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公爵の愛人に落とされても、黒猫精霊はいつもそばで守ってくれます  作者: 風谷 華


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第17話 あなたは誰?

 まぶたが重い。

 けれど、かすかな光が差し込むのを感じて、私はゆっくりと目を開けた。


 白い天蓋。見慣れたはずの天井。

 自分の部屋……のはずなのに、どこか現実味がなかった。


 (……私……どうして……?)


 頭に鈍い痛みが走り、記憶が霞んでいる。

 体は鉛のように重く、喉は渇いて声も出しづらい。


 ぼんやりと視線を動かした、その瞬間だった。


 「セリシア!」


 弾かれるように駆け寄ってくる影があった。

 その男は切羽詰まったような表情で私の手を握りしめ、深い蒼の瞳をこちらに向けていた。

 瞳の奥には苦悩と安堵が入り混じり、今にも泣きそうに揺れている。


 私は思わず瞬きをした。


 (……誰……?)


 頭の奥に霧がかかっているようで、その顔に見覚えがあるような、でも何も思い出せない。


 「……あなたは……誰ですか?」


 口から零れた言葉に、自分でも驚いた。

 だが、それは紛れもない本心だった。


 空気が、凍りついた。


 男の表情が固まる。

 信じられないとでもいうように目を見開き、握る手に力がこもった。


 「セリシア……? 僕だ。レオニードだ」


 その名を聞いても、胸の奥には何も響かない。

 ただ空白が広がり、私の心を満たしていく。


 ベッドの傍らに、大きなクマの精霊がいた。

 その背中はしょんぼりと丸まり、落ち込んだ様子で私を見つめている。

 さらに小さな子グマが、とことこと私の枕元までやって来て、切なげな瞳で覗き込んだ。


 (……この精霊……誰の……? どうして、こんなに悲しそうに……)


 答えは出ない。記憶の糸が結び直せない。


 そのとき、胸の上に柔らかな重みが乗った。

 ララが飛び乗り、悲しそうに「にゃあ……」と鳴いた。

 その声は弱々しく、涙に濡れたように聞こえた。

 潤んだ瞳でじっと私を見上げ、まるで「思い出して」と訴えている。


 でも――。


 「……ごめんなさい。私、本当に……あなたを知らないの」


 その一言が、部屋の空気を決定的に変えた。


 レオニードの顔が苦痛に歪む。

 握る手の力が震え、言葉を失ったまま固まっている。

 傍らのクマは重たく頭を垂れ、子グマは小さく鳴いて私の頬を前足でちょんと触れた。

 ララも「にゃあ」と悲しげに声を重ねる。


 胸が締め付けられるように痛む。

 ――どうしてこんなに悲しいの?

 彼のことを知らないはずなのに。


 空虚な記憶の中に、説明のつかない痛みだけが、確かに残った。


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