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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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トリシーさんの店へ

翌々日は定休日。

いつもなら存分に羽を伸ばす日だ。


しかし、やはり気になる事は放っておけないのが俺たちの性分である。

本来なら、宣告された天恵に対する責任は当事者にある。誰から見ても

明らかな話であり、神託師が余計な気を回す必要なんかないのだろう。

実際、昔ならそんな風に割り切った考え方が普通だったんだと思う。


それでも、今は今だ。

天恵宣告自体が滅多に行われない、こんな時代に生まれたからこそ。

ネミルも俺も、そんな数少ない相手を「やりっ放し」にしたくはない。

世の中の常識がどうという問題ではなく、現代を生きる俺たちが自分で

決めた流儀ってやつだろう。


お節介と言われようと、天恵宣告に対し最低限のアフターケアはする。



それは、俺たちのためでもある。


================================


ってわけで、俺とネミルは午後からカーゲの商店区まで出向いていた。

目的はもちろんトリシーに会う事。一昨日の事を質問すると言うより、

とにかく彼本人がどういう状況かをこの目で確認するのが目的だ。

店の所在はちゃんと憶えているし、転居したという話も聞いていない。

普通に訪ねて行けば、多分問題なく会えるはずだと踏んでいた。


「いつ来ても賑わってるよね。」

「そういう場所だからな。」


店を持って間もない俺にとっては、いささか気疲れする場所でもある。

あまり目移りしないように心がけ、まっすぐにトリシーの店を目指す。

記憶が曖昧でちょっと迷ったけど、何とか目当ての理髪店に到着した。


さてと。

何が出てくるか。


================================


カラン!


俺たちの店より太い鐘の音が響き、同時に子供の頃の事を思い出した。

そうそう、何度も来てたな。父親に連れられて、割と嫌々だったっけ。

あの頃のトリシーさんの顔立ちも、今さらハッキリと思い出せた。


「いらっしゃい。」


ちょうど客のいない時間帯だった。新聞を読んでいたらしい奥の男性が

俺たちの方に向き直る。間違うはずもない。一昨日俺たちの店に来た、

トリシーさん本人だった。


「…お、もしかしてマグポットさんとこのトラン君か。久しいねえ。」

「ええ。お久し振りです。」

「そういやあ、ルトガーさんとこで喫茶店開いたんだったっけな。」

「おかげ様で何とかやってます。」

「よく来てくれたな。」


にこやかな挨拶を交わす俺たちを、傍らのネミルがじっと見ていた。

困惑している様子はなかった。


もちろん、今の状況は見た目以上に異常である。

一昨日店に来たはずのトリシーさんが、明らかに久し振りといった態で

俺と話している。もうこの時点で、一昨日の来訪者がこの人だ…という

確信が崩れてしまってるって事だ。そして俺もネミルも、来る前に既に

この展開は予想していた。ある意味「望んでいた」とも言えるだろう。


この人がおかしくなっているのか。

それとも、そもそも来訪者はこの人じゃなかったのか。


冷静に見極める。


================================


「何だ、切るほど伸びてないな。」

「ええまあ、実はそうなんです。」


ちょっと怪訝そうなトリシーさんに対し、俺は言葉を濁した。確かに、

散髪をしに来たわけじゃないから。


「ちょっとお話がありまして。」

「どうしたどうした。まあとにかく座りな。お嬢ちゃんも。」

「ありがとうございます。」


おそらく完全な客の切れ目だろう。トリシーさんは俺たちに席を勧め、

自分も客用の椅子に座った。


「ええっとですね。」

「茶でも淹れるか?」

「あ、持ってきましたんで。」


そこは抜かりない。さっと手早く、コーヒーを淹れて振る舞う。


「美味い。…さすがだねえ。」

「まあ、本職ですからね。」


俺もネミルもニッと笑う。

そうそう。こういう雰囲気作りも、俺たちの仕事には必要なんだよな。


さあて、場が整ったな。


================================


「時にトリシーさん。」

「うん?…って言うか、俺の名前を知ってたんだな。」

「ええ、機会がありまして。」

「それで?」

「ネミルの事はご存知ですか?」

「ええっと、確か…ルトガーさんの跡を継いだお孫さんだったっけ?」

「そうです。」


答えたネミルが、俺に目を向ける。


「…今では彼の許嫁として、一緒にお店を切り盛りしています。」

「ほお!そりゃ隅に置けないな。」

「つまりネミルは、トリシーさんもご存じの通り神託師を継いでます。

ルトガー爺ちゃんの跡をね。」

「子供じゃなくて孫が継いだのか。若いのに大したもんだな。」

「ええ。そこは事情がありまして。まあ何とかやってます。」


散髪屋というのは、割と街の事情に精通している人が多い。やっぱり、

床屋談義というのはいつの時代でもあるもんだ…と親父も言っていた。

ネミルと爺ちゃんの事も、やっぱりこの程度までは知ってくれていた。

なら、もう本題に切り込もう。

あまり回りくどいのはよくない。


「…それで、トリシーさん。」

「どうした?」

「ひとつお願いがあるんですが。」


そこでネミルが居住まいを正した。


「…すみませんが、あなたの天恵を教えてもらえませんか。」


そう。

こういう時は、直球で推し進める。



それが俺たちのやり方だ。

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