表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
583/597

一度きりの挑戦

いくら何でも、チートが過ぎる。

何度も思ったけど、あえて口にする気にはならなかった。今さらだし。


心拍だ脳波だ血圧だと、どう見てもオーバーテクノロジーっぽい表示が

どんどん増えていく。言われるままそれを引っ張り出してるネミルも、

完全に開き直っている。おそらく、今この瞬間だけ俺の店は遠い未来の

病院みたいになってるんだろう。


何だかなあ、本当に。


================================


「あっ!」


何かに気付いたらしいポーニーが、せかせかと早足で入口に向かう。

目を向けてみれば、ドアの向こうに怪訝そうなニロアナさんがいた。


チリリン。


「あれ、今日お休み?」

「ええ、ちょっと臨時で。」

「なあに?」


明らかに挙動不審なポーニーの顔をじっと見つめつつ、ニロアナさんが

ニッと笑って告げる。


「変な事やろうとしてる?」

「いえいえ、滅相もない!」

「ならいいけどねー。」


意味ありげな視線を向けられ、俺はとりあえず曖昧に会釈しておいた。

この人が天恵宣告に興味を持たないのは、本当に助かると思いながら。


「今日は終日?」

「その予定です。すみません。」

「なら、終日って書いて貼り出した方がいいよ。」

「あっ、そうですね確かに。ご指摘ありがとうございます。」

「んじゃ、また明日来るからね。」

「お待ちしてまーす!」


それ以上何も言わず、ニロアナさんは手を振って帰っていった。

身を硬くしていた俺は、そこで息をついて座り直す。


そう。

オラクレールの日常は続いている。昨日と同じように、そして明日も。

今日が特別であったとしても、俺もネミルも変わらない。変わる事は

許されないだろう。


だからこそ、失敗も許されない。

ローナがやっている医療的確認も、決して過剰なものじゃないだろう。

恐らく二度とないこの難しい試練に対し、真っ向から挑んでるだけだ。


頼むぜ、本当に。


================================


「…よおし。」


ようやく納得したらしいローナが、トモキに視線を向けた。もちろん、

今の彼は会話が出来るように専用のガジェットを装着している。


「心肺停止のタイミングをしっかり確認した。この瞬間に魂がこっちに

転移するのも間違いない。」

『つまり、その直後にこの僕が体に戻るって事なんですよね。』

「そう。」

『…………分かりました。』


さすがに、トモキの声は固かった。もし事故の瞬間を憶えているなら、

本人にとっては耐え難いトラウマになっているだろう。そこにあえて、

もう一度飛び込もう…というのだ。怖くない方がどうかしている。


『肉体の損傷も完全に把握した。』


パソコンからタカネの声が響く。


『最低限どこを治療すればいいか、シミュレーションも完了してる。』

『ありがとうございます。』


言い方が固いけど、トモキらしい。そう思える程度には親しくなった。

そんな事を考えると、今さらながら名残惜しくなってしまう。


だけど、今ここでそんな気持ちなど言葉にすべきじゃない。

トモキは、気楽な里帰りをするってわけじゃない。語弊があるけれど、

命がけの挑戦に臨むんだ。ならば、迷いを生む事を言うべきじゃない。

俺たちはただひたすら、無事に事が運ぶのを祈るだけだ。それこそが、

トモキの友だちとしての務めだ。


俺たちも苦労したけど。

トモキだって、転生した後の日々は決して楽じゃなかっただろう。

不安の中で、それでもフレドの魂をずっと守り育ててくれていたんだ。

短い間ではあったけれど、トモキは間違いなく俺たちの友だちであり、

そして家族だった。

ネミルたちがどう思うか、今それを訊いたりするのは違うだろう。

こればかりは、俺たちが自分の心に問い、そして割り切るべき問題だ。


うまくいった時にこそ、俺は自分の気持ちを口に出せばいい。

「名残り惜しかった」と、過去形で言えばいいだけだ。



ひねくれてるよなぁ、我ながら。


================================


「…よし。」


キーボードから手を離したローナの声は、今までになく重々しかった。


「やれる事は全部やった。もう後は本番に臨むだけ。」

「いよいよか。」


覗き込んだ画面には、事故の瞬間が静止画像になって映っている。

何度も見た画面だけど、慣れない。過去の現実と思うと、なおさらだ。


「何度も言ってるけど、異世界ならこうして何度も見直す事ができる。

それが恵神としてのあたしの力。」


己に言い聞かせているかのように、ローナは低い声で粛々と告げる。


「だけど、事を起こせばもうそれは出来なくなる。」

『向こうの世界の歴史に、本格的に介入する事になるからでしょ。』

「その通り。」


タカネからの言葉に答える声にも、いつになく重みが込められていた。


「【偉大なる架け橋】で繋いだその瞬間、二つの世界の歴史も繋がる。

トモキにとっての過去は「現在」になり、そのまま過ぎていく。」

「………………」


しばしの間、俺もネミルも誰も口を開かなかった。

ローナの放った言葉を、現実としてしっかり受け止めるために。


そうだ。

何度も繰り返し見たせいで、何だか作りごとのように感じていたけど。

この事故はフィクションじゃない。実際に起こった事である。そして、

今から実際に「起こる」事になる。過去は現在に、そして未来になる。


考えれば考えるほど、途方もない。俺なんかには理解し切れない話だ。

現実と虚構の隙間に立っているかのような、圧倒的な不条理である。

これに比べりゃ、誰の天恵も大した代物じゃないと思えてしまうな。

今さらながら、ちょっと怖くなる。当事者でもないのに情けない限り。

だけど、それでも…


『じゃあ、お願いします。』


そう言ったのは、トモキだった。


そうだよな。

そうこなくっちゃな。


自分で決めたから、自分で始まりを告げる。さすがはトモキだ。


頼むぜローナ。

頼むぜタカネ。

頼むぜネミル。



気合いを見せろよ、荒野友樹!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