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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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好ましからざる事態

「…うん?」


トリシーさんに、特に怒ったような気配はなかった。ただ、怪訝そうな

表情を浮かべて問い返す。


「変わったお願いだな。そもそも、嬢ちゃん神託師なんだろ?」

「そうです。」


即答したネミルは、トリシーさんの目をまっすぐ見返して続けた。


「…ちょっと失礼とは思いますが、トリシーさんは過去に天恵の宣告を

受けてらっしゃいますよね?」

「え?ああ、受けてるよ。そうか、ルトガーさんに聞いてたのか?」

「いえ、祖父からは特に何も聞いていません。」


言いつつネミルは小さく首を振る。


「これは神託師としての、あたしの力です。プライバシーに触れるので

天恵の内容までは見ていませんが、少なくとも宣告を受けているかは

見分けられるんですよ。」

「なるほど、そういう事か。で?」


頷いたトリシーさんの目が、今度は傍らに座る俺を捉えた。


「それは分かったけど、どうして今この俺の天恵が聞きたいんだ?」

「ちょっと事情がありまして、知る必要が生じたんです。…もちろん、

誰かに無断で話したりはしません。このまま見る事も可能なんですが、

出来れば本人の許可が欲しいと思う次第でして。」

「けっこう切実な話なのか。」

「場合によってはそうなるかも…という感じですね。」

「分かった。」


もう一度だけ頷いたトリシーさんの顔に、意味ありげな笑みが浮かぶ。


「別に話すのは構わない。だけど、せっかくなら当ててみて欲しいね。

嬢ちゃんが本当に、ルトガーさんの遺志を継いでいるのかを見たい。」

「承知しました。」


おそらく、そんな事を言われるかもという予想はしていたのだろう。

迷いなく元気よく答えたネミルが、指輪をそっと確かめて集中する。

おなじみの間を挟み。


「トリシー・ハガックさん。」


瞳を赤く発光させながら、ネミルはゆっくりと告げた。


「あなたの天恵は【潜水】です。」



…は?


================================


「お、お見事だねその通り。」


当たったらしい。満足そうな笑みを浮かべたトリシーさんが頷いた。


「俺の天恵は【潜水】で合ってる。いやあ、口にすると懐かしいな。」

「ええっと…」


遠慮がちに俺は質問した。


「それは、ルトガー爺ちゃんが宣告した天恵なんですか?」

「そうだよ。かれこれもう20年も前になるかなぁ。…親父が宝くじで

けっこうな金を当てたんで、勢いで俺の天恵見ようって話になってな。

まあ単なる話のタネだよ。その頃、もう俺は今の仕事を継いでいた。」


昔を懐かしむように、トリシーさんは目を細めて語る。


「で、出たのがこの天恵だ。実際にやってみたが、確かに2時間くらい

息継ぎなしで水に潜っていられる。なかなか驚いたよ。これが天恵か!

って感じでな。」

「それで、どうしたんですか?」

「どうもしないって。」


勢い込むネミルに、トリシーさんが笑って手を振った。


「散髪屋が水に潜れるから何だって話だろ?漁師に転職する気もない。

別に水泳が好きってわけでもない。持ってたって何の役にも立たない。

そりゃ考え次第で何かしら使い道は見つかるだろうけど、そんなヒマは

俺にはないよ。興味もないしな。」

「ですよね。」


俺も納得するしかなかった。

まさに、用なし天恵の典型だろう。笑い話にする以外、思いつかない。

ってか、ルトガー爺ちゃんは生前、こんな天恵の宣告もしてたんだな。

意外と他人の人生なんて、知らない事ばっかりだ。

ともあれ。


「ありがとうございます。」


お礼を述べたネミルが、あらためて俺に視線を向けて頷く。

これでハッキリした。


トリシーさんは天恵持ちで、一昨日店に来た「あれ」とは別人だと。


================================


「俺のニセモノだって?」

「ええ、多分そうだと思います。」


俺たちの説明に、さすがのトリシーさんも目を丸くした。


「見た目は完全にあなたでしたが、天恵がまともに読み取れなかった。

おそらく、何らかの天恵の力で姿を変えているんだと思います。」

「おいおい、何の冗談だよそりゃ。俺に何か恨みでもあるのか?」

「見当もつきません。」


問われても、そう答えるしかない。今の俺たちにも事情は分からない。

でもとにかく、これからすべき事は明確になった。


「目的は分かりませんが、あいつはあなたの姿を完全に模しています。

つまり何をするにせよ、その結果があなたのやった事として他の誰かに

認識されてしまう事になります。」

「いよいよ冗談じゃねえな…。」

「そうです。」


そこで俺は語気を強めた。


「冗談ですまない冤罪もあり得る。だから、何をさて置いてもあいつを

探し出す必要があります。とにかく確保して、それから調べないと。」

「分かったけど…どうする?警察に相談するか?」

「うーん…」


そこで、俺もネミルも言い淀む。


確かに、シャレにならない事態だ。

でも一方で、実際にニセモノを目撃したのは俺とネミルの二人だけ。

この状況で警察に、大規模な捜索を依頼するのはリスクが大き過ぎる。

かと言って、俺たちとポーニーだけでは探せる範囲に限界がある。


もたもたしてたら、トリシーさんに本当に冤罪がかかる事もあり得る。



どうにも難しい局面だった。

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