表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
597/597

そして未来へ

「さあて、んじゃ行くか。」

「うん。」


戸締まりを確かめる。

火の元と照明も確かめる。

ポストも確かめる。


「行きますよー、ガンダルク!」


小さな椅子でうつらうつらしていた娘を、ネミルがそっと抱き上げた。

とにかくこの子はよく笑い、そしてよく眠る。


女の子にしてはごつい名前だねと、家族にも知り合いにも言われた。

どっちでも大丈夫と思ってたけど、言われてみれば確かにそうだった。

あの人が女性だったから、ってのが根底にあったんだけどな。


まあ、今さらどうでもいい話だ。

あの人とあの人の言葉を、忘れたくないと思った。ただそれだけだ。

あの日のあの瞬間、俺は己に子供ができる事を知った。そしてその子が

母親であるネミルと心を合わせて、俺をここに戻してくれた。


強い子に。

そして、自由な子に。

そう願ったからこそ、名を訊いた。



あの人は、元気だろうか。


================================


外へ出て、店の鍵をかける。

定休日じゃない。だけど、臨時休業というのもちょっと違う。

今日が休みになるのは、ずっと前に決めていた。年に一度の日だから。


「お待たせ。」

「どうぞ乗って下さい!」


店の外で待ってたのは、改良されたオラクモービルである。運転手は、

つい先日免許を取得したポーニー。相変わらずのバイタリティだな。

旅の手段でしかなかったこの車が、今もこんな形で運用されている。

何だか、感慨もひとしおだった。


後部コンテナに乗り込む。俺たちが旅で使っていた頃と比べて、かなり

快適性が向上してる。窓も増えたし眺めも上々だ。これでタクシーとか

やっても商売になるかも知れない。


まあ、そんな欲深い話は今日だけはやめとこう。


「じゃあ、頼むなポーニー。」

「了解です!」

「安全運転でよろしく。」

「もちろん!」

「アー。」

「はいはい、ご心配なく!」


ガンダルクにも愛想のいいひと言を返し、ポーニーが前に向き直る。


「出発!」


空は晴れ。

いいお出かけ日和。



今日は俺の、22歳の誕生日だ。


================================


背の高い草が、風になびく。

丘の上にぽっかりと設けられている墓地からは、街が一望できる。


ルトガー爺ちゃんは、ここに静かに眠っている。

生前、自分で購入していた場所だ。神託師としてなのか、もっと違う

個人的な理由か。いずれにしても、爺ちゃんは自分でここを選んだ。


ポーニーは、下の車で待っている。ここにいるのは俺たち親子だけだ。

しばし街を見下ろしたのち、揃って墓に手を合わせる。ガンダルクも、

俺たちの見よう見まねで小さな手を合わせる。


爺ちゃん。

俺ももう、22になったんだよ。

19の誕生日の日は、忘れ得ない。どうなるんだと本気で思ったっけ。

誕生パーティーが流れた事よりも、そっちの方がショックだったなあ。


だけどあの日、俺の向き合う未来は決まったんだ。

ネミルと一緒に向き合う未来が。

何もかもが手探りだった。それこそ店も神託師も、不安だらけだった。

逃げ出したくなる時だってあった。


だけど、投げ出したくなる時だけはなかった。ただの一度もなかった。

手にした未来の一端を、俺は一度も投げ出そうとは思わなかったんだ。

今でもそれが誇らしい。


なあ、爺ちゃん。

俺とネミルに娘ができたんだ。

こんなに早いとは思ってなかった。姉貴の方が早くてよかったと思う。

つくづく思う。そうそう、フレドは至って元気にしてるぜ。


また今度、来るように言っとくよ。


================================


なあ爺ちゃん。

爺ちゃんは、神託師としての生涯でどのくらいの人と関わったんだ?

