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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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もうひとつの答え

沈黙は、ごくごく短かった。


「…勝手な事を言う輩しかいない。このお店は何なんです?」

「神託カフェですよ。」


呆れ声のオーウェに、俺は迷いなくしれっと答えた。

自分でも驚くくらい、間髪入れずに生意気な答えを返せたと思う。


「え…お…オーウェ様?」

「あの…」


困惑気味のケイナたちには答えず、オーウェは俺を凝視していた。

睨んでいるのではなく、ただじっと俺の目を見据えていた。

見返す俺は、さぞかし生意気な顔をしている事だろう。自分でも判る。


でも、それでいいと思っていた。

思いきり生意気な事を言った以上、下手に取り繕うべきじゃないと。

少なくとも言行一致を貫け。自分が口にした事が正しいと思うのなら、

最後まで意地を張り通せ。


いつだったか、ルトガー爺ちゃんもそんな事を言ってた覚えがある。

俺はそれを信じる。


何よりも。

まっすぐ俺を見るオーウェは既に、影の片鱗さえまとっていなかった。

さっきまでとは違う。恐らく、今の彼女に「魔王」の天恵は効かない。



俺に対する悪意が消えていた。


================================


「帰りましょうかサトキン、それにケイナ。」

「はっ?」

「えっ?」


視線を俺に向けたまま放たれたその言葉に、二人の目が点になった。

その唐突さに、ネミルの目まで点になっている。まあそうだよな。

だけどオーウェの声にも表情にも、さも当然という開き直りがあった。


「ケイナ。」

「は、はい。」

「ここへは天恵宣告を受けに来た。そうでしたね?」

「は…い。」

「じゃ、もう用は済んだわけだから一緒に帰りましょう。何だったら、

帰りに何か美味しいものでも食べに行きましょう。三人で。」

「え…………」

「オーウェ様。」

「何ですかサトキン。」

「それオゴリですか?」

「もちろん。」

「じゃあ、ご一緒させて頂きます。いいよなケイナ?」

「はい。……行きましょう!」


そこでようやく、ケイナも笑った。


「遠出した挙句に、難しい話はもうたくさん!さっさと帰りましょう。

こんなお店、二度と来ないわよ!」


愉快そうに笑いながら、オーウェは俺を指差して言った。


「もうちょい接客態度を考えた方がいいですよ、ご店主。」

「ご意見ありがとうございます。」


俺も笑って応えた。


「お勘定お願いします。」

「あっ、ハイただいま!」


弾かれたようにネミルが歩み寄る。

やれやれ。



厄介な客だったな。


================================


「またのお越しを。」

「だから来ませんってのに!」


わざとらしく声を揃えた俺とネミルに、オーウェは苦笑して答えた。

ローブを抱えたケイナとサトキンも笑みを浮かべ、深々と頭を下げる。


「ありがとうございました。」

「また来てくださいね。」

「もちろん来ます。」


「ほら、少し彼女を見習って素直になりましょうよ。」

「結構です!行きましょう!!」

「はい!」


しつこい俺に手を振り、オーウェは二人を伴って歩き出す。

迷いのない足取りで。

俺たちは、振り返らずに去っていく三人をじっと見送っていた。


そうだ。

結局、自分たちで決めるしかない。これまでの事も、これからの事も。

おそらく、前例なんかないだろう。「死者蘇生」の天恵の持ち主自体は

過去にいたかも知れない。だけど、それで孤児院を作ってしまった人は

史上初だと思う。そんなぶっ飛んだ事をやれる人間はそうそういない。


だったら、胸を張ってくれ婆さん。

俺なんかが偉そうに言う事じゃないのは分かってる。だけど少なくとも

間違った事を言ったつもりはない。だったらあなたの言葉にしてくれ。

今に至るまで、苦しい嘘をついてもネクロスの子らを護ってきたんだ。

胸を張って向き合えば、きっとまた新しい明日が見えるはずだから。


「大丈夫だよね。」

「そう信じようぜ。」

「うん。」


通りを曲がり見えなくなった三人に思いを馳せ、俺たちは頷き合った。


さて。



じゃあ、俺たちは俺たちの現実に。


================================


チリリン。


店の中へと戻り、俺は息をついた。と言うか、呼吸を整えた。

今日という日はまだ終わってない。さすがにもう、店は閉めるけれど。


今の俺は、正面から向き合う問題をもうひとつだけ抱えている。

目の前のホージー・ポーニーだ。


『お見事だったわね。』

「おかげさまで。」


今回の件が終わったからと言って、逃げ隠れする気は一切ないらしい。

俺としてもその方がありがたい。


「それで、ポーニー。」

『うん?』

「あなたは一体、誰なんですか?」


俺のこの問いを耳にしたネミルも、さすがに驚いた様子はなかった。

ある意味、俺よりずっとポーニーの変化に困惑しているだろうからな。



もう、本人に訊くしかない。


================================


沈黙は、ごくごく短かった。


『面と向かって訊くんだ。』


俺の顔を見返しながら、ポーニーがそう呟いた。

俺は黙って次の言葉を待つ。


『…って言うか、それなりに見当はついてるんじゃないの「魔王」?』

「ええまあ、それなりには。」


口にして初めて、声が上ずっているのを感じた。まあ、そりゃそうだ。

緊張するなという方が無理な話だ。

見当がついていると看破されているなら、答えは出されたも同然だ。

とすれば、今の俺とネミルはかつてないほどヤバい状況にある。


だけど、今さら後には退けない。


「見放したりはしてない」

「死んだ人間に天恵は授けない」


オーウェに対し彼女が最初に言ったのは、そんな言葉だった。


見放す?

授ける?


どうしてそんな表現を使う?


なぜ「見放される」じゃないんだ。

天恵は「授けられる」ものだろう。


そんな表現を当然のようにする存在など、世界にただ一人しかいない。

いや、一人と言うべきかどうかさえ俺には計り知れない。

だけど、答えはもう見えている。


………………………………


「恵神ローナ、ですね。」

『ご明察。さすがだね魔王。』



答えは、あっさりしたものだった。

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