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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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この俺の役割

分かってる事だけど、俺とネミルはまだまだ半人前だ。

自分の仕事はこなせても、そこから逸脱した事情には対処できない。

たとえ魔王の天恵を持っていても、出来ない事はどうしようもない。


「変身」の天恵を持つルソナさんを見つけ出し、その秘密も暴いた。

どういう事情なのかを聴き出す事も出来た。それで今に至っている。

んじゃあここから、俺たちは彼女に何が出来る?



半人前にはどうにもできないよな。


================================


「事情は分かった。」


短い沈黙を破ったのは、他でもないトリシーさんの声だった。


「それで、君はどうしたい?」

「…家に戻る以外の道を探したい。今言えるのはそれだけです。」

「そうか。」

「…………」


俺とネミルは、何も言えなかった。

当然の答えだと思う。って言うか、今の彼女に言える精一杯だろう。


家に戻りたくない、じゃない。

家に戻る以外の道を探したい、だ。少なくとも前を向きたいって事だ。

質問の答えにはなっている。だけど具体的な事は何も言えないだろう。

今この瞬間のルソナさんは、本当に何のアテも持っていないから。


都合がいい話かも知れないけれど、俺たちの視線はどうしても目の前の

トリシーさんに向いてしまう。この件に関しては間違いなく被害者的な

立ち位置だけど、頼れるのがこの人だけだというのも確かだ。

でもなぁ…


「なあ、トラン君。」

「えっ、はい?」


いきなり呼びかけられて、ちょっと間抜けな返しをしてしまった。


「何でしょうか。」

「こう言っちゃ何だが、今の俺には信じるに足る根拠がないんだよ。」

「根拠?」

「この子の言ってる内容が本当だという根拠だ。分かるだろ?」

「…………」


俺たちもルソナさんも黙り込んだ。今度の沈黙はかなり気まずい。


確かにその通りだ。

自分の容姿を無断で使われたという時点で、トリシーさんが不信の念を

抱くのは意外でも何でもない事だ。もちろんそれを責める道理はない。

ルソナさんの話した事情が果たして本当かどうか、裏付けが欲しいのも

当然の話だろう。


だからって、どうすればいいんだ。


裏付けが欲しいと言っても、独白を信じるなら彼女の父は有力貴族だ。

俺たちはもちろん、ただの散髪屋でしかないトリシーさんも軽々しく

接触できない人物である。まして、家の事情なんて間違っても他人には

話さないだろう。聞いた話が事実としたら、なおさら絶望的である。


もし下手な言いがかりを付けたら、それこそこっちの身が危うくなる。


「なあ、トラン君。」

「はい。」

「どうにかならないか?」


冗談半分でも詰問でもない。ただ、トリシーさんは俺に問うていた。

ここまで聞けば俺にだって分かる。きっとトリシーさんは、この点さえ

納得できれば力になってくれると。それを決めるまでの最後の根拠を、

他でもないこの俺に求めてるんだ。

頼まれもしないのに、あえて動いた俺たちだからこそ言うんだろう。


だけど、俺に出来る事なんて…

……………

いや

待てよ。



もしかして…


================================


「じゃあ、ちょっと借りますね。」

「ああ。」

「いいですよね、ルソナさん?」

「はい。」


俺の問いかけに対し、ルソナさんは迷いのない即答を返した。

だったら、俺もきっちり腹を括る。やってやろうじゃねえか。


受話器を取り、俺はルソナさんから聞いた電話番号をダイヤルする。

いつもの電話と比べ、かなり長い。まさに遠方の有力者宅って感じだ。


呼び出し音は、ごく短かった。


『こちら、ラズペス邸です。』


出た。聞いた通りの口調と口上だ。ルソナさんの父親の秘書らしい。

あえて名乗らず、俺は告げた。


「ルソナさんの事で、ご当主と少し話をしたいんですが。」

『…あなたは?』

「ルソナさんを知る者です。どうかお取り次ぎ下さい。」

『まずは名乗って頂きませんと…』


「お願いします、ペダスさん。」

『…………………』


ルソナさんの声を耳にした、電話の向こうのペダスさんが黙る。

本物だって事は判ったんだろう。


しばしの沈黙ののち。


『…少々お待ちください。』


よし。

顔を寄せ合う俺たち4人は、小さく頷き合った。


やがて。


『娘の事を知ってるらしいな君?』


ペダスさんとは違う、男性の声だ。それを聞いた俺は、ルソナさんに

素早く目を向ける。大きく頷いた、彼女のその表情が無言で語る。

電話の向こうに現れたこの男性は、間違いなく彼女の父親らしい。


よし。


『まず、誰なのか名乗ってくれ。』

「何でだよ。」

『…何だと?』

「名乗ったらどうするつもりだ?」

『…ずいぶん不躾だな。己の立場が分かっているのか?』

「そっちこそ分かってんのかよ。」


傍らに目を向けてみると、さすがにルソナさんもトリシーさんも若干

青ざめていた。まあ無理もないな。もちろんネミルだけは涼しい顔だ。

慣れてきている自分がちょっとだけ嫌だけど、ここはもう開き直る。


「てめえのやった事は分かってる。あんまり上からモノ言うなよ。」

『…貴様、誰だ?』

「当ててみなよ、変質者。」


ゾワッ!!


思わず俺は受話器を顔から離した。トリシーさんたちはもちろん驚く。

俺の反応が、理解できないからだ。まあ、見えてるの俺だけだからな。

受話器部分から湧き出てきたのは、今までに何度となく見たあの黒影。

俺に対し、悪意を抱いた証の影だ。


いけると思ってやってみた。結果はご覧の通りってね。見えないけど。


『ただで済むと思うなよ。貴様を』

「ちょっと黙れ。」

『……………』


ひと言で、電話の向こうにいる相手が黙る。よっしゃ!

んじゃ、最後の確認だ。


「じゃ、猫の鳴きまねしてみな。」


それは、間を置かずに返って来た。はっきり言って聞きたくなかった。

野太い声のおっさんが、照れもなく発した猫の鳴きまねなんか。

でも、これで確信が持てた。


俺の「魔王」は、電話越しに相手を支配する事も出来るって事に。



んじゃ、訊かせてもらおうか。

親父さんよ。

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