時を超える運命
医療用ナノマシン。
それはまさしく、科学技術の結晶と呼ぶにふさわしい存在だ。…いや、
少なくともそのはずだった。
だけどこのあたしに限って言えば、そんな肩書きなど通用しなかった。
ドラゴンだの魔法だの魔術師だの、科学技術の結晶にケンカ売ってくる
概念があまりにも多かった。結果、あたしは肩書きを背負い直した。
もういいじゃないか。
あたしの超進化ナノテクも、見方を変えれば完全に魔法なんだから。
新世界で、あたしは魔術師でさえも超越した「何か」になっていた。
ところ変われば何とやら、である。
================================
あたしは、科学的な解釈だけに拘泥するわけにはいかなかった。
そんな堅苦しい事ばかり言ってたら拓美を守れない。現実は容赦ない。
だからこそあたしは、自分の存在をある程度ファンタジーで解釈した。
自己進化の末に、あたしはそういう柔軟な存在になれたのである。
だからこそ、言いたい事がある。
起動時なら一蹴していたであろう、実に非科学的極まりない形容を。
「運命」
何の根拠もないこの怪しい概念を、あたしは理解できていなかった。
何なんだこれ。
物事には順序ってものがある。その順序を踏んでこそ、人は事を成す。
最初から決まっている事に向かって動くなんて、あまりにも不条理だ。
予知能力とかならまだ分かる。いやそれが分かるのもおかしいけれど。
見えざる力で人が行動する理屈は、どうにも同意しかねる。
このあたりの意固地さが、あたしの元ナノマシンらしさかも知れない。
地球の科学技術や物理だけでは説明できない事象を、数え切れないほど
目にして認識を改めた。それでも、見えざる力なんてのは願い下げだ。
こっちの世界に来てからも、そんな考え方は変わらなかった。
ここにも「天恵」という不可思議な能力が存在するけど、そういうのは
丸ごと受け入れてしまえばいいって話だ。受け入れた上で、この世界の
摂理というものを見極める。結局、それがもっとも合理的なんだから。
さすがに神様の存在は、受け入れるまでにちょっと抵抗があったけど。
目の前にいるんだから仕方ないって考え方で、最終的に納得に至った。
そしてまたこの神様が、俗っぽい。人ならざる存在であるはずなのに、
言動が変に拓美に似ていたりする。もちろん、大した事もできない。
前に、本人に訊いてみた事がある。
あなたは、この世界の運命を完全に把握している存在なのかと。
「んなわけないじゃん。」
鼻で笑われた。
「この姿だろうと恵神ローナ本来の姿だろうと、あたしは世界の運命に
干渉するような存在じゃない。いやむしろ、絶対にお断りだよ。」
「なるほど、そうでしょうね。」
あっさり納得ができた。
彼女がそんな全知全能でないという事実は、確かめるまでもなかった。
たとえ人智を超えた神であろうと、運命を動かすなんて事はできない。
それでいい。そんな存在は退屈だ。
先が見えないからこそ世界は尊い。真っすぐ歩んで行こうとも思える。
それでいい、いやそれがいいんだ。運命なんてもの、なくてもいい。
いかなる不条理を目にしてもなお、あたしはそのへんが意固地だった。
たとえ物理法則を超越している力が普通にある世界としても、摂理には
ちゃんと従う。意固地なあたしは、その信念を捨てたりしなかった。
だけどね。
たまに例外もあるって話なんだよ。
================================
================================
伝わってくる。
この骸の中に広がっている、虚無としか言えない黒い世界の中で。
友樹の魂が、生きたいと叫んでる。あたしの助けを求めている。
ここまで一緒に来られたんだから、最後に頼るのは当たり前の話だ。
あたしはそのために在るんだから。
だけど。
時間を超越したこの瞬間、あたしは体があったら苦笑いしただろう。
これが運命ってものなのか、とね。
あたしは、もともとナノマシンだ。故に多く在る事こそが前提になる。
その特性を応用して、様々な局面でバリエーションを増やしてきた。
結果、どこの世界にも「タカネ」と呼ばれる存在がいるのが現状だ。
現在のこのあたしは、かつて拓美の腕に宿って異世界転移を体験した
個体のコピーである。プログラムと化す際、その記憶は全て継承した。
あたしが異世界に向かった理由は、もちろん「二階堂環を救う」ため。
彼女のいる世界では不治の病でも、あたしの世界ではもうとっくの昔に
治療法が確立されていた心臓の病。それを治療できるのはあたしだけ。
だからこそ、無茶な異世界転移にも挑んだのである。
そして、あたしは環の命を救えた。結果が全てである。そしてその後も
彼女の心臓の内部に留まり続けた。直ったとは言え不安があったから、
サポートという意味でそこにいた。今思うとかなり神経質になってた。
拓美が新たな宇宙船を作って地球を旅立って初めて、あたしは人間の
体を成した。
思い返してみれば、あたしは間違いなく「他人の体を治す」という事に
もっとも適したタカネだったんだ。ハングトン時空に渡って環の心臓に
長い間宿り、あの世界の人間というものをとことんまで調べ尽くした。
ほとんど同じだけれど、少し違う。異世界ってそういうものなのかと、
調べながら考えた記憶がある。
つまりはそういう事だ。
異世界転生した友樹の許に現出したあたしは、数多のタカネの中でも
おそらく最も「拓美以外の人間」を救うのに適した個体なのである。
大げさでも、自意識過剰でもない。自分を知っているからこそだ。
意固地なあたしでも、さすがにこの巡り合わせには感じてしまうよ。
ああ、これが運命なんだなってね。
友樹はまだ死ぬわけにはいかない。運命がそう告げているからこそ今、
あたしという存在がここにいる。
便利な言葉だよね運命って。
うん。
================================
さあてと。
じゃ、ご要望にお応えしましょう。
ねえ友樹。
自分の運命に感謝しなよ。
あたしがここにいる事にね。
行くよ友樹。
激痛に耐えてみせろ!!




