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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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選んだキーの向こう側

この状態にも慣れたな。

もともとナノマシンだったからか、順応は早かったように思う。


ディスプレイ越しにも、トランたちみんなの顔が判る。そこに浮かぶ、

感情までも読み取れる。いやはや、歳月ってのは本当に軽くないなあ。

自己進化(アップグレード)も極まってるよホント。


…いや、本当にそうかな。

確かにタカネという存在の体験した「時間」は途方もなく永いけど。



あたし自身の時間は、どうだろう。


================================


あたしは、友樹の記憶の中にあったプログラムが具現化したタカネだ。

見方によっては、その瞬間からしか存在していないとも言えるだろう。


そう。


いくら鮮明に憶えていようとも。

いくら想う気持ちを持っていても。

あたしは、実際に拓美に会った事がない。それもまた現実なのである。

だからって、自分がまがい物だとは微塵も思わない。そもそもタカネは

多く在ってこそのナノマシン由来の存在だ。こんな個体がいてもいい。

今さらそこで悩むあたしじゃない。


だけど。


現出した経緯の特殊さを鑑みても、つくづくあたしはニッチな存在だ。

未来の悲劇を予知したミロスの言葉を信じ、友樹を救うため入力された

コピー。あたしの存在する理由は、ただひたすら友樹を救う事だった。

それが成された今、もうあたしには存在を維持する理由などないんだ。


あたしは、拓美を知らない。

彼女の事を憶えてはいても、触れた事など無い。言葉を交わした事も。

拓美もまた、あたしというタカネを知らない。知る日はもう来ない。

向こうの世界に戻ったあたしの記憶は共有されるだろうけど、やっぱり

宇宙にいる拓美にまでは届かない。


…ここまで隔絶されてるタカネも、ある意味かなりレアなのかもね。

ならばもう、思い残す事などない。あらゆる意味で終わっているんだ。

これから先、もし友樹を守る使命が生じるとしても、それは向こうに

ついて行ったあたしがやればいい。同じ存在だから、何の問題もない。

この世界の思い出語りの相手にさえなれる、理想的なサポーターだ。


そうだよね。

友樹が去った今、あたしという存在がここに残っている意味なんて


なにひとつ


無いと



絶対に思わない。



あたしは



あたしだ!!


================================


『分かった。』


自意識過剰じゃない。ローナのその声は、明らかに嬉しそうだった。

かつて経た時間と比べればごくごく短いけど、それでもあたしはここで

時間を重ねたんだ。ローナの声から機嫌を察する事くらい、朝飯前だ。


そう、トランたちもね。


短い期間ではあったけど。

あたしはここで、確かに大きな事を成した。あのジアノドラゴンにさえ

再び会う機会を得たんだ。…いや、再びってのは語弊が…もういいや。


デリートキーひとつで消せるほど、ここでの記憶は軽いものじゃない。


あたしはあたしを誇る。

コピーだろうと何だろうと、ここにいた事を誇りに思う。


そうでしょ?

ねえ拓美。

あなたなら、きっとそうするよね。

確信持ってもいいよね。

あたしだって、タカネなんだから。

間違いなく、あなたを心から愛したタカネの一人なんだからさ。


自分を認めても



いいよね!


================================


「それじゃあ、ポチッとな。」


エンターキーが押されるおなじみの感覚と共に、あたしは現出する。

初めてここに来た時と同じ、何とも不思議な感覚だ。


ああ、みんな笑ってるなあ。

トランもネミルもポーニーも。

モリエナもランドレもペイズドも。


フレドも。

そしてローナも。


あたしは、あたしが好きだから。

そして、ここが好きだから。


たとえ拓美がいなくても。



あたしはここで、笑って生きるよ。


================================


タン!


床を踏みしめる感触が嬉しかった。

ここに戻る選択をした自分が。

独りよがりな消滅を望まなかった、自分の心が嬉しかった。


世界が違うから何だ。

そんなの、見切りをつける理由にはなり得ない。しょうもな過ぎるよ。

だからあたしは笑う。

みんなと一緒に。

そう。


こんな風に…

………………


ん?


何?


ってか、どこ見てるのみんな?

あたしの後ろに何かあるの?


何その顔?

いったい、何を見て…


刹那。

空気の流れを感じたあたしの肩に、柔らかな手が触れたのを感じた。

知らないけど、知っている感触を。


「おっはよう!!」


その声は、すぐ背後から聞こえた。

耳にした瞬間、誰なのかを察した。


涙は流さなかった。

だけど、笑みは溢れた。


ほんのちょっと、悔しくもあった。

すぐ目の前で笑っているローナに、してやられたという悔しさだ。


あなた、あたしを試したわね?


ここに残るかどうかを。

何も言わずに選ばせたわよね?


まったく、なんて神様だか。

おふざけにも限度があるって話よ。


デリートかエンターか

終焉か未来か


キーひとつで決まる、最後の選択。

だけど、確信があったんだろう。

でなきゃ、そんな笑い顔には絶対にならないはずだ。

いや、どっちかと言うとドヤ顔か?


悪い神様だなぁ、本当に。


気まぐれで。

いい加減で。

妙に律儀で。


そう。

彼女は、あたしの友だちだ。


だからこそ。

今。


この瞬間。

これが感謝の形なのね。



ありがと!!


================================


ゆっくり振り返った、あたしの目に映った顔。

初めて見るけど、知っている顔。


そうだ。

彼女だ。


「はぁい、拓美ちゃんでーす!!」


そうそう。

そんなノリだよね、あなたって。

知ってるよ。


誰よりも。


あたしは、彼女を抱きしめた。

顔いっぱいの笑顔が懐かしくて。

その感触が愛しくて。

背に回された手が嬉しくて。


だけど、泣きはしなかった。

ただ笑い合っていた。


彼女と。


荒野拓美と一緒に。



窓の外の空は、晴れ渡っていた。

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