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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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ふたつの石とひとつの命

ん?

どうした少年。

何だか浮かない顔だね。


いや、別に…

ってか、お姉さん誰?


さあ、誰だろうねぇ。

まあ、あたしの事はいいからさ。

悩みなら聞くよ?


悩みと言うか何と言うか…

そもそも、ここはどこだろう。


そっからかよ。

何、迷子とか記憶喪失とか?


いや記憶はちゃんとあるんだけど。

ここがどこなのかが分からない。

だけど…


だけど?


あのお祭りみたいなのは嫌だな。

魔王が滅んで70年の記念だとか。

みんなでバカ騒ぎしてるのが。


ああ、やってるねえ。

もうそんなに経ったんだ。

あたしとしてはちょっと感慨深い。


…やっぱり俺は嫌だな。


何でよ。

君、魔王が生きてた頃の事なんて

何にも知らない世代でしょ?


魔王って、やっぱり悪い奴なのか。

悪くないといけないのかな。


ん?

妙な質問だね。

ひょっとして、魔王になりたいの?


違う。

あなたは魔王なんだよと、ある人に

言われたんだ。

受け入れるしかない運命として。


運命とはまた…

誰に言われたの?


妻に。


あんたその見た目で既婚なのかい。

しかし変な事を言う奥さんだね。


まあ、そこは事情がありまして。

何とか受け入れてやってきたけど。

ああいうお祭り騒ぎを目にすると、

やっぱり嫌だなと思ってしまって。


なかなか根深い悩みだね。

よかったらゆっくり聞こう。

おなか減ってない?


正直、かなり。


じゃあ奢るよ。


助かります。


ところで少年、名前は?


