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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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あたしと指輪と人生と

お爺ちゃんの遺してくれた指輪。

これが、あたしを唯一無二の存在にしたと言っていい。神託師としても

天恵持ちとしても、あたしはかなり奇妙な存在だ。


神託師は、天恵の宣告を受けない。それは昔から続く、絶対の禁忌だ。

今もなお、あたしは己の天恵を一切知らない。知ろうとも思わない。

もちろん禁忌を破った者も、歴史の中に何人もいただろう。その点に、

もはやとやかく言う気などはない。そしてあたしは、破ろうなどとは

決して思わない。


正直、最初の頃は名ばかり神託師になる選択もアリかな、と思ってた。

継ぐ事はもう決めているんだから、次の代に託すという選択も。

何と言っても、トランと一緒に店をやるという道は決めていたんだ。

真面目に慎ましく生きていくには、十分じゃないかと思っていたっけ。


そういう意味で見れば、この指輪は実に迷惑な代物だったとも言える。

こんなのもらったら、名ばかりなど絶対に許されない。ちゃんとした、

本物の神託師になるしかない。別に恨み言を言う気は微塵もないけど、

大変だなあといつも思ってるよ。


着けるだけで相手の天恵が見える。天恵宣告を実際に行う事も出来る。

真面目に修業を積んだ人たちには、ズルをしたようにしか見えない。

天恵宣告が廃れなかった時代なら、大金持ちになれただろうねきっと。


だけどまあ、現実はかくの如きだ。

ネラン石さえも必要とせず、気軽に天恵を見る事ができる。その事実は

厄介ごとを引き寄せる呪いだった。何度も危ない目に遭ったし、何なら

トランの手で殺された事さえある。楽できる代わりに背負ったものが、

どうにも重たいような気がするよ。一周回って、お爺ちゃんはそういう

バランスをちゃんと考えてたのかも知れない。それなら大したもんだ。

………………いや、それはないかな。


うん、ないない。


================================


「じゃあネミル、よろしく。」

「分かった。」


答える声が震えないのは、我ながら大したもんだと思う。


================================


指輪の持つ可能性は、お爺ちゃんの想定なんかはるかに超えていた。

宣告前の天恵を、自分のものとして借りる事ができるというオマケ。

初めてそれを体験した時は、何だか異様にテンション上がったっけな。


あらためて思う。これって、本当に危険な能力だなと。

オレグスト・ヘイネマンの鑑定眼も大概だけど、あたしは彼よりさらに

イレギュラー感が凄い。正直な話、悪用し放題だったんじゃないか。

盛大に生き方を踏み外していても、何にも不思議じゃなかったと思う。

事実、【錬金術】を得た時はかなりあたしもトランも変になっていた。


だけど、そうはならなかった。


この力を私利私欲だけのために使う事は、少なくとも今日に至るまでは

ほとんどなかった。誇ってもいいと思えるくらいには、自制していた。


【死に戻り】の連鎖を食い止めた。それがきっかけで、ローナが来た。

あたしの凡ミスで、トモキの運命を変えてしまう事になった。そして、

彼がタカネとの出会いに繋がった。

あらためて考えれば、このあたしが原因になった事は意外と多かった。

いい事も大変な事も、このあたしとお爺ちゃんの指輪が呼び寄せてた。


それに対して、今さらあれやこれや思い悩む気はない。全くない。

もちろん責任は感じている。だけど後悔なんかしても何にもならない。

トランもローナも、誰ひとりとしてあたしにそんなものは求めてない。


指輪を見つけて。

その力を得て。

大変な目には何度も遭ったけれど、その都度みんなで乗り越えてきた。

そんな積み重ねの末に、今がある。みんながここに集っている。


あたしたちは今これから、トモキを元の世界に送り返す難題に挑む。

ローナとタカネが頼みの綱だけど、実際に送り届けるのはあたしだ。

【偉大なる架け橋】の力を使って、トモキの魂を向こうへと送る。

恵神ローナをして、とんでもないと形容されるミッションだ。だけど、

あたしに不安と呼べる感情はない。緊張はしてるけど、不安はない。


どうしてだろうか。

それはきっと、説明しても判らない事じゃないかと思う。


お爺ちゃんの指輪は、唯一の物だ。つまりそれを着けているあたしも、

世界に一人だけの特異な神託師だ。決して大げさじゃなく、事実だ。

だからこそ、あたしにしか判らない事というのが存在するのである。


ネイルの天恵は、他とは違う。

規格外な能力なのは知ってるけど、これはそういう意味じゃない。

あたしの中に宿る天恵の存在感が、今までとは全く違うのだ。

きっと「ネイルだから」じゃない。彼女が特別だったわけじゃない。

あたしが力を得た経緯のせいだ。


宣告前の天恵を借りるのではなく、既に宣告されている天恵を本人から

無理やり切り離す。そして丸ごと、指輪に収めた。さすがにあの時は、

かなり怖かったのを憶えている。


そして今、あたしは感じている。

内なる力を。

ローナの命ひとつを引き換えにして得たその力が、他とは違う事を。


そそっかしいあたしだけど。

だからこそ、きっちり臨むよ。

きっと大丈夫。


さあて、友樹くん。

橋を架けるよ。



迷子にならないようにね!

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