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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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錬金術師の描く未来

チリリン。


「お待たせ!」

「あ、いらっしゃいませ!」


入って来たのは初めての客だった。俺たちと同世代の女性だ。

迷いなくカウンターに歩み寄ると、当然のようにジェレムの隣に座る。


「お疲れさま。店は?」

「ちょっとだけ早く出られました。店長も応援してくれてますから。」

「心強いね。」


ごく自然に言葉を交わすジェレムとその女性の姿に、俺は何か不思議な

感慨を覚えた。率直に言って、このジェレムという男はモテない系だ。

顔や性格が悪いとかではなく、単に女性に縁がないタイプだった。

昔から彼を知っている者としては、やはり思うところがある。


「ご注文は?」

「ケーキってあります?」

「はい。」

「じゃあ紅茶とそれを。」

「少々お待ちください。」


ちょっと声のかけ方をしくじった。

どんな関係なのかを聴くチャンスを逃してしまった。


だけど、さほど残念じゃなかった。…と言うか、あれこれと話す必要は

ないと思えた。口を挟まなくても、カウンター越しに見ていれば判る。

ジェレムと彼女が、どういう関係を築いているのかくらいは。


偉そうな表現かも知れないけど。

きっと俺とネミルみたいな関係を。


「どうぞ。」

「ありがとう。わ、美味しそ!!」


================================


「じゃあ、また来るな。」

「またお邪魔します!」

「またどうぞー!」


しばらくののち、ジェレムと彼女―ホルナさんは去っていった。


何だかんだと雑談した。

彼女が画材屋で働いている事。

常連のジェレムと知り合った顛末。

絵付けの仕事を目指している事。


そして、ジェレムと共に新たな夢に挑もうとしている事。


語る彼女は嬉しそうだった。何だか少し眩しいと感じた。もちろん、

別に羨んでるわけじゃない。俺たち二人も夢を持ち、この店を開いた。

決してルトガー爺ちゃんへの義理でやってるわけじゃない。ここには、

俺とネミルの未来がある。


ジェレムは独りぼっちだった。親を喪ったってだけじゃない。昔から、

あの男には孤独が影のようにずっと付きまとっていた。子供ながらに

それはよく憶えている。


正直、あの「錬金術」という天恵がジェレムのものだと知った時には、

少なからずホッとしていた。下手な使い方をすれば、社会の仕組みが

ひっくり返りかねない天恵だ。前にネミルに宿った時はそこまで深くは

考えなかったけど、戦争の原因にもなり得る力だろう。


でも、きっと大丈夫だ。

ジェレムなら。

いや、あの二人なら。


「売れるといいよね。」

「そうだな。」

「今度見に行きましょうよ!」

「いいねー。」


ネミルもポーニーも、ジェレムたち二人に不安は抱いてないらしい。

純金のチェルシャを見ながら、俺はちょっと笑いそうになった。


ああそうだ。

これホージー・ポーニー本人の公認グッズなんだな。ある意味、究極の

コレクターズアイテムだろう。原作ファンには垂涎ものだ。

こんな事を呑気に考えられるくらいには、ジェレムたちを信じられる。

何よりの僥倖だ。


さあてと。

もうひと仕事するか。


================================

================================


どうでした?


やっぱり駄目だったな。

予想通り、一発で見破られたよ。


それでよかったんですよ。


ああ。

さんざん頑張った結果がこれなら、きっぱり諦めもつく…ってもんだ。

金貨の偽造なんて、今にして思えばとんでもない話だったよ。


何だか、可笑しいですよね。

無限に純金を得られる天恵なんて、聞いた限りでは大当たりなのに。

現実的に考えてみれば、お金儲けに繋げるのが何よりも難しいなんて。


そうだよな。

試行錯誤の結果がそれなんだから、まあ笑えるよな、本当に。

だけど、笑えるってのはいい事だ。


ですね。

もし天恵がなければ、あたしたちは出会う事もなかったかも知れない。

こうして話す事も。


馬鹿な事を目論んだおかげで、俺は君に会えたんだ。

もう少し人生を豊かにしたいという目的も、見失わずに済んだ。

ネミルに天恵を見てもらった理由も忘れずに済んだ。

ありがとな、ホルナ。


こちらこそ。


さあてと。

期限は明日いっぱいだけど、今日中に会長に金貨を返しに行くよ。


あ、じゃあたしも一緒に行きます。

ついでに、リサップさんの弟さんのお店にも寄りましょう。

来週にはもう納品だから。


そうだな。

忙しくなりそうだ。

ちなみに、画材屋は?


来月いっぱいまで、という事で話はまとまりました。店長も同僚たちも

大いに応援してくれてます。店から有名作家が出るかも!ってノリで。


そりゃあ責任重大だな。頑張ろう。…よろしく頼むよ?


望むところです。


いい天気だな。

ちょっと回り道して行こう。

久し振りに、ゆっくり空が見たい。


いいですね!


………………………………



ありがとう。


俺の天恵。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 大変です! レムリが作品を超えて出現し、天恵を受けてしまってます! [一言] というわけで、ご無沙汰しています! と言いつつ、前作から毎日読んでおりますがなかなかコメントが残せなくて。…
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