今になって、興味が湧いてきたよ。


もちろん、神託師はネミルだ。

だけど実際、天恵宣告がきっかけで起こるトラブルには、例外なく俺が

関わっていた。それもまた事実だ。本当に厄介な話だけどな。


本当に色んな事があった。おそらく爺ちゃんも想像しなかった事がな。

指輪は、数え切れないほどの波乱を俺とネミルに届けてくれたんだよ。


大変な事が何度も起こった。

つらい事にも直面した。

救いがたい奴も何人もいた。


それでも俺たちは乗り越えてきた。

天恵でとんでもない事をする奴らもいたけど、どうにかねじ伏せた。

恵神ローナも、店の常連になった。今じゃすっかり居ついてるよ。


俺たちの店は、賑やかになった。

色んな無茶をやって来たけど、案外世界は特に変わってはいない。

相変わらず揉め事は多いし、天恵の宣告はすっかり衰退したままだ。

俺たちが世界の何かを変えたとは、まったく思わない。

神託師だろうが魔王だろうが、俺もネミルももう気にしていない。

強がりじゃないぜ。


なあ、爺ちゃん。

世界はいつも通りだ。


それが答えなんだよな。


天恵。

15歳になった全ての人に目覚める特別な力。この200年の間に、

天恵宣告は廃れた。もちろん宣告を受ける人たちはいる。だけど、

それが当たり前だった時代は遠い。過去にも未来にも遠い。おそらく、

俺たちが生きてる間は変わらない。宣告を求めて店まで来る人の数も、

特に増えたりはしていない。まあ、今の時代を考えればネミルの宣告は

飛び抜けて数が多いとは思うけど。


無茶をやる奴もいた。

世界が崩壊しかけた事さえあった。


だけど結局、日々はいつも通りだ。

最近になって、俺はやっとその事の意味を自分なりに理解できたんだ。


なあ、ルトガー爺ちゃん。


結局、世界はいつも通りに進む。

きっとそれは、200年前も大して変わらなかったんだろうなと思う。


天恵は、確かに特別な力だ。

誰もがそれを得る資格を持ってる。考えてみれば、無茶な世界だよな。


だけど、それで世界が崩れてしまうなんて事はないんだ。

たとえどんな力を持ったとしても、ほとんどの人はそれには溺れない。

自分たちが生きているこの世界を、それぞれが大切に思うからだ。


天恵は自己責任。

ローナが事あるごとに言う言葉だ。

俺もそう思ってる。


こうして世界が平穏なのはきっと、みんなそれを理解しているからだ。

言葉として聴かなくても、ほとんどの人はしっかり理解してるんだ。


天恵宣告は今も廃れている。それは200年前のある出来事が遠因だ。

だけど、それすら必要な事なのかも知れないと思うんだよ、今ならね。


きっと今の人間は、昔と比べて少しバカなのかも知れない。

だから、ほとんどの人は天恵という当然の権利を手にしようとしない。

誰に言われたわけでもなく、そんな時代は当たり前のように続いてる。

いや、ローナはちょっとだけ苦言を呈したらしいけどな。


もしかすると、いつか人はもう少し賢くなれるのかも知れない。

その導き手になるのは、もしかして教皇女かも知れない。…あるいは、

オレグストやミクエかも知れない。今は誰も、結論なんか出せない。

まあローナや拓美さんたちじゃないだろう。そこは確信があるよ。


その先の未来で、また天恵の宣告が復権したりするのかも知れない。

いや、しないままかも知れない。

どっちにしても、ローナのやる事は変わらないだろう。この先ずっと。


今は、こういう時代ってだけだ。

そして俺たちは、そんな今が意外と好きなんだよ。


天恵宣告なんて、たまでいいんだ。


コーヒーが美味けりゃ、客はいつも来てくれる。食っていくくらいなら

どうとでもなる。それでいいんだ。それで俺たちは幸せなんだよ。


世界ってのは、意外と広く懐深い。多少の事なら受け止めてくれる。

多少を超えた問題は、また俺たちがどうにかすればいいってだけだ。

そのための【魔王】だというなら、もうビビる必要は何もない。

胸を張って名乗ってやるとも。


天恵なんて、そんなもんだ。



きっと、上手くやっていけるさ。


================================


「お疲れさまです!」

「待たせたな。」

「んじゃ行きましょうか。」

「安全運転でね。」

「承知!」


ポーニーの元気な声を合図に、車はゆっくりと走り出す。

今日はもう一軒、行く所がある。


ランドレとペイズドさんがオーナーという形で、新しいレストランを

作るという目処が立った。もちろん近所じゃなく、オトノの街でだ。

実際に厨房で腕を振るうのは、何と拓美さんとタカネの異世界コンビ。

相変わらず何だかなあ、あの二人。


とりあえず、物件だけ決まった。

トーリヌスさんがリフォームを担当してくれるらしい。あの人としても

異界の知を得られる絶好の機会だ。何せ、あの二人が関わるんだから。

おそらく、先駆的な店舗になるのは間違いないんだろうな。


いいじゃないか。

俺たちとしても、楽しみな話だよ。二号店を名乗る気満々らしいし。

いや、この車を合わせれば三号店という事になるんだろうか?

まあ、それはこれから相談だな。


いい誕生日だ。


墓参りも済んだ。

楽しい未来もこれから喧々諤々だ。

問題が起こったなら、皆で挑もう。怖いものなんて何もない。


「ローナさんもモリエナも、とうに着いてるみたいです。」

「やっぱり来るのかよ。」

「当然でしょう。」

「だよな。」

「そうだよね。」

「アーウン!!」


皆で声を合わせて笑う。

さあ、オトノの街までドライブだ。


俺たちの未来は続いている。



どこまでも、まっすぐに。


■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■





ようこそ神託カフェへ!!


       完

挿絵(By みてみん)

これにて終了です。

長い物語にお付き合い頂き、ありがとうございました。



次回作『世界を解き明かせベータ』は9月1日より開始予定です。

よろしければ、またお付き合いください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
追伸 大切な事忘れていました、ラストを飾るポーニーのカラーの挿し絵ありがとうございます。 トランでもなくネミルでもなくポーニーってのが粋です。 早速マイギャラリーに保存しておきます(*^^*)
長い間の連載、お疲れ様でした! 今回もこれだけの長編を、しかも1話毎の内容や質も担保されたまま毎日欠かさず投稿された事に対し、ただただ頭が下がるのみです。 個人的に時間が足らず、なかなか感想が投稿出…
「拓美ちゃんでーす」また泣かせましたね、良かった良かったタカネが一人ぼっちだったので凄く気になってました。 「お名前聞かせてください、ぜひとも」ゾクッとしました やはり出ましたガンダルクこれでオールス…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