俺は


俺の名は

トラン・マグポット。


================================


「どういう事よ!?」


ネミルさんの声は、高く裏返った。正直、聞いていて身が竦んだ。

一方で、そんな言葉をぶつけられたローナさんは落ち着いていた。


「さっき言った通りよ。トランは、別の世界に消えた。」

「何でそんな事に…!」

「憶えがあるでしょ?」


かすれる声を遮ったローナさんは、ネミルさんの顔をじっと見据える。

すぐ傍らで聴いてるあたしは、その「憶え」に先に思い当たっていた。


もしかすると、アレか。


「…それって、新婚旅行を前倒しにする原因になった、あの時の…」

「鋭いね、ポーニー。」


あたしに視線を向けたローナさんの顔に、苦々しい表情が浮かぶ。

ああ、やっぱりそうなのか。


当たって欲しくなかったなあ。


「原因は、あなたなのよ。」


ネミルさんに視線を戻して放った、ローナさんの言葉は残酷だった。


================================


ここはどこだ。

見当もつかない。


だけど、既視感だけはあるなあ。

新婚旅行の目的地に、俺だけ転送で送られてしまった時に似てる。

あの時は、指輪の力でそんな天恵を得たネミルの無意識が原因だった。

だが少なくとも、あの時とは違う。多分、もっと深刻な事態だ。


感覚で判る。

ここは外国とかじゃない。

もっと根本的に違う「異世界」だ。


昔の俺だったら、そんな仮定なんか浮かびもしなかっただろう。

そして、ただひたすらうろたえた。それは間違いない。


今の俺は違う。

こんな不条理な事が起ころうとも、最低限の推測くらいはできる。

今日まで、散々そういう事象を目にしてきたから。


何だかなあ。



この、虚しい確信は。


================================


「…ネイルの天恵が?」


ネミルさんの声に、困惑が混じる。その気持ちは、痛いほど分かった。


「だってあたし、あれからきっちり指輪を外したでしょ!?だったら、

宿った天恵は抜けるはずなのに!」

「普通ならそれでよかったのよ。」


淡々と、ローナさんがそう答える。


「あなたが前にコピーした天恵は、どれも宣告前のものだった。だから

定着度も弱かったし、指輪を外せばすぐ抜けた。だけどネイルの天恵は

既に宣告されて散々使ってきた代物だったから、それまでのものよりも

ずっと強力だったのよ。」


言いつつ、ローナさんの指が問題の指輪を指し示した。


「だから外した後も、天恵の一部がその指輪に宿ったままになってた。

いつも通りだろうと思ってたから、あたしもそれには気付けなかった。

誰にとっても初めての事だった。」

「………………」


押し黙ってしまったネミルさんの顔は、明らかに憔悴していた。

ネミルさんは、あたしが思う以上に聡明な人だ。理解力もかなり高い。

だからこそ、ローナさんの言う事が理解できてしまったんだろう。


誰が悪いわけでもない。

前例がない以上、予想もできない。いくら何でも、それは無理な話だ。

だけど結果的に、またネミルさんはトランさんを放逐してしまった。

それもただ遠いってだけじゃない、こことは違う見知らぬ世界に。



現実は、いつだって困難を孕む。


================================


はいよ。

まあ食べな、トラン君。


ありがとうございます。

正直、もう限界だったんで…


ずいぶんのっぴきならないね。

何が起こったのかは理解してるの?


ええ、見当は付いてます。

多分、妻のうっかりでしょうね。


マジで?

ずいぶん危険な奥さんだねホント。


ええ。

性格は至って穏やかなんですけど、持ってる力がちょっと厄介でして。


ああ、そうなんだ。

ちょっと会ってみたくなったなぁ。


そうですか?


仲良くなれそうだし。


そう言ってもらえると嬉しいです。

何やかんや、苦労かけてるし。

…旨いですね、これ。


気に入った?

そりゃ何より。


================================


「トラン君が異世界転移ィ!?」


帰って来た拓美さんの声も、同様に高く裏返った。

困惑する彼女とは対照的に、タカネさんがいつも通り冷静に質問する。


「原因は?」

「ネミルの指輪に残ってたらしい、【偉大なる架け橋】の残滓よ。」

「そんな事起こり得るんだ…」


さすがのタカネさんも絶句気味だ。

そりゃそうだよね。ましてあたしやモリエナたちは、ついて行けない。

あまりにも話が突然かつ規格外で。


「で、どうすんの?」

「指輪に残った天恵の残滓自体は、あたしのパソコンに移すのも可能。

それは分かったんだけど、今それをやるとトランを捕捉する事が完全に

出来なくなってしまう。とにかく、このまま探すしかないって状況。」


「探せるんですか!?」

「正直、かなり厳しい。」


拓美さんの問いに対するローナさんの答えは、芳しくなかった。

あたしとモリエナは顔を見合わせ、反応に窮する。ランドレたち二人は

外出中だけど、もしいたらあたしと同じように困ってただろうなぁ。


少なくとも、あたしたちに出来る事は何もない。それだけは確実だ。


もどかしい時間が過ぎる。



トランさんは、どこに?


================================


トラン君。


はい?


ずいぶんと落ち着いてるね。

見知らぬ世界に来たってのにさ。


そうですね。

自分でもちょっと驚いてます。

だけど、何故かは分かってます。


何故だと思ってんの?


確かに、原因は妻かもしれません。

だけどそのきっかけになったのは、俺だったのかもと思うんですよ。


ずいぶん哀しい考え方だね。

どうしてそんな考えに至ったの?


さっきも言いましたが。

俺は【魔王】って天恵を得ました。宣告したのは妻です。だけどそれは

妻が授けたものじゃない。この俺が身の内に秘めていたものなんです。


なるほど。

じゃあ、それに引け目みたいなのを感じてたの?


