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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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オラクレール出張所

あれこれ、ピンと来てなかったのは事実だ。それは否定しない。

勢いのまま引き受けたけど、首都のど真ん中で仕事なんて話、そもそも

イメージできるわけがない。まさに出たとこ勝負というやつだ。


そして正直、ちょっとナメてた感もある。いくら国主催のコンクールと

言っても、そこまで大掛かりな特典はあり得ないだろうと。

甘かった。



銀帝賞は、俺たちみたいな田舎者が想像できる代物じゃなかった。


================================


「ひいっ」

「ほ、本当にここか?」


聞いていた住所は、まさに中心部のど真ん中だった。駅からもすぐだ。

…って言うか、デカい。建物自体があまりにデカい。ここの1階にある

テナントが会場…という話だけど、見た感じ1階全部がテナントだ。


広い。

嘘だろと言いたくなるくらい広い。俺たちの店、何個入るだろうか。

会期は明日からだ。最終調整か何かやっているらしく、中は騒がしい。

いやこれ、入っていいのだろうか?


大荷物を抱えたまま、俺とネミルはしばし立ちすくんでいた。

と、その数分後。


「ああっ、来てたの!?」


憶えのある声が天の救いに思えた。俺たちに気付いたニロアナさんが、

小走りで入口から出てくる。


「声かけてよ!」

「いやその…何か…気後れて。」

「まあそっか、そうだよね。実際、あたしもビックリしてるし。」


そう言いつつ笑い、ニロアナさんは俺とネミルの肩を抱く。


「大丈夫大丈夫。いつも通りの仕事してくれればオッケーだからさ!」

「…了解です!」

「はぁい!」


ようやく実感が湧いてきた。それと同時に、やる気も出てきた。

そうだ。どこであろうと、俺たちの仕事は揺るがない。最善を尽くす、

それ以外には何もない。


気を取り直して頑張ろう。


================================


それにしても広い厨房だ。

今回は個展がメインだけど、きっと飲食メインのパーティーが開かれる

機会も多いんだろう。この会場でのパーティーなら、客は三桁規模だ。

そう考えれば、この厨房の広さにもあっさり納得できる。…とは言え、

明らかに俺の実家のレストランより広い。色々と迷子になりそうだ。


「…まあ、全部使えって話じゃないからね。必要なスペースだけ使えば

それでいいじゃん。」

「そうだな。」


結局のところ、飲み物とかお菓子を用意するだけだ。客が多かろうと、

喫茶店じゃないんだからそれなりに捌けるだろう。心配するだけ損だ。

ってなわけで、準備にかかる。持参した主な食材を用意し、食器などは

ここのものを使う。ストックされている食材は自由に使っていいという

話だった。まあ調味料とかだけど、それでもかなりの大助かりだ。


とにかく広いので、準備もきわめて楽だった。あっという間にいつもの

仕事環境を再現し、ひと息つく。


「準備できた?」

「バッチリです。」

「んじゃあ、ホテルに行っててよ。場所聞いたよね?明日に備えて…」

「いえ、ホテル行ってもする事ないと思うんで、いっそもう今日から

仕事します。」


即答する俺の言葉に、隣のネミルもうんうんと納得顔で頷いた。


「準備してる方々にお茶淹れます。ニロアナさんから伝えて下さい。」

「…いいのね?」

「むしろ、明日からぶっつけ本番でやる方が不安なんで。」

「分かった。じゃあお願いね!」


望むところだ。

俺たちとしても、やる事がある方がずっと落ち着ける。



さあ、ドンと来い。


================================


ほとんどの人に「ずいぶん若いな」と驚かれたけど、今さらって話だ。

まだ半年とは言え、自分たちの店を持って毎日仕事してるんだよ。

こんな贅沢な厨房が使えるのなら、何だって作ってみせるとも。

準備に来ていたのはおよそ20人。個展のスタッフとしては多いけど、

その程度の人数の注文ならば余裕でこなせる。俺たちを甘く見るなよ。


どうやら皆さん、それなりに空腹を抱えて作業をしていたらしい。

まあ無理もない。もう午後の3時を回ってるし、見た感じではけっこう

力仕事もしている。腹も減るよな。


最初こそ様子見のコーヒーや紅茶の注文ばっかりだったけど、そのうち

パンケーキだのサンドイッチだのといった注文が増えてきた。もちろん

準備に抜かりはない。すぐ近くには大きな食料品店もある。明日からの

食材はまた調達できる。なら今日はとにかくウォーミングアップだ。


個展準備もほぼ終わったんだろう。まだ早いけど、ここで夕食を済ませ

そのまま帰ろうという人までいる。思ってた以上に忙しくなったけど、

それはそれでいい。俺たちにとって明日からの自信にもつながるから。


「お土産作ってもらっていい?」


とうとうそんな事を言い出す人まで現れた。職場に持って帰るらしい。

もうこうなりゃ、何だって作るよ。材料費関連はニロアナさん持ちだ。

これで少しでも客が増えるのなら、俺たちとしても嬉しい限りだ。


何よりも。

田舎者である俺たちの出すものを、美味い美味いと食べてくれている。

こういう機会は滅多に来ないから、ハッキリ言ってクセになる。


「さすがはトランとネミル。」


ニロアナさんのドヤ顔も心地良い。



とりあえず、初日は上々だった。

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