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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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捜索への突破口

何事も前向きに捉えるのが大切だ。


少なくとも、ひとつの大きな懸念が解決したのは間違いない。つまり、

今以降のトリシーさんのアリバイに対する心配が、ほぼ無くなった。


「刑事の散髪をしていた」なんて、俺たち二人が証言するよりよっぽど

信用度が高い。もしあのニセモノがあの姿のまま見つかったとしても、

イザ警部と一緒にいた方が本物だ、という確信は揺るがないだろう。

床屋談義なんて、言わば本人確認を延々と繰り返してるようなもんだ。

非番とは言え、警部があの店に来てくれたのは間違いなく僥倖だった。


そして、定まらなかった俺たち側の行動方針も、否応なしに決まった。

ざっと考えるに、イザ警部の散髪が終わるまでの所要時間は2時間弱。



それまでに、ニセモノを捕まえる。


================================


「ネミル。」


正直、訊くのがちょっと怖い。でも訊かないわけにはいかないだろう。


「ずいぶん迷いなく店を出たけど、何かしら心当たりはあるのか?」

「心当たりはないよ。」

「ないのか。」


覚悟していたせいか、さほど落胆は大きくなかった。しても仕方ない。


「…それじゃあ、とにかく探すって腹か?」

「心当たりはないけど、ニセモノがどの辺にいるかは分かってる。」

「は?」

「割と近いよ。このカーゲ区の南端にある公園。」

「いや、何で判るんだよ!」


また極端に落として上げてきたな。

心当たりがないって割に、めっちゃ具体的な位置を特定してきた。


「もちろんコレで。」


ドヤ顔でネミルがかざしたものは、やっぱり爺ちゃんの指輪だった。


================================


「…つまり天恵か?」

「そう【追跡】。資料にも載ってたから、トランも知ってるでしょ?」

「…ああ、まあ。」


確かに、読み込んだ資料の中に昔の事例が記載されてたっけか。


一度でも遭って姿を見た相手なら、大雑把な所在地を感知できる力だ。

当然、距離的な限界はある。しかし一方、近ければ感知精度も上がる。

もしこのカーゲ商店区にいるなら、細かい位置も特定できるだろう。


だけど、根本的な疑問が残ってる。


「お前その天恵、いつどこで誰から拝借したんだよ。」

「つい今しがた、お店で。」

「え?トリシーさんの店でか?」

「そう。」


何だと?


トリシーさんの天恵は「潜水」だ。それはついさっき聞いたばかりだ。

あの人じゃないとすると、誰の…

え?


「ちょ…もしかしてその天恵って、イザ警部のか!?」

「ビックリだよね。」

「マジかよ!」


思わず声が裏返ってしまった。


刑事の天恵が「追跡」!?

究極の適材適所じゃねえかよ!!

そんな事、実際にあり得るのか!


「うわぁ教えてぇ!!」

「だよねぇ!」


しばし二人で見悶えた。

もしあの人が天恵を得れば、仕事にフル活用できるのは間違いない。

悪用するような人でもない。きっと大活躍してくれるだろう。


だけど、勝手に教えるってわけにはいかない。それは絶対許されない。

盗み見ただけでもかなりアウトだ。本人が望まない限り、この天恵が

陽の目を見る日は決して来ない。

何なんだよ、このもどかしい話は。


「しゃあない、切り替えよう。」

「うん。」


何とも言い難いけど、とにかく今は非常にありがたい能力だ。



存分に使わせてもらおう。


================================


とは言え、街はそれなりに広い。

相手も移動しているらしい。なら、とにかく機動力の確保が先決だ。


「レンタサイクルがあったよな。」

「あったあった、確かこっちに…」


探すほどもなく、ここに来る途中で見かけたその店まですぐ戻れた。

自転車にはとても乗れなさそうな、横に広いおばさんが経営している。


「すみません、二人乗り用のタイプありましたっけ?」

「あらぁ自転車デート?青春ねえ。もしかして告白を狙ってる?」

「いや許嫁です。同棲してます。」

「えっ」


とたんに表情がすっぽ抜ける。

いや露骨過ぎるだろ。客商売何だと思ってんだこのおばさん。


「急いでるんで。小回りが利いて、乗りやすいタイプお願いします。」

「…何に使うの?」


あからさまに声のトーン下がった。面倒臭いなこのおばさん!

しゃあない、ゴシップ燃料追加だ。


「容疑者の追跡です。」

「えっ…分かったちょっと待って!いいの貸したげるから!」


割とチョロいな、このおばさん。

ちょっと好きになってきた。


================================


異界の知は偉大だ。特に、自転車に関しては本当に発展が凄まじい。

格安で借りられた二人乗りタイプに乗り、俺は急いで店を出た。


「乗れネミル!」

「はぁい!」


店の外で待機させていたネミルが、待ってましたとばかりに飛び乗る。


「それじゃ!」

「大事に乗りますんで!」

「いいのいいの!ぶっ壊してくれて構わないから!」


おいおい。

惚れるなあこのおばさん。


「その代わり、結果教えてね!」

「はあぁい!」


元気に答えるネミルを後ろに乗せ、俺は一気にペダルを踏み込む。



さあ、追跡開始だ。

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