そうです。

気にしなくていいよと言ってくれる人は多かったし、俺も割り切ろうと

思ってきました。でも実のところ、俺はずっとそれに怯えてたんです。

今はよくても、いつか妻やみんなを不幸にするんじゃないのかって。

弱い考えかも知れない。けど、俺はどこまでもそういう人間なんです。

相応しかろうとそうでなかろうと、【魔王】は俺の人生につきまとう。

今のままである保障など何もない。


…大変だね、本当に。


だから思うんですよ。

ひょっとすると、俺自身が無意識にこうなる事を望んだのかもって。

もう少し、悩まなくてもいい世界に行ければいいのかもって。

落ち着いてるのは、そのせいです。

これでいいのかもって、少なくともそう思ってる俺がここにいる。

妻の


ネミルのために。


================================


「見つけられないの!?」

「手がかりが無いんだよ。」


詰め寄るネミルさんに、ローナさんはパソコンを操作しながら答える。


ヘッドホンを着けたネミルさんから情報を得て、異世界にいるであろう

トランさんの痕跡を探す。限りなく判りやすいけど、困難な事らしい。


トモキの事例を思い返せば、それが困難なのはすぐに想像がついた。

異世界である以上は、ローナさんが直接赴く事は不可能だ。だったら、

見つけ出してこっちに引き戻すしか方法がない。それが成せるのは多分

ネミルさんだけだ。指輪に残留する【偉大なる架け橋】が命綱だろう。

見つける事さえ出来れば、恐らくは二人の力でどうにかなるはずだ。


だけど、どうやって見つけるのか。

トランさんは、何も持っていない。つまり目印がまったくない状態だ。

この世界ですら人探しはローナさんも手を焼く難題なのに、どこなのか

すらも判らない異世界から一個人を目印もなく探す。経験から言うなら

不可能に近い事だ。分かってしまう自分がどこまでも悲しい。


どうすればいいんだろう。

いや、出来る事なんて何もない。


あるとすれば。


それは、トランさんの方だ。


================================


トラン君。


はい?


会った時、浮かない顔してたよね。だから声かけたんだけどさ。


ええ、そうでしたね。

正直、気分は良くなかった。

己の状況は抜きにしても。


だよね、やっぱり。

打倒魔王70周年の、お祭り騒ぎが気に入らないと言ってたよね。

何でかと思ったけど、そんな事情を抱えてりゃ無理もないよね。

逃れてきたのかも知れない世界で、そんなの見せられた日にはね。


お門違いだってのは分かってます。

だけどやっぱり、ちょっとね。

ここでもやっぱり、俺という存在は拒絶されるのかなって。


まあ、無理もないだろうね。

あんなのを目の当たりにすればさ。

気にする気持ちは理解できるよ。

………………

でもね、トラン君。


何ですか。


気にしたら負けだよ、あんなもの。


================================


「何かしら、手がかりになるものは無いんですか!?」


思わず言ってしまった。

何も出来ないのは間違いないけど、だからって黙ってられなかった。


「本当に、どの世界に飛ばされたか見当もつかないんですか!?」

「まったく無いわけじゃないよ。」


パソコンを操作しつつ、ローナさんが厳しい声であたしに答える。


「少なくとも、今に至るまでの間に何かしら接触があった世界だろうと

見当は付けてる。だけどそれじゃ、時間や場所は絞り込めないのよ。」

「時間も、ですか…」


モリエナが悲愴な声で呟いた。

その意味を悟り、さすがのあたしも言葉に詰まる。


場所だけなら何とかなる。

世界を特定できれば最悪、くまなく調べる事で見つかる可能性はある。

だけど時間まで分からないのでは、選択肢が無限になってしまう。

過去なのか未来なのか、それさえも曖昧では探しようがないって話だ。


ネミルさんは絶望していない。

ひたすら探し出そうとしている。


だったらもう、祈るしかない。



トランさんが、応える可能性に。


================================


どういう意味ですか。

あんな大々的に祝われているのに、気にするなって無理でしょう。

もし魔王自身があの祭りを見れば、きっと怒り狂うでしょう。


さあ、それはどうかな。

何せ、70年も前の事だからね。


だとしても…!


ねえ、トラン君。

魔王が滅んで、もう70年も経ってしまってるんだよ。

ひと言で70年といっても、それは決して短くない歳月なんだよ。

確かにその爪痕は世界中に残った。だけど、もうすっかり薄れてるよ。

実際に傷つけられた人だって、もう今では亡くなったか老いてるかよ。

間違っても、あんなバカ騒ぎに参加するような年代じゃなくなってる。


じゃあ、あの騒ぎは何なんですか。


ちょっと考えれば分かるでしょ。

ただのありふれた祝日だよ。


………………え?


仕事を休みにしたり

日頃の憂さを酒で晴らしたり

家族みんなで遊びに出かけたり

友達同士でバカ騒ぎしたり

そういった祝日って、君の世界にもちゃんとあったでしょ?


