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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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錬金術師の憂鬱・11

チリリン。


「いらっしゃいませー!」

「どうぞー!」


お?

店員増えてる。景気がいいな。


「よう、ちょっと久し振りだな。」

「ああ。」


言葉を交わし、俺はカウンター席に腰を下ろした。


「コーヒー頼む。」

「分かった。」


トランと入れ替わりに、俺の正面にネミルが立った。


「お久し振りですねジェレムさん。最近どうですか景気は?」

「まあ、おかげさまで悪くない。」

「それはよかった。」

「そっちも店員が増えたんだな。」

「ええ、アルバイトですけどね。」

「ポーニーです。以後よろしく!」

「俺はジェレム。よろしく。」


三つ編みでポーニーか。面白いな。

最近何冊か読み返したから、余計にそのハマり具合が面白い。


俺以外に客はいない。いや、むしろ客が途切れるまで待っていた。

どうしてもひとつだけ、トランたちに確かめたい事があったから。


晴れた日の午後だった。


================================


「なあ、トラン。」


しばしの雑談の後、俺はほんの少し口調をあらためた。


「どうした?」

「ちょっと、見てもらいたいモノがあるんだけどよ。」

「?…ああ別にいいけど。何だ?」

「コレなんだけどな。」


何気ない口調でそう言いつつ、俺は胸ポケットから金貨を取り出した。

それを、迷わずトランのすぐ目の前に置いて見せる。


金色の輝きを放つ、俺が作り上げたあの1000ドレル金貨だった。


「……」


何も言わずに、トランはその金貨をゆっくりと指で摘み上げる。

ネミルもポーニーとかいうバイトの子も、金貨を凝視していた。


しばしの沈黙ののち。


「それでお釣りもらえるか?さっき頼んだ、このコーヒー代の。」

「………………」


何気ない口調でそう問いかけた俺の顔を、トランはじっと見つめた。

咎めるかのようなその視線を、俺は真っ向から見返して言葉を待つ。


真っ向から見返すなんて、本来なら絶対に無理だったろうな。

俺はそこまで図太い人間じゃない。きっと視線にも沈黙にも耐えられず

黙って逃げ出していただろう。


ああ、それが俺という人間だから。


「……おい。」

「うん?」

「お前これ、錬金術の天恵で作った偽造金貨だろ。」

「何でそう思うんだよ。」

「比重がおかしいからに決まってるだろ。馬鹿にしてんのか?」


明らかに、トランは怒っていた。


「これが純金製って事くらい俺にも分かる。仮にも接客業だぞ俺は?」

「金貨だぜ?純金で何が悪いんだ。価値は充分だろ?」

「純金の金貨なんてモノ、流通してねえよ。どれも合金製だ。」


そう言い放ったトランが、手にした金貨をカウンターに戻した。


「お前だって知ってるだろうが。」

「何をだ?」

「貨幣の偽造がどれほど重罪かって事だよ。これは天恵の悪用だぞ。」

「ジェレムさん…」

「それはちょっとマズいですよ。」

「………………」


ああ。

やっぱりか。

まあ、こういう結果になるってのは分かってたよ。


「何がおかしいんだよ。」

「ああ、悪い悪い。」


やっぱり笑ってしまったか。


そうなんだよな。

俺の錬金術じゃあ、どう頑張っても純金製の金貨しか作れないんだ。

どれだけ精巧に形だけ模倣しても、その部分は絶対に越えられない。

気付いた時には、脱力すると同時に笑いそうになったっけな。


ああ。

今となってはもう、笑い話だよ。


================================


「ちょっとした冗談だよ。」

「冗談で済ます気かよ。お前これ、何枚作ったんだ?」

「試作以外だと、それだけだ。」

「…本当だろうな。」

「お前が想像するほど、そう簡単に数は作れないんだ。心配すんな。」

「ならいいけど。」


釈然としないトランに笑いかけて、俺は件のコインをポケットに戻す。

まあ、これはただの確認だ。


「…それじゃあ、代わりにこっちを受け取ってくれ。」


そう言って鞄から取り出したのは、小さな置物だった。


「?」

「…あっ、チェルシャ!!」


真っ先に反応したのは、三つ編みの子だった。嬉しそうに眼を見開き、

俺が置いたもの―金のチェルシャを両手で持って掲げる。


「わー凄い!本物そっくり!これ、お作りになったんですか!?」

「ええ。まあ練習がてらね。」


本物って何だ。いたずらチェルシャは創作の中のキャラクターたぞ?

だけど何だか、本当に知ってるかのような説得力があるなあ、この子。

まあいいや、喜んでくれるなら。


「それなら受け取ってくれるか?」

「ああ。…お前がこういうのを作るようになったのか。意外だな。」

「俺だって意外だよ、誰よりな。」

「ありがとう、ジェレムさん!」

「こちらこそ。」

「ここに置いていいですか!?」


嬉しげにはしゃぐ三つ編みちゃんの声が、耳に心地良い。

そうだよ。

錬金術なんて、この程度の代物だ。



それでいいんだよ。

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