表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
公爵の愛人に落とされても、黒猫精霊はいつもそばで守ってくれます  作者: 風谷 華


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/31

第10話 すれ違う温もり

 「セリシアさん、今日はユリウスを私に抱かせてくださらない?」


 王女殿下は、いつものように微笑みながら両手を差し伸べてきた。

 私は少し躊躇した後、ユリウスをそっと渡す。


 「ええ……どうぞ」


 殿下は大切そうに赤子を抱き、頬を寄せて微笑んだ。

 その瑠璃色の瞳が優しく細められるたび、胸の奥がずきりと痛んだ。


 ユリウスは嬉しそうに小さな手を伸ばし、殿下の金色の髪をつかもうとする。

 殿下は「まぁ、元気ね」と笑い、その手をやわらかく握り返した。


 (……本当の母親のように)


 私は息を呑む。

 (きっと、罪悪感から……私の夫を奪った負い目で、こうして優しくしているだけ)


 そう思おうとしても、胸に広がるのは別の感情だった。


 (でも……この人なら、ユリウスを幸せにしてくれるかもしれない)


 そう考えた瞬間、心臓がぎゅうっと締め付けられた。

 (近いうちに、私はこの家を出ていくべきだわ。そのときは、ユリウスを王女殿下に託して……レオニードと共に幸せに生きてもらうのが一番いい)


 その決意は、胸をえぐるほど苦しかった。


 ***


 「セリシアさん、お疲れではありませんか?」

 ある日、体調を崩した私を、殿下が見舞ってくれた。


 「薬は私が調合しました。ほら、ゆっくり飲んで」


 銀の匙を持つ指は細く、けれど驚くほどしっかりしていて、額に当てられた布からは清らかな香りがした。

 母に看病されている子供のような感覚が胸に広がり、思わず目を閉じる。


 (どうしてここまで……?)


 その疑問が胸を掻き立てる。

 (やっぱり、後ろめたいから……? だから私にここまで尽くしてくれるの?)


 私はその温もりに身を委ねながらも、心の奥では冷たい不安に囚われ続けていた。


 ***


 ユリラ商会は繁盛し、ユリウスはすくすくと育っている。

 けれど、私の胸に宿るのは幸福ではなく、深い孤独だった。


 (私がここにいなくても……レオニードと殿下なら、ユリウスを立派に育てられる)


 愛する人と、愛する子を手放す決意を抱きながら、私は微笑んでいた。

 けれど、その笑みは誰にも気づかれないほど、弱々しいものだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