がないので、そう言われても……困ります」
レオニードの瞳が大きく揺れる。
彼の必死な言葉と、私の冷たい返答。
それは二人の間に横たわる溝をさらに深くするようだった。
「……セリシア……!」
彼は一歩近づき、声を震わせて叫んだ。
「君が好きだ! 君だけが好きなんだ!」
胸が大きく揺れる。
「王女のことは、なんとも思っていない。王女とはただ、王命で仕方なく結婚しただけなんだ……! 僕には君しかいない!」
蒼の瞳が必死に私を捕らえ、揺らがない想いを訴えていた。
「お願いだ……戻ってきてくれ! ユリウスも待っている!」
彼の声は切実で、震えていて、今にも壊れてしまいそうだった。
隣でクマの精霊が低く唸り、子グマが「くぅん」と鳴いて小さな前足で私の手に触れた。
ララが枕元で「にゃあ……」と悲しげに鳴く。
――けれど。
「……そう言われても……」
私は静かに、けれどはっきりと言った。
「私には記憶がありません。だから、あなたの言葉をどう受け止めていいのか……わからないのです」
胸が裂けそうに痛い。
それでも、口から出たのは冷たい拒絶だった。
「それに……あなたは私に誤解させていてもいいと思っていたんですよね?誤解して傷ついてもいいって。」
視線を伏せ、かすれた声で続ける。
「……そんなにセリシアを信用していなかったのですか?」
レオニードの顔が苦痛に歪み、言葉を失った。
唇が震え、何かを言おうとするが、声にならない。
部屋の空気は張りつめ、重く沈黙する。
彼のクマの精霊は頭を垂れ、子グマは切ない声を漏らし、ララはじっと私を見上げて鳴いた。
胸の奥で、理由の分からない痛みが暴れる。
知らないはずの人を、突き放すたびに。
私自身が傷ついているようで――。
けれど私は、その痛みすら認めることができなかった。




