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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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ニセモノの目的は

「オイ危ねえな!!」

「気をつけろコラ!!」


怒声が聞こえる合間をすり抜ける。

無理もない。今日は休日、商店区はかなり人が多い。その真っ只中を、

二人乗りの自転車で飛ばせば危ない場面は何度もある。…何と言うか、

本当にいらん苦労をしてるなあ。


怒られるかも知れないけど、何だかそういうのが楽しいんだよ。

もちろん、人に迷惑をかける行為が楽しい!と言ってるわけじゃない。

ほっとけばいい事に首を突っ込み、こんなややこしい事態になっている

今が楽しいって話。目を向ければ、背に掴まるネミルも笑っている。

人助けが無上の喜びだとか、そんな立派な心掛けは別に持っていない。

ただ、黙って見過ごすってのは性に合わない。ただそれだけだ。…で、

余計な事に関わってこんなおかしな状況になっている。


だけど、悪くはない。

トリシーさんに会って今のこの状況を見極め、イザ警部が来たおかげで

状況が好転して。その好機を逃さず俺たちは突っ走っている。…正直、

ここに来るまでは何ひとつ見通しが立ってなかったにも関わらず、だ。


強い力を持ってるわけじゃない。

万能の力を駆使するわけでもない。

頼れる人が多いってわけでもない。

それでも、動けば状況は前に進む。間違いなく前に進めているんだ。



楽しいじゃないか、こういうの。


================================


「奴はどこだ?」

「ええっとね…」


言葉を切ったネミルが、目を閉じて集中する。どういう原理で対象者の

位置を把握しているのか、いまいち俺には想像できない天恵だ。


「さっきの場所から北に移動した。割とゆっくり歩いてるよ。」

「ん?…北って事は、別のこの区を離れようって感じじゃないのか。」

「そういう意思は感じない。何だかブラブラしてるだけって感じ。」

「そうか。」


ちょっと相手の捉え方を変える。


トリシーさんに化けてウロつくのは確かに怪しい。が、だからと言って

悪人と決めつけるのは早計だろう。そもそも、本物がいると知っていて

このあたりをウロついているなら、緊張感のカケラも感じられない。


「やっぱり目的が見えないな。」

「だよね。でも、それは今だけかも知れない。何か起こしてしまう前に

止めた方がいいと思う。」

「ああ。」


そこで俺は、自転車を一旦停めた。


================================


「状況を整理しよう。」

「うん。」


そう、俺たち二人は万能でも何でもない。ただの喫茶店経営者だ。

仮にニセモノを捕捉できたとして、考えなしのゴリ押しが通用する…と

安易に楽観してはいけない。場合によっては、危険な事態になる展開も

十分に考えられる。


ネミルの「追跡」によると、相手を捕捉するのは時間の問題らしい。

おそらく相手は徒歩だ。遠くへ行く気配もないから、接触はできる。

しかし、接触するのは街中である。周りに人が多い以上、下手をすると

惨事になるかも知れない。死に戻り天恵のあいつみたいな事は、絶対に

させてはいけない。


「ネミル。」

「うん?」

「確か一昨日の時は、天恵の文字がブレて読めないって言ってたな。」

「そうだった。」

「あれ、今はどうだと思う?」

「うーんとね…」


ネミルは、しばらく言葉を切った。このあたりは俺の専門外だ。黙って

返答を待つ事にする。


数十秒後。


「多分だけど、今なら相手の天恵は読み取れると思うよ。」

「どうしてそう思った?」

「一昨日は、本当に何も分からない状態で見たからね。だけど今では、

少なくともトリシーさん側の天恵はもう分かってる。それを踏まえれば

ダブった文字は読める気がする。」

「よし。」


これはもう信じるしかない。神託師としてのネミルの感覚は残念ながら

分からない。それなら本人の感覚を信じて突き進むだけだ。


「おそらく、天恵を見破った時点で奴は何かしらアクションを起こす。

逆に言うなら、そうなってくれれば奴が異質な存在だって暴けるな。」

「だけど大丈夫かな。もし万が一、その事で相手が逆上したら…」

「その時はその時だ。俺がどうにかして動きを封じる。」

「だね。」


ネミルもあっさり頷いた。


正直、そっち方面の展開はけっこう慣れてきている。一昨日の段階では

俺は奴に相手にされてなかったが、そこはどうとでも煽れる。…正直、

自分が変な意味で魔王っぽくなってきてるような気もするんだよなあ。

まあ、それは今は別にいい。


むしろ問題は、逃げられた時だ。

いくら相手が油断していても、俺とネミルの姿を見れば多分警戒する。

何とか捕捉出来れば、ネミルの力で天恵を見極める。しかしその場合、

天恵を見るために「追跡」の天恵をひとまず手放さなければならない。

その後で逃げられた場合、俺たちは奴を感知する手段を失っている。

もう一度トリシーさんの店に戻り、ネミルがイザ警部の天恵をもう一度

取得する必要があり…


そんな呑気な事、やってられるか?本気で逃げられたら終わりだぞ?

でも正直言って、この人ごみの中で追跡なんかできるわけがない。

下手すりゃ、またさっきみたいに…


「待てよ。」

「どうしたの?」

「ちょっと思いついた事がある。」


そうだ。

どうせなら、とことん開き直ろう。

よし!


「ちょっと道草だ。いいな?」

「ちゃんと説明してよ。」

「ああ。じゃ行こう。」


俺は、再び自転車をこぎ始めた。



待ってろよ、ニセモノ。

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