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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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掛け値なしの実力で

年末になると、どこも気ぜわしい。

店を始めた俺とネミルにとっては、初めての年越しでもある。

毎年以上に落ち着かないのも、当然と言えば当然だろう。

もちろん、街全体もあれやこれやと忙しい空気に満ちている。

見慣れた地元は言うまでもない。


そして、今いる首都ロンデルンでも事情は変わらない。



かれこれ半年ぶりの来訪だった。


================================


ずいぶん経ってるように思うけど、あらためて振り返るとまだ半年か。

つくづく密度の濃い半年だったと、自分の事ながら実に感慨深い。

前に来た時は、ネミルの神託師登録で本当にいっぱいいっぱいだった。

ちょっと観光っぽい事もしたけど、正直ほとんど憶えていない。

余裕がなかったもんなあ、全てに。


「そうだったよね。」


白い息を吐きつつ、傍らのネミルが感慨深げに頷く。

とにかく自分たちを取り巻く状況に追い立てられ、勢いで動いていた。

至らない点も多かったけど、周りの人たちの支えで何とか乗り越えた。

店を開いたら開いたで、天恵宣告に伴うゴタゴタは後を絶たなかった。

年末という事で感傷的になっているものの、バリバリの現在進行形だ。

今日も明日もこれからも、おそらく騒がしい毎日が続いていくだろう。


まあ、それはそれで楽しい日々だ。


================================


とは言え、人間は慣れる生き物だ。自分の境遇にも、周囲の状況にも。

たとえそれが多少常識外れだったとしても、いつしか慣れる。


人生設計が凄まじい前倒しになり、あたふたと開いた喫茶店の経営も。

ルトガー爺ちゃんの急逝をきっかけにした、ネミルの神託師継承も。

時おりやって来る、得体の知れない天恵の持ち主たちも。

「魔王」という、意味の分からない俺自身の不条理な天恵も。

ネミル自身、他人の天恵を使う事ができるという事実も。


いつの間にか慣れてしまっている。

もちろん突拍子もない天恵には毎回驚かされる。それは事実だ。けど、

「ああ、そうなんだ」という納得もすぐ出来るようになった。要するに

自分なりの向き合い方が確立した。それはネミルも同じだろう。


そもそも天恵というのは、恵神から授けられるちょっと不思議な力だ。

世界中の人が存在を知っているし、否定されるという代物でもない。

麻痺してるとは思いたくないけど、もう今さら驚くって感じじゃない。

まだ半年ではあるけど、それなりに俺たちもこなれてきた…って事だ。


達観してるよなぁと、生意気な事を二人で言い合っていたある日。

俺たちは、全く予想外の話を聴いて心底ビックリさせられた。


そう。

店にやって来た、ニロアナさんに。


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ニロアナさんには、「読心」という超レアな天恵が宿っている。

もちろん本人は宣告を受けていないため、その事実を知っているのは

ネミルと俺だけだ。「盗み見た」と形容されると、かなり後ろめたい。

でもまあ、今それは問題じゃない。恐らく本人も、自分の天恵には全く

興味ないだろうから。


そもそもニロアナさんは、俺たちが子供の頃から絵画教室を営んでる。

もっぱら子供相手に教えてるから、俺たち世代はほぼ全員が習ってる。

ちなみに俺もネミルも、そっち方面の才能ナシと判明しただけだった。

…そんな事はいいとして。

とにかく俺たちにとって、この人は「絵の先生」でしかなかった。

学校に教えに来てた事もあったし、家族でさえもそういう認識だった。


そのニロアナさんが、いきなり店にきて告げた。


「今年開催のマルニフィート展で、銀帝賞に選ばれてさ。」

「は?」


俺もネミルもポーニーも、目が点になった。

言われた意味が何ひとつ分からないという、どうしようもない状況。


マルニフィート展って何?

ってかマルニフィートって、もしかすると女王陛下の事か?

銀帝賞って何?いや、何かの賞だという事だけは想像できるんだけど。

それに選ばれたって、つまり目の前にいるニロアナさんが?

何で選ばれたって?


「ええっと…つまり?」

「マルニフィート展っていうのは、国が催す絵画コンクールの事よ。」

「…それで受賞したと。」

「そう。」

「ちなみにそれって、どのくらいの規模のコンクールなんですか?」

「応募総数2400点。」

「え?」

「応募はプロ限定ね。」

「え?」

「…じゃあ、その銀帝賞というのはどのくらいの賞なんですか?」

「上から三番目。」

「え?…じゅ、受賞人数は?」

「あたし含めて3人。」


「うぇッ!?」


ようやく俺たちは、何かヤバい話を聴いているという事実を悟った。

こんなすごい人が身近にいたとは、夢にも思わなかった。


天恵に毒されてるなあ、俺たち。


================================


女王陛下の名を関する、国内屈指の大規模な絵画コンクール。

それがマルニフィート展…らしい。もちろん俺たちは知らなかった。

って言うか、ニロアナさんが画家だという認識さえほとんどなかった。

どんな絵なのか、想像もつかない。


ちなみに、あとひとつ上の賞だった場合、女王陛下に拝謁する機会が

与えられたらしい。ニロアナさんは別に、残念でもないらしいけど。


「お、おめでとうございます。」

「ありがと。」

「それで今日は…どんなご用で?」

「実は、ちょっとあなたたちの手を借りたい事ができちゃってね。」

「と言いますと?」

「もしかして次作のモデルとか?」

「違う違う。」


大げさに手を振りながら、ニロアナさんは面白そうに笑った。


「ええっとね。」

「はい。」

「…まずはココアちょうだい。」

「え?あっ、ハイただいま。」



うろたえる俺たちを前に、あくまでマイペースなニロアナさんだった。

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