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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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この場は俺次第

「サトキンさん…」


沈黙は短かった。

破ったのは、先に入って来た少女の方だった。


やっぱり知り合いなのか。


「捜したぞ、ケイナ。」


言いながらフードを脱いだ男性は、思ったよりは若かった。それでも、

俺とネミルより間違いなく年上だ。短く刈り上げた頭と、右目の横の

小さな丸いタトゥーが目を引いた。


「オーウェ様も心配なさっている。さあ帰ろう。」

「ちょっと待って下さい!」


ローブの上から掴まれそうになった手を素早く引っ込め、「ケイナ」は

パッと身を引く。その結果、ローブだけが「サトキン」の手に残った。

下に着ていた服は、至って普通だ。そんな事を冷静に観察してる自分が

何だか妙におかしかった。


「あたしは天恵を知りたいんです。ちゃんとそのためのお金も貯めた。

別にいいでしょうそのくらい!」

「村の掟に反する行為だ。そもそもなんで、そんなどうでもいいものを

知りたいと思ったんだ?」

「15歳になったからですよ!」

「それは理由になってないだろう!お前だってそのくらい」


「ちょっと!!」


いきなり響いた第三者の声に、場を無視して言い合いをしていた二人が

ビクッと反応する。声を上げたのはネミルだった。…若干怒ってるな。


「失礼ですよ。」

「あっ…すみませんお騒がせして。すぐに退散しますので」

「そうじゃない!」


ますます鋭い声でネミルが怒鳴る。まあ、無理もないだろうな。

はっきり言ってやれ。


「天恵の宣告を、どうでもいいものと形容するのは恵神への冒涜です。

神託師の目の前でそんな暴言を吐く行為は、断じて許せません!」

「………………」


気圧されたサトキンは黙り込んだ。さすがに己の失言を悟ったらしい。

そういう事だ。

天恵が廃れたと言っても、恵神への敬意を忘れていい事にはならない。



俺の許嫁は、立派な神託師だぜ?

言葉には気をつけろ。


================================


「失礼致しました。」


そう言ってサトキンは頭を下げた。どうやら、ここで逆ギレするような

横暴な人間ではないらしい。一方でケイナは、彼と距離を置いている。

分からない事だらけの状況だけど、少なくともちゃんと意見をし合える

関係らしい…というのは察した。


「ケイナ。」

「…何ですか。」

「オーウェ様たちももうすぐここに来られる。わがままは終わりだ。」

「……ッ!!」


どうやら迎えが来るらしい。目立つ格好をしていたとは言え、あっさり

所在を突き止められたのは事実だ。恐らく彼らには「そういう関係」が

根差しているんだろう。


「お騒がせして申し訳ない。」


俺たちの方に向き直ったサトキンの口調に、他意は感じられなかった。


「…お見苦しい姿を晒しましたが、我々にも事情があります。どうか、

今回の事はお忘れ下さい。もちろん相応の弁償はしますので。それを」

「ちょっと待って下さい。」


今度は俺が言葉を遮る。サトキンはまたかという表情を浮かべたけど、

言いたい事は言わせてもらう。


「とりあえず、そっちのケイナさんからココアの注文を受けてます。」

「は?」

「注文を受けた以上、飲んでいってもらわないと困るんですよね。」

「いや、ですから弁償はすると…」

「弁償って何なんだよ。」


俺は、口調に不遜な響きを込めた。


================================


「そもそも、何で俺たちがあなたの話だけを信じると思うんです?」

「…どういう意味ですか。」

「そのまんまですよ。」


そう言いながら、俺は入口のドアに目を向けた。


「あなたたちにどういう事情があるのかは知りません。…って言うか、

俺たちはそもそもあなたたちを全く知らないんですよ。店に来たのが

前か後か。違いは本当にそれだけ。それであなたの話だけを信じろと

言われても、無理な相談です。」

「私を信じないと?」

「それ以前の問題でしょう。」


俺はサトキンに即答した。


「同じローブを着てたってだけで、何をどう信じろって言うんですか?

下手すりゃ、カルト集団から脱走を企てたのかも知れないでしょう。」

「!!…あなたは何の権利があってそこまで出しゃばった事を!」

「いいからちょっと黙れよ。」


激昂しかけたサトキンは、俺のそのひと言でぐっと押し黙った。

唐突な沈黙に、ずっと身を固くしていたケイナが怪訝そうな顔になる。


影をまとうのが早いな。

いや、むしろこれが普通だろう。


あの爆弾娘が特殊だっただけだ。


================================


こういう時に、俺の天恵「魔王」は実に使い勝手がいい。


サトキンが黙ったのは、俺に対して悪意を抱いたからだ。要するに、

「魔王」の力で俺の命令に従った。


とは言え、別にそれだけでこの男が悪い奴だなどと断言する気はない。

初対面の喫茶店店主に喧嘩腰の言葉を投げられたとしたら、誰だろうと

悪意のひとつくらい抱くだろう。

だけど、説明責任を果たしていないのはサトキンの方だ。やましい事が

あるかどうかは今は問題じゃない。信じて欲しいなら、誠意を見せろ。


俺は争いごとなんか好きじゃない。だけど、事なかれ主義でもない。

事を荒立てる気はまったく無いが、疑わしきを見逃す気もない。


そんな局面で「魔王」は重宝する。

とりあえず、これでまともに双方の話を聞けるだけの場は整った。


「さてケイナさん。」

「えっ?あ、はい。」


「とにかく話をお聞きします。」


俺の後を受け、ネミルがしっかりとそう告げる。

いいねえ。



サマになって来てるねえ、神託師。

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