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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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地味でいいんだよ

実際にやってみないと分からない事というのは、どこにでもある。

どんな状況ででも起こり得る。


例えば、今みたいに。


ジアノドラゴンを召喚したネイルの天恵の力は、本当に圧倒的だった。

【魔王】でねじ伏せた俺が言っても説得力ないけど、本当にビビった。

あんなのを丸ごと異世界から持って来れる力なんて、規格外の極みだ。

そのネイルの天恵を得て、苦もなく送り返したネミルにもビビった。

ネイルがロナモロス教を率いていた事実に、今さら血の気が引いた。


もちろん俺たちは、ネイルの野望を止めるために苦労したんじゃない。

たまたまその天恵が必要だったから探し、説得した結果ああなったって

だけの話だ。ロナモロス教がその後どうなろうと、あまり興味もない。

【偉大なる架け橋】を得てようやく店に戻り、トモキをその天恵の力で

送り返すところまで来た。そして、いざ実行と相成った。


だけど実情は、俺が思ってたのとはかなり違っていた。


はっきり言って、激しく地味だ。

ジアノドラゴンの時のような劇的な事が起こるわけでもなく、目の前で

何がどこまで進んだかが判らない。パソコンの画面の中で何か進んでる

事だけは判るけど、変化が乏しい。要するに、見ててもサッパリだ。

そしてそれは、言い様もない不安を生む。上手くいってるのか否かが、

傍で見ている者に何も伝わらない。ジアノドラゴンを戻した時みたいな

一目瞭然は望むべくもない。


どうなんだよコレ。

トモキはどうなってるんだよ。

タカネは上手くやれたのかよ。


チラと見れば、モリエナたちも俺と同じ様な表情になっている。多分、

俺以上にヤキモキしてるんだろう。ネミルは天恵の発動に集中してる。

やっぱり、その様子も限りなく地味そのものだ。瞳の発光さえない。


気まずいとかそういうのとは違う、独特の重苦しさが店内に満ちてる。

状況の推移が分からない。知ってるはずのローナも黙ってパソコンを

凝視しているだけだ。やる事はもう全部終わってるんだろう。ならば、

なおさらあれこれ訊けない。


これまでに何度となく見た、事故の直後の痛ましい映像が映っている。

流れからすると、もう既にトモキとタカネは向こうに行ってるはずだ。

正確に表現するなら、トモキの魂とタカネのコピープログラムとが。


頼む。

誰でもいいから教えてくれ。

どうであれ、結果を教えてくれ。

そうでないと、胃が痛くなって…


刹那。


「あっ!」



声を上げたのは、ポーニーだった。


================================


その瞬間、全員が確かに見た。

映像の中のトモキが確かに動いた。

もうすっかり憶えてしまっていた、これまでとは違う動きを見せた。


まさか。

お前、動こうとしてるのか。

そんな重傷なのに、俺たちのために何かしようとしてるのか。

やめろと言いたかった。だけどその言葉は、言葉にならなかった。

これまでとは違うその動きこそが、トモキが向こうに帰った証なら。


限りなく地味だけれど、それこそが俺たちのやってきた事の全てだ。

あいつが、元の世界に…


「あっ!!」


俺たち全員の声が、そこで被った。

脱力したトモキの手を、すぐ目の前に現れた人物が掴んだからだった。


誰なのかなど、考えるまでもない。

ついさっきまでここにいた人物だ。


そう。

タカネが、向こうに現れていた。


「タカネさん…」


ペイズドさんが、そう言った刹那。


ガバッ!!


だしぬけに、ネミルが抱き着いた。何も言えないままの俺の首に。

その感触で、俺は我に返った。


「やったのか!?」

「やったんだよ!!」


叫ぶ声が、少し裏返っていた。

抱き留めたネミルは、泣いていた。

泣きながら笑っていた。


「届いたんだよ、二人とも!!」

「………………」


数秒の沈黙ののち。


「どうよ。」


向き直ったローナが、そう言いつつニッと誇らしげに笑ってみせた。

これこそドヤ顔だと言いたくなる、限りなくいつも通りのローナ。



歓声が上がったのは、直後だった。


================================


画面の向こうで、タカネがトモキのスマートフォンというのを拾うのが

見えた。携帯電話なんだよなアレ。さすがに未来の技術って感じだよ。


どこかに電話したらしいタカネが、今度は手元で何か操作している。

程なく彼女は、明らかにこっちから俺たちが見ているアングルに向く。

差し出したスマートフォンの画面にあったのは、短い文章だった。


『救急車を呼んだ。致命傷は治したから、もう心配はないよ。』


「よおっしゃ!!」


今度こそガッツポーズだ!

もどかしい画面の中で、はっきりとタカネが俺たちに答えをくれた。

あいつがいるならもう、大丈夫だ。もちろんトモキは大変だろうけど、

それは根性で何とか乗り越えろ。

君にはタカネが付いてる。そして、この世界での記憶も持っている。


ゆっくり怪我を治して、自分の命を全うしていってくれ!!

………………


ああ、どっと疲れたな。



コーヒーでも淹れよう、うん。


================================


その後も地味だったけど、俺たちは小さな画面の中の顛末を見届けた。


付き添い始めて程なく、何かの音に気付いたらしいタカネが形を崩す。

何がどうなった?と思う間もなく、トモキの鞄の左縁に見覚えのある

小さな何かが現出する。考えるまでもない、フレドのぬいぐるみだ。

あれのミニバージョンが、きっちりカバンに固定されたんだと判った。


ああなるほどね。それで己の痕跡を消してしまうって事か。それだと、

通報したの誰だって話になるけど。すっ飛ばす気持ちなんだろうね。

謎として処理してくれれば、嬉しい限りです。


いいんだよ、地味でも。

結果こそが全てだ。


やがてやって来た救急隊員の手で、トモキは病院に運ばれていった。

もちろん、荷物のタカネと一緒に。


「んじゃ、ここまでだね。」


そう言って、ローナがいつの間にか眠ったらしいフレドに目を向けた。

同じく目を向けた俺たちが見ても、確かにその寝顔は違っていた。

そもそもこの場で寝るというのが、トモキならあり得ない事だった。


こっちも地味だけど。

話せなくなった以上、本人から成否を訊く事もままならないけど。

それでいいんだよ。


ディナに、フレドを返そう。

ずいぶん長くかかったけど、姉貴の息子として返そう。


見渡せば、みんな笑っていた。

フレドの無垢な寝顔に。

自分たちの成した事に。


そうだよな。

地味だけど、やり遂げたんだ。


今夜はお祝いだな。



せめてそっちは、派手にやろうぜ。

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