それはまあ、ありましたけど。


それと同じだよ。

歳月は、魔王って存在を記号にまで変える力を持っている。

過去のものとして割り切って、人はそれを騒ぐ口実にまで変えている。

魔王が見たら怒るだろうって?

そんな考えを持つ必要なんかない。

だってもう、過去なんだからさ。


そんなに割り切っていいんですか。

傷付いた人だっているはずなのに。

俺だって、そんな事がなかったとは言い切れないのに。


いいんだよ。

人なんて、せいぜい生きて100年程度なんだから。

ひとつの事にこだわり続ける年月に至っては、もっと短いだろうしね。

誰だって、他人を傷つける。

誰だって、間違いを犯す。

あたしも君もそう。

もちろん、他の誰でもそうだよ。

だったらもう、悩むだけ損って事。

仮にそれが変えられない運命なら、帳消しに出来る事をすればいい。

文句を言う奴は、ほっとけばいい。

奥さんが、君をどう思っているか。

それは知ってるでしょ?

なら、それこそ大事にしなきゃね。


それで、本当にいいんでしょうか。

そんな単純に考えて。


いいのいいの。

気楽に考えていいんだよ。

ねえ、トラン君。


================================


何だろう。

祈るようなネミルさんの姿に一瞬、何かが重なって見えた。


気のせい?

いや違う。


何となく、見覚えがあった。

ずっと昔、エイランが自分の作品の登場人物を考え出した時に。


何だろう。

この、気配みたいなものは…


================================


ここってフリーマーケットですか。


言葉の意味は分かんないけど、まあ多分それで合ってると思うよ。

今日はお祭りだからね。


なるほど。

ここは…何でも売ってる店ですね。


だね。

せっかくだし、何か買ったげよう。ちょっと臨時収入があったからね。


え?ええっと…

いいんですか?


あんまり高いのはダメだよ。

そこの指輪とかどう?


指輪ですか…俺が…

何と言うか、いい思い出があまり…


気にしない気にしない。厄落としと思えばいいでしょうが。

ほら、あのネラン石のやつとかさ。


…ネラン石?

どこです?


ほら、あの青緑色の小さいのだよ。

銀色の指輪になってるでしょ?


あれがネラン石?

俺が知ってるのと、色が全然違う…


え?

ちょっと待って。

色が違うのはともかくとして、君の世界にもこれがあるっていうの?

ネラン石が?


ええ。

って言うか、天恵宣告に使うための貴重な鉱石です。妻がはめている、

指輪にも使われてるんですよ。


ええー、そりゃ聞き捨てならない。実に興味深い話だね。

よし、じゃそれ買おう。おばさん、それいくら?


ちょ、ちょっと待って下さい。あの


もうちょい負けてよ。いいでしょ?めでたい70周年の日なんだから。

もうひと声!…よっしゃ買った!!


あの、俺は何もそこまで…


はいよ、トラン君。


えっ?

本当に俺にくれるんですか?


当たり前じゃん。

ってか、あたしこういうのあんまり好きじゃないし。


…マジかよ。

じゃあ、まあ…どうもありがとう。


はめてみな。


え?…今ですか?


そう。

もし君の世界にもこれがあるんだとすれば、手がかりになり得るよ。

頼りない話かも知れないけど、まあ何でもやってみてから考えよう。

ね?


…分かりました。じゃあ。


しっかり思いなよ。

君を必要とする、奥さんの事を。


================================

================================

================================


………………………………


「えっ!?」


皆、等しく驚きの声を上げた。

前ぶれもなく、ネミルさんの指輪が激しい光を放ち始めたからだった。


「な、何いきなり!?」


拓美さんの声に困惑が混じる。

だけど、ローナさんでさえ目の前の事象には見当もつかないらしい。


その刹那。


「…聞こえた!!」


光を放つその指輪を凝視しながら、ネミルさんがひと言叫んだ。



「トランがあたしを呼んでる!」


================================

================================


えっ!?

い、色が変わった!?


ホントだ!

石がオレンジ色になった!

ちょ、ちょっとこっち来て。


え?


