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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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女王直属の騎士

「虚偽の天恵宣告は絶対にするな」


ネミルの神託師登録の際、担当官のカチモさんにきつく釘を刺された。

それだけは絶対にダメだと、何度も言われたのを今でも憶えている。


かつて天恵や神託師が、政治の道具として腐敗の一途を辿った時代が

確かにあった。結果、200年前の「デイ・オブ・ローナ」が発生する

きっかけとなった。その後の世界がどう変わったにせよ、虚偽の宣告は

世界にとって絶対の禁忌となった。

天恵の宣告が廃れた現代でもなお、神託師にとって虚偽宣告は重罪だ。

下手をすれば、殺人よりも重い罪になるらしい。だから俺もネミルも、

その事は常に肝に銘じている。


だけど、逆に言えばそれだけだ。

現代を生きる神託師にとって、真に厳しい決まり事はそのひとつだけ。

語弊はあるけれど、それさえ守れば割と自由に生きていい…って話だ。

時代遅れの存在だからこそ、そこに厳格な規制なんかは存在しない。

だったら、やっていい事と悪い事の境界も曖昧なはずだ。



だからこそ俺たちは、詭弁を貫く。

こんな時にこそ。


================================


「……」


相変わらず気まずい。

だけど俺もネミルも、さっきまでのような弱気な態度はもう見せない。

言いたい事は言ったから、ひたすら強気で乗り切る。


もちろん、主張はめちゃくちゃだ。それは誰よりも理解している。

もう既に知ってるんだから、今さらゴチャゴチャ言うな。そんな理屈、

すんなりと呑み込めるわけがない。ましてやこんな深刻な事態の中で。


だけど、少なくとも俺たちは無理を言っているつもりはない。まして、

ここにいる三人の邪魔をしようとか考えてるわけでもない。ただただ、

協力したいと申し出ているだけだ。そして、嘘は何ひとつ言ってない。


詳しい事情を話せば、確かに納得はしてもらえるだろう。と言っても、

そのためにはニロアナさんの天恵についても言及せざるを得なくなる。

ネミルの持つ天恵コピー能力も割とヤバいのに、他人の天恵を無許可で

使ったなんて知られるのはマズい。下手すれば犯罪者まっしぐらだ。

ならもう「神託師だから」の一点で突破するしかない。説得力の欠片も

ないけど、それでも押し通す。


トーリヌスさんを救いたい。

俺たちの願いはただ、それだけだ。

頼むシュリオさん、リマスさん。



今は、その現実だけを見てくれ。


================================


「分かった。」


長い、数分の沈黙ののち。

そう言ったのはリマスさんだった。


「正直言って納得できない事だらけだけど、君たちが現在のこの状況を

知ってしまっているのは事実だ。」

「……………」

「ならばどの道、このまま君たちを返すわけにはいかない。と言って、

警察に突き出すのも得策じゃない。とすればもう、事態が収拾するまで

この場に留まってもらうしかない。もちろん我々の監視下に置く。」


そこまで行ったリマスさんの目が、シュリオさんに向けられた。


「いいな?」

「ああ。配慮に感謝する。」

「感謝されるいわれはないぞ。」


フンと鼻を鳴らしたリマスさんは、あらためて俺たちに向き直る。

気のせいか、その顔は嬉しそうにも見えた。


「トラン君だったな。」

「はい。」

「君の言う通り、今はゴチャゴチャ言い合っている場合ではない。」

「ですよね。」

「そして君たちが察している通り、我々はトーリヌス・サンドワ氏の

救出を命じられた者だ。もちろん、警察に属しているわけではない。」

「と言うか、騎士ですよね?」

「……………」


ネミルの言葉にリマスさんが黙る。

この人、言い当てられるとけっこう動揺が態度に出やすいんだな。

そんな場合じゃないんだけど、今になってちょっと親しみが湧いた。


「その通り。我々は女王陛下直属の騎士隊に属しています。」


リマスさんに代わりシュリオさんがそう答えた。おお。この人、ついに

正式な騎士になったんだな。何だか感慨深いものがある。…だったら、

店にある鎧を持って帰ってくれないかなあ…邪魔なんだけどなあ…。


「ジークエンスさん。」

「は、はい?」

「トーリヌスさんの事、彼ら二人はもうご存知なんですか?」

「…ええ、ご存じです。」


少し考えたのち、ノダさんは頷いてそう答えた。


「トーリヌス様自身が、会った際に話の中で明かされています。」

「…そうですか。」

「それとあたしの事はノダと読んで下さい。慣れていますので。」

「あ、はい。了解です。」


そんなやり取りを、俺たちは黙って聞いていた。


知っているかというのはもちろん、トーリヌスさんの出自の事だろう。

つまり既に離脱しているけど、元は王家。しかも女王陛下の三男という

驚愕の事実を知っているかどうかという話だ。

それを知っているといないとでは、話がまるで変わってくるのだろう。

言うまでもなく俺たちは知ってる。他でもない、本人から聞いている。

だからこそ、ここに女王陛下直属の騎士が二人もいる理由まで分かる。


女王陛下のご子息を救い出せ。

単純だけどそれで合ってるだろう。

なら、俺たちと目的は同じだ。



ここはひとつ、頼むぜ。

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