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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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僕はもう一度

光を感じた。

見えたんじゃなく、感じた。


何もないこの虚無の只中に、小さな光を感じ取った。そして同時に、

それが最後の選択なんだと悟った。


何かは分からない。

だけどこの光は、タカネさんが僕の肉体の何かに干渉した結果なんだ。

これを僕が掴めば、おそらくそれが合図になる。停まっている時間が、

その瞬間に動き出す。


そこまでを感覚で悟ったとすれば、ここから先は知識で予想できる。

来る前に散々聞かされていた事が、その瞬間に始まるんだろうなと。

「致命傷を負った」という現実を、死を覆した上でもう一度体験する。

おそらく、想像を絶する苦痛を伴う事になる。


何だろうな、これ。

ここに来てもう一回、自分の意志で決めろって事なんだろうか。

ヤだなあ、そんなの。

注射とか痛い治療とか、そういうの勢いでやってしまうのが普通だよ。

何でわざわざ本人が、最後の覚悟をもう一度決めなきゃならないんだ。

度胸試しとか根性試しとか、そんなノリなんだろうか。それとも…

………………


おい僕。


ゴチャゴチャ言ってるなよ。

しまいにタカネさんに怒られるぞ。

向こうのみんなにも怒られるぞ。


よおし。


ドンと来い!!


================================


瞬間。


「うわっ!?」


叫ばずにはいられなかった。

真っ暗だった世界に、もの凄い数の文字が一気にあふれ出したからだ。

とても目で追えないけど、とにかく何なのかはかろうじて理解できた。


要するに、プログラムだ。

空間全体をディスプレイと化して、超高速で書き換えが成されている。

何のプログラムなのかって?


そんなの、考えるまでもない。

僕の頭の中のタカネさんだ。つまり向こうの世界の僕の頭の中にある、

タカネさんの記憶と人格が書き換えられている。ここが僕の意識だと

するなら、頭の中で起こってる事が目に見える形で現れた…って事だ。


ゾクッ!!


いきなり寒気がした。

体温が低下しているという実感が、何の前ぶれもなく全身に満ちた。

全身?今まで意識だけの存在だったはずなのに、いきなり体の感覚?


…そうか。

吐き気を覚える悪寒と同時に、僕はこの現象をはっきりと理解した。



自分が、死につつある現実を。


================================


鮮明に理解できてしまった。


あの書き換えが実行された瞬間に、僕という存在は体に戻ったんだと。

ノートパソコンに何度も表示されたあの瞬間が、過去の映像ではなく

僕にとっての現実に戻った。だから「僕の」時がまた流れ始めたんだ。


時が流れるという事は。


心肺停止した肉体が、体温を失って生命活動を終える事を意味する。

酸素が送られなくなれば、脳はその機能を永遠に失う。


まだ痛みは来ない。

どんどん冷えていく感触だけ。

最初の時には感じ得なかったのは、魂が既にもう抜けていたからだ。

今ここに至り、僕はすごい時間差で自分の死を追体験してるんだ。


待ってくれ。

ちょっと待ってくれ。

冗談じゃない。

僕は死にたくない。


死にたくないんだよ!!

それが


『分かった分かった喚くなって。』


いきなり鮮明な声が聞こえた。

まぎれもない、タカネさんの声が。



『喚くのはこれからだよ』


================================

================================


ズキィィィィンン!!


またしても前触れなく、僕は全身の感覚を取り戻していた。ちっぽけな

意識体ではない。赤ん坊でもない。間違いなく、15歳の自分の体を。


「グアァァァァァ…ッ!!」


悲鳴はかすれて、ほとんどまともに響かなかった。何とか開けた目に、

頭上の月が妙に赤く見える。いや、視界そのものが赤黒くなっていた。


痛い痛い痛い痛い!!!


待ち望んだはずの痛みは、想像など遥かにぶっちぎって襲い来た。

意識が飛びそうな激痛が絶え間なく腹部を、そして腕と足を責め苛む。

胸部を強打したせいか、悲鳴すらもまともに上げられなかった。


そして何より、頭が痛い!!

この痛みは傷によるものじゃない。頭が内側から爆発しそうな感覚だ。

これが何なのか、痛みに苛まれつつ一瞬で理解した。


おそらく、モリエナさんと同じだ。

書き換えられたタカネさんの情報に頭が悲鳴を上げているんだ。

どうする事もできない激痛が、僕の意識を削り落とそうと押し寄せる。

今ここで気を失ったら、冗談抜きで二度と目覚めない気がする。


ショック死とは少し違うけれども、そんな屈し方はまっぴらごめんだ。

だから耐えろ僕!


今求められるのは、ただ死なない事だけ。本当にただそれだけだ。

この瞬間の僕の魂は、もうとっくに向こうに行ってる。これから生まれ

そして天恵宣告を受ける。それは、もう何もかも決まってるんだ。

もう一度行く事なんて出来ないし、誰ひとりそんな事は望んでいない。


だから踏みとどまれ僕!!



生きている事を、どうにか示せ!!


================================


その瞬間。


まるで人の形の牢獄のようだった、自分の肉体をはっきり認識した。

ショック死に抗いながら、恐らく無事だったらしい右手に集中する。

他はいい。とにかく右手を動かせ!


向こうの世界には、音が届かない。

トランさんたちは、おそらく固唾を飲んで僕を「見て」いるはずだ。

あのパソコンのディスプレイに映る僕に、何かの証を求めている。


だったら、僕が伝えるんだ。

僕がここに戻った事を、何とかして伝えるんだよ!!

………………


動いた!


激痛に耐え、震える右手を掲げる。

ほとんど見えないけど、あの画面がどっちから見ていたかは憶えてる。

同じアングルから見ているのなら、これが見えるはずだ。だからこそ、

もう少しでいいから高く手を…!


そこが限界だった。

痛みと脱力感に屈し、それ以上手を挙げておく事が出来なくなった。

ガクリと力が抜け、右手が落ちる。

血に塗れた地面に…


パシッ!


落ちるかと思った手を、誰かの手が掴んだのを感じた。

え?


誰だ!?

ここに人がいるなんて…


「よく頑張ったねえ、友樹。」


かすむ視界の中に、見慣れた金髪の女性の笑みがあった。

僕の目の前に、その人が屈みこんでいるのを辛うじて認識した。

誰なのか、考えるまでもなかった。


…と言うか、想定しなかった自分にちょっと呆れた。

考えれば分かるはずだったのに。

僕の頭の中のタカネさんが「覚醒」したのなら、現出できるって事だ。

勝手知ったるこの世界でなら、体を形成するなんて難しくもない。


…何だろう。

激痛さえ馬鹿馬鹿しくなった。


そうだ。

タカネさんが一緒なんだった。

その意味を、すっかり忘れていた。


僕の手を掴むタカネさんが、虚空に向けサムズアップするのが見えた。

顔は見えなかったけど、その意味ははっきり分かった。僕が思ったのと

同じ方向だったから。

きっとドヤ顔してるんだろうなぁ。タカネさんだし。


ああ。

僕は帰ってきたんだ。


動けないけど。


シャレにならないくらい痛いけど。


何なら死にそうだけど。


それでも僕は、帰ってきたんだ。

僕の世界に。


やりましたよ、向こうのみんな。

とりあえず…


救急車呼んで下さい、タカネさん。



早くっ!!

もう限界だから!!

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