目立つとマズいから、あっちの物陰に隠れよう。早く!


あっ、はい!

………………………………


うおっ!?

光ってきた!?


おおっと、急転直下だね。もしや、当たりを引いたかあたし?

トラン君!


は、はい!?


その色って、知ってる石の色なの?


え?あ、はい。間違いなく知ってるネラン石の色です。


じゃあ呼びかけてみな、奥さんに。

もしかしたら、それが鍵なのかも。


えっ!?

わ、分かりました。


気持ちを込めてね。


………………

ネミル!聞こえるか!!


………………………………………………


………………………………


「トラアァァァン!」



聞こえた。


確かに、俺のネミルの声だ。


================================


キュイィィィィィィン!


光が、指輪から満ちた。

触れた瞬間、俺は全てを察した。

この光の向こうに、ネミルがいる。

俺の世界に通じる、偉大なる架け橋が間違いなく架かっている。


これを潜れば帰れる。


ネミルが

そして


あいつの中にいる


もう一人が


もうひとつの命が


俺を呼んでるんだ。


================================


「帰り道を見つけたね。」

「はい!」


迷いなく答えられた。

揺るぎない確信があった。


迷いを捨てたから。

この人に、生き方を教わったから。

【魔王】だから何だって言うんだ。

何もかも、過ぎ去れば過去になる。

だったら、もう少し気楽になってもいいはずだ。


簡単な理屈だけど。

気休めに近い言葉だけど。

この人の言葉には、どこか不思議な説得力があった。だからこそ俺は、

素直にそれが腑に落ちたんだ。


だから俺は、迷いなく帰る。

俺の世界に。

ネミルの待つ世界に。


「ありがとうございました。」

「二度と迷子になるんじゃないよ、トラン君!」

「はい!」


礼を述べ、光に向かって踏み出す。

その直前。


俺は、彼女に振り返った。


知らない異世界に、下手な因縁など作りたくなかった。

だからあえて訊かなかった。

だけど。

今ここに至っては、訊きたかった。

思い出として。

恩人として。

そしてもうひとつ。


「お名前を教えて下さい。」

「やっぱ訊きたい?」

「是非とも。」

「いいよ。」


彼女は。

笑いながら茶色の髪をかき上げ。

明るくそれを告げた。


「あたしの名前は、ガンダルク。」


………………


え?

それって確か

70年前の…


「…魔人国アステアの、魔王?」

「にゃははははは!しっかり憶えて帰ってよ!!」


嬉しそうな笑みが、光の向こうへと消えていく。

いや、消えていくのは俺なのか。


もう、何も聞こえなかった。

だから俺は、手を振って笑った。

笑いながら、サヨナラしたかった。


ありがとう。



いつの日か、あなたにも。


俺にとってのネミルのような

誰がか

現れる事を


祈っています。


遠い世界から。


ありがとう。



お気楽な魔王さん。


================================


光が消えた時


最初に感じたのは


コーヒーの香りだった。

俺の知っている…


「トラン!!」

「うわっ!!」


抱き着かれた俺は無様に転がった。

そう、ネミルと一緒に。


「帰って来てくれたんだよね!!」

「…ああ、もちろんだとも。」


何とかネミルを支えて身を起こし、俺は笑った。

あの人のように、明るく。


「ただいま。」

「…おかえり。」


グズグズと泣き出したネミルのすぐ背後に、馴染みの顔があった。


ポーニーが。

モリエナが。

ランドレが。

ペイズドさんが。

タカネが。

拓美さんが。

そしてローナが。


みんな笑っていた。


そうだよな。

笑っていいんだよな。

俺も。

笑って生きていいんだよな。


この世界で。

しっかり抱きしめたネミルの中に、確かに感じる新たな命と一緒に。


ありがとよ。

俺を

ネミルと一緒に呼んでくれて。


なあ。


ちゃんと聞いといたぜ。

お前につける、恩人の名前を。



俺は、ここで生きていく。

前作499話『ホロスの老爺』とのクロスオーバーになります。

ちなみにネラン石も、14話「街の喧騒の中で」に登場しています。



次回、最終回です。

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