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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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手紙と同封されたものと

ルトガー爺ちゃんは神託師だった。それは物心ついた頃から知ってた。

もっとも、その意味なんてほとんど考えた事もない。「シンタクシ」と

ただ名前だけで受け入れていた。


だけど爺ちゃん本人は、その時既にネミルが自分の跡継ぎだという事を

認識していた。当然の事実ながら、全く態度には出してなかったなあ。

どんな気持ちで成長を見守っていたのか、今となっては分からない。


それでも、己の死後の事についてはそれなりに色々考えてたんだろう。

親父さんに言づけていた事なんかはその一端だ。…まあ正直なところ、

ならもうちょっと家を片付けとけよと文句つけたいところだが。


だけど、この手紙が見つかった事に対しては、ちょっと畏怖を感じる。

俺がここにいる事を見越していたとすれば、それはもう予知の領域だ。

それだけ本心を見透かされていた、とも言えるけど。


ホントに食えない爺ちゃんだぜ。


================================


とりあえず作業を中断し、俺たちは手近な椅子に座った。問題の手紙を

ネミルから受け取る。予想したほど重くはなかった。


「…んじゃまあ、開けてみるか。」

「うん。早く!」


急かされた。どうやらネミルも中身がかなり気になっているらしい。

腹を括った俺は、ハサミで封を丁寧に開け、その中身を取り出した。

入っていたのは2枚の手紙と…


「指輪だな。」


そう言いつつ、俺は転がり出た指輪を摘まみ上げてみた。飾り気などは

一切ない、シンプルなデザインだ。オレンジ色の石がはまっているのが

唯一の特徴と言える。しかしこれ、どう見ても俺の指には合わないな。

試さなくても小さ過ぎる事が判る。


「見せて。」

「ああ。」


ネミルに指輪を渡して、俺は手紙を開いた。もうちょっと大きな文字で

書いてくれと言いたくなる文章が、びっしり並んでいる。爺ちゃん…!

まあ文句を言っても仕方ない。今はとにかく読むしかないって話だ。


どれどれ…


================================


『トラン君。』


読み始めると同時に、隣のネミルもしゃんと背筋を伸ばした。


『君がこの手紙を読む頃にはもう、わしはこの世にいないのだろう。』

「……」


ネミルが俯く。ああ、ちょっと読み進めるのがつらい代物なのかも…


『だよな?当たってるよな?わしは死んどるよな?どうじゃ当たりか?

見事当たったなら感心してくれよ。大した先見の明だったとな。』

「…………」


なんか様子がおかしくなってきた。

このノリは何なんだよ。湿っぽい話よりはいい…のか本当に?

とにかく読もう。視線が痛い。


『今、隣にはネミルがおるだろう。おるよな?おるなら拍手喝采じゃ。

このわしの慧眼に恐れ入ったと』

「ねえ、ずっとそんな調子なの?」

「そう書いてあるんだから仕方ないだろ!」


なんか、違う意味でいたたまれなくなってきた。ドヤ部分を読み飛ばし

とにかく本題らしき箇所をを探す。…いい加減にしてくれ爺ちゃん。


『…さて本題じゃが、同封していた指輪は、君に贈る物ではない。』


やっぱりそうか。だとすると…


『察したと思うが、それはネミルのためにわしが作った。神託師を継ぐ

その日のために、長い歳月をかけて作り上げた一品物なのじゃよ。』


思ったとおりだった。

これは爺ちゃんがこの俺に託した、ネミルへの形見だったって事だ。


なるほどな。


================================


神託師を継ぐための指輪か。何だか心をくすぐられるアイテムだな。

あの器用な爺ちゃんだ。そのくらい作れてもおかしくない気はする。

さて、じゃあどんな代物なんだ?


『じゃがうかつに指にはめるな。』

「え?」

『一度はめると二度と外れない上、魔石には膨大な魔力が宿っておる。

それは指から生命力を吸い尽くし、やがて死に至る恐ろし』


「きゃあぁぁァァどうしよどうしよはめちゃったあぁぁァァ!!!!」


ガン!


「痛てっ!!」


いきなり背中を殴られた。あわてて目を向けると、指輪をはめたらしい

ネミルが完全にパニックを起こし、手を振り回していた。


「いやあぁァァァ死ぬ死ぬどうしよどうしよ助けてえぇぇぇェ!!」

「落ちっ、落ち着けって!!」


何てもんを遺すんだあのジジイは!

とにかく先を読んでこの事態の対処を考えないと!!

ええっと…!!


『というのは嘘じゃ……え?』


え?

ネミルの絶叫もピタリと止まった。


「…へ?」

『信じたか、ビビったか?冗談じゃ冗談ハハハハハ…痛ッてぇっ!』 


思いっきり背中をつねられた。

涙目のネミルが、外した指輪を掌に載せてジトッと俺を睨んでいた。


「どういうつもり?」

「いや俺はただ読んでるだけだよ!そんな目で睨むな怖い!!」


================================


………………


殊更に沈黙は長かった。

だけど、お互いに形容しようのない表情を浮かべるのも限度だった。


「って言うか…」


手紙に視線を落とし、俺はポツリと呟いた。


「何か俺たち、手紙でおちょくられてんじゃないか?」

「うん。」


次の瞬間。

俺たちは、ほぼ同時に吹き出した。もはや笑うしかなった。

ったく、つくづくあの爺ちゃんには勝てない。何だってんだまったく。

暗い気持ちも吹っ飛んじまったよ。


たちの悪い悪戯ではある。だけど、その裏にあった気持ちは伝わった。

肩肘張らずに読んでくれ。爺ちゃんは多分そう言いたかったんだろう。

振り回されたけど、そんな不器用な心遣いは確かに受け取った。


さあてと。


おそらく、ここからが本題だ。

この指輪が何なのかを、きっちりと教えてもらおうか。

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