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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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トモキの世界へ

「準備完了。」


告げたローナが、小さく息をつく。

あたしは思わず、窓の外を行き交う人たちをチラと確認してしまった。


終日休業の札を出したから、お客が来る事はない。それでも、今ここで

やってる事を見られるのはマズい。ましてや、もしディナさんが早々に

戻ってきたら、目も当てられない。それくらい、今はビジュアル的に

問題がある…と言わざるを得ない。


怪しい機械、もといノートパソコンの背部から伸びるケーブル。それが

輪をかけて怪しいヘッドギアに接続され、赤ん坊が装着している。

控えめに言って、生体実験をやろうとしているようにしか見えない。

イザ警部が来たら、一発で逮捕だ。その時は多分トランが身代わりに…


ああもう、雑念が多いぞあたし。

先陣を切って架け橋をかける役目を担うのに、こんな調子でどうする。



もっと開き直れ!


================================


とは言え、これからやろうとしてる事は、完全な人助けだ。

普通に考えると人助けかどうか判断しづらいけど、あたしは神託師だ。

ましてやこの場には、恵神も魔王も揃っている。異世界人だっている。

今の世界の尺度では計れない人助けだって事は、百も千も万も承知だ。

迷わず実行あるのみである。


というわけで、手順を確認。


まずはあたしが【偉大なる架け橋】の天恵を発現させ、それをローナが

自分のパソコンに取り込んで変換。このあたりはよく分からないけど、

具体的に干渉する前なら「映像」として処理できるんだそうな。??

ともあれ、そこは信じるしかない。あたしたちは完全なる門外漢だし、

いちいち理解する必要はない。ただ自分の役割を果たすだけだ。


とにかく、あたしの天恵を映像の中にいるトモキの頭にリンクさせる。

向こう側の世界そのものではなく、トモキという存在に紐づけるのだ。

その前段階でも、事故による負傷の状態はしっかり把握できている。

致命傷という事はひと目で判るし、何度見ても怖い。だけどここからは

過去の映像じゃない。現在進行形の出来事としてあたしたちと繋がる。


首尾よく繋げられた後は、ローナとタカネの出番である。それ以降は、

もはや祈りながら見守るしかない。あたしたちなんて、そんなものだ。

卑屈にはならない。それはトランも同じ。今日に至るまでの苦労を、

決して無駄にはしない。あたしも、開き直って見極めるまでだ。


よおし。んじゃ行こう。

指が痛くなるほど、今日までずっと指輪は着けっ放しである。もはや、

ネイルの天恵の扱い方は理解した。もしかすると、本人以上に精緻に。

原理などはさっぱり判らないけど、天恵を扱うのに小難しい理屈なんか

いらない。それこそが天恵だから。あたしたちみんな、それを理解して

今日まで頑張ってきたんだからね。


トモキとお揃いのヘッドギアを頭に装着し、あたしは目を閉じた。

途端に、傍らのトモキの記憶の断片が一気に視界に溢れこんでくる。


逆らうな。

パソコンに接続しているからこそ、向こうの記憶がこっちに流れ込む。

興味深いけど、今のあたしがすべき事は記憶の覗き見なんかじゃない。

画面に映る世界を、しっかり感覚で体験しておくという事だ。


「…よし!」


流れ込む記憶の奔流が、前触れなく霧散する。ローナ風に言うなら、

トモキの魂とあたしの今の天恵とが「馴染んだ」って事なんだろうね。


じゃあ、向こうの世界を少し…


「うわっ!?」



あたしは、思わず悲鳴を上げた。


================================


画面へと突入した主観が、そのまま向こうの世界に投げ出された。

明らかに、こことは違う異世界だ。何もかもが違っているその只中に、

凄まじい数の人間が存在している。…ってか、ここはどこ!?


「新宿駅」


初めて見る、駅名の表記が読めた。読める理由は分からない。

朝の通勤時間なのか、数え切れない人が電車の中にひしめいている。


「山手線」


流れるアナウンスの言葉が分かる。

緑色の電車を突き抜けて、あたしの視界は猛スピードで移動する。


「秋葉原」


理解しがたいほどの、看板の乱立。これがローナの言っていた聖地か。

書かれている文字やイラストが理解できてしまうだけに、思考が情報の

奔流に押し流されそうになる。


まずい!

このままだと、あたし自身の意識が向こうの世界に…!!


『しっかりしてネミル!』


前触れもなく、耳元でローナの声がはっきり聞こえた。それと同時に、

意識が街並から一気に距離を取る。あっという間に、世界は青い球体に

集約された。


「地球」

「宇宙」


ああなるほど、あれが天体なんだ。

さすがにこっちの世界でも、宇宙の概念はもうとっくに発見されてる。

だけどもちろん、それを感覚で体験した人間なんてまだ一人もいない。


世界は違うけど、これがそうか。

何と言うか、圧倒的に綺麗だね。


ここまで遠ざかると、何もかも全てちっぽけに思えてくるよ。

だけどそのちっぽけな世界の中に、あたしたちもトモキも生きている。

それぞれの世界で命を紡いでいる。…そうか、これが神様の視点か。


なるほど納得。


【偉大なる架け橋】だね確かに。


ネイル・コールデンがどんな世界を見てきたのか、今さら興味深い。

あんな形で終わりを迎えた彼女が、何だか悲しい。

でももう、振り返っても仕方ない。彼女は彼女なりに未来を選んだ。

恵神ローナも天恵も否定したんだ。だったら、受け入れるまでだろう。

もったいない事したね、ネイル。


よおし。


ちょっと危なかったけど、トモキの世界を天恵を介して理解できた。

そして確信が持てた。

こここそが、トモキの世界だと。


あたしが

あたしの中の天恵が

今この瞬間


架け橋を築き上げる。

荒野友樹の、死にゆく肉体に。


いいよローナ!

いいよタカネ!

気合を入れて、戻れ友樹!!

あたしが架けた橋を走り抜けろ!!


光の架け橋が



オラクレールに届くのが見えた。

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