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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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最後のプレゼント

人生って、何が起こってどう転ぶか本当に分からないとつくづく思う。

19歳で思う事かって感じだけど、思うんだから仕方ない。


独立して喫茶店を開く。それは俺の夢であり、そして目標でもあった。

誕生日を迎えたら、はっきり家族に宣言するつもりだった。とは言え、

それはかなり遠大な目標だ。いくら何でも、すぐに実現できるなどとは

考えていなかった。

調理師の資格は、去年取得済みだ。そっち方面はちゃんとクリアした。

もしも今、店を任されたとしても、切り盛りできるだけの自信はある。


だけど、俺には先立つものがない。貯金なんてほとんど無いに等しい。

借りるにせよ買うにせよ、店を持つにはとにかく金を稼がないと。

家業のレストランで働くか、どこか他店で雇ってもらうか。とにかく、

地道に働いてある程度の財を作る。実際に動けるのはそれからだろう。


そうしていつか一人前になったら、ネミルにプロポーズしよう。俺は、

そんな決意を込めて誕生日に最初の宣言をするつもりでいたんだ。


だけど、ルトガー爺ちゃんがその日に亡くなって。

家族に認められて、正式にネミルと許嫁の関係になって。


俺の人生は、思いがけない早送りをする羽目になった。


================================


爺ちゃんはステイニーの家、つまり息子とその家族が住んでいる家から

少し西に行った場所で一人住まいをしていた。俺が生まれる前からだ。

子供の頃は、爺ちゃんの家にネミルと一緒によく遊びに行ってたっけ。


ずっと知らなかったけど、あの家は「爺ちゃんの家」というよりむしろ

「神託師の住まい」だったらしい。ネミルの親父さんから聞かされた。

つまり爺ちゃんの前の代も、ずっとあそこに住み続けていたって事だ。


中身空っぽの名ばかり職とは言え、神託師は国から認可された聖職だ。

それなりに特別視されており、登録の義務というものも存在している。

そしてよっぽどの事情がない限り、引っ越しは認められないとの事だ。

少なくともこの国では、居住規約はかなり厳しいらしい。


でもその一方、神託師の仕事だけで食べていく事などできない現実は、

国も十分承知している。だからこそ副業をするのは自由だし、何なら

就職する事も認められている。要は継いだという事実さえあればいい。

もちろん、決められた場所に住んでさえいれば、そこを学校にしようと

店舗にしようと文句は言われない。その辺はちゃんと配慮されている。

…いかがわしい職業がダメなのは、言うまでもないけど。


不毛な世襲を強いられた人たちへの気遣いは、ちゃんとあるって事だ。


前置きが長くなってしまったけど。

つまりこれから、ネミルは爺ちゃんの家に住む事になる。たぶん一生。

神託師を継ぐと同時に、家の権利も全てネミルに移るらしい。そして、

そのネミルは俺と遠からず結婚する事が決まっている。


そう。

これによって、俺は喫茶店にすべき「空き物件」をタダで手に入れた…

という事になるのである。



人生って、ホントに分かんねえな。


================================


話し合いが行われた、二日後。


俺とネミルは、片づけをするために爺ちゃんの家に来ていた。

本来はステイニー家の人たちがする事だろうけど、事情が変わった。

だから俺たち二人が、皆に任される事になった。


もはや俺たち二人は待ったなしだ。

規約では、先代神託師が亡くなった時は、速やかに次の代を選抜する。

そして遅くとも3ヶ月以内に首都へ赴いて、神託師の登録を済ませる。

それが済んだ時点で、もうネミルはこの家に住む事を義務付けられる。

のんびりしてられる時間などない。それまでにここに住む準備をする。


そして、俺の方はもっと急がないととても間に合わない。正直ヤバい。

たとえ短い期間でも、ネミル一人をここに住まわせるなんて論外だ。

何としてもその日までに、この家を「喫茶店」にする必要がある。

けっこうデカい家だから、住むのは二階だけで十分だ。店は一階のみ。

あるものをとことん利用し、内装は最低限のリフォームに留めておく。

うちの店からあれこれ持ち出す事になるけど、そこは許してもらおう。

リフォーム費用も含め、出世払いという事で勘弁してもらうしかない。


さいわい、両親も兄貴たちも今回の件は好意的に見てくれている。

色々甘える事になってしまうのは、もう仕方ない。少しずつ返そう。


そんな事を考えつつ爺ちゃんの家を見上げ、ふと泣きそうになった。

さすがに堪えたけど、別に悲しいと思ったからじゃない。隣のネミルも

似たような表情を浮かべていた。


爺ちゃんの死がきっかけになった、なんていう言い方はしたくない。

それは俺もネミルも同じだ。だけどこれ以上ないほど強く、爺ちゃんに

背中を押されたのもまた事実だ。


そう。

きっとこれは、爺ちゃんからもらう最後のプレゼントだ。

いいものとして受け取れるかどうかは、まさにこれからの俺たち次第。

見ててくれよ爺ちゃん。


きっとやり遂げてみせるからよ。

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