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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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タカネと俺たち

キュイン!


あっ!


ローナのノートパソコンの画面に、いつも通りタカネが吸い込まれる。

不条理だけど、もはや見慣れている光景だ。今回もそのはずだった。

しかし俺は、そこで声をかけ損ねた事に苦い後悔を感じていた。


トモキを元の世界に送り返すのは、今日これからだ。もう決定事項だ。

俺たちはもちろん、トモキも覚悟を決めて今日という日に臨んでいる。

今さら怖じ気づく事もない。


だけど。

もしこのまま作業が始まれば、もうタカネが人間態に実体化する機会は

来ないのかも知れない。手順などは確認していたものの、挨拶がまだ…

…………………


よそう。

「これが終わればお別れだ」とか、明確に言われた訳でもないんだ。

まして、説明時点でローナが何度も言ってたじゃないか。



トモキとタカネは違うんだと。


================================


今になってなお、俺たちはタカネという存在を理解し切れていない。

テクノロジーの隔絶が、あまりにも大き過ぎるからだと本人が言った。

身も蓋もないけど、それが現実ってものなのだろう。認めるしかない。

ましてや俺もネミルも、技術者とかではない。ただの飲食店経営者だ。

そこで卑屈になる理由は何もない。

だけど、それなりに付き合いが長くなったから、原理が分からなくても

やろうとしてる事の概要は分かる。どうにかついていける。


これから挑もうとしている難題は、トモキの魂を本来の世界にある体に

送り返すというものだ。本来なら、恵神ローナの力をもってしてもまず

不可能だった行為だ。しかし現在、ネミルはネイル・コールデンの天恵

【偉大なる架け橋】を指輪に収めて我がものとしている。外せばすぐに

体から離れるものの、既にある程度具体的に使えるようになっている。

これをノートパソコンの処理能力に上書きし、異世界への干渉を行う。


はっきり言って、ローナにとっても未知の挑戦らしい。しかし彼女は、

曲がりなりにもこの世界の神様だ。そこは任せていいだろう。本人も、

いろいろ試して練度を上げている。本気になれば心強い人物だからな。

とりあえず、魂を向こうに送り返すために必要なのは彼女たちの力だ。

これを組み合わせれば何とかなる。そこはもう、何度も確認している。


しかし言うまでもなく、これだけで終わらせるってわけには行かない。

何と言っても、戻った先のトモキは交通事故で致命傷を負っている。

いや、正確に言えば死んだ直後だ。そんな体にそのまま戻してしまえば

当然、彼を待つのは再びの死のみ。救いでも何でもない。



だからこそ、タカネが必要になる。


================================


とは言え、タカネをトモキと同様に向こうに送る事は不可能らしい。

曲がりなりにも体があるトモキとは異なり、タカネは彼の記憶の中に

プログラムとなって潜伏していた。つまり、最初から存在が「ない」。

非常に雑な言い方になるが、これでもし送れば、タカネは幽霊になる。

魂だけの存在では、とてもトモキの物理的な治療などはできなくなる。

なら、どうすればいいのか。


と言ってみたものの、どうすべきかについては俺でも割と想像がつく。

自分ではもちろんできない事だが、システム自体は理解できてるから。


脳に損傷がない。これがポイント。


そもそもタカネがこの世界に来れた要因は何だったか。向こうの本体が

生まれたばかりのトモキに、彼女の人格と記憶をまとめたプログラムを

強引に憶えさせたからだ。つまり、トモキの頭の中にはタカネがいる。

魂ではなくプログラムとしてなら、そうそう抜けてしまったりしない。

どの瞬間のトモキも、記憶の奥底にタカネという存在を秘めている。

もちろん、事故の瞬間にも。


つまり、それを依代にする。


今のままでは、事故に遭ったトモキ本人の記憶にいるタカネは、単なる

プログラム情報でしかない。いわば休眠状態である。それでも確かに、

トモキの中にはタカネがいる。


「そう。」


俺の推測を聞いたローナが、大きく頷いて言っていた。


「こっちのタカネの存在を向こうのプログラムに上書きして、強制的に

覚醒させる。そうなれば、向こうにこっちのタカネを送り返したのと

ほぼ同じ結果になるからね。」


やはり、俺の考えは正しかった。

異界の知にも程があるが、それでも慣れというのは怖いもんだ。

こうして、曲がりなりにも理解までできてしまうんだからな。


タカネがこっちの世界に来たのは、まさに異世界転生の裏ワザである。

ネイルの天恵無しでここに来たのは本当に凄い。…もちろんローナが、

トモキの記憶を覗き見たからこその結果だったけれど。

ともあれ、これでどうにかなった。

タカネが、ナノマシンという特殊な出自であるがこその裏ワザである。

今この時までの記憶も持ち込む事ができれば、状況の把握さえ一瞬だ。

後はもう全面的に任せるしかない。


「ま、環で経験済みだから。」


これまた心強い事を言ってくれる。聞くところによるとタカネは過去、

これとほぼ同じシチュエーションでトモキの伯母を救っているらしい。

こんなシチュエーションが二度目というのも大概だけど、それはもう

ラッキーだったの一言で片づける。


そしてここに、トモキとの決定的な違いがある。

向こうの世界に現出するタカネは、あくまでもこっちのタカネの記憶を

コピーした存在に過ぎない。つまりタカネ自身は世界の壁を超えない。

向こうに現出するタカネに、トモキの命運を託す事になる。


そう。

タカネ自身は向こうには行かない。だから、慌てる必要はないはずだ。

そのはずだ。


だけど。


本当にそうなのだろうか。

ふと目を向ければ、傍らのネミルも俺と同じ不安の表情を浮かべてる。

おそらく、同じ事を考えている。


だけど。

俺たちに、何か言う資格はない。

付き合いがそれなりに長くなったと言っても、タカネは異世界の人だ。

そして元の世界には、彼女の存在の根幹を成す人物がいたという。


彼女は、ここにはいない。

それはもう、どうしようもない。


タカネがここにいる理由。

それはひたすら、トモキを元の世界に戻すためだ。


だとしたら。

俺は

俺たちは

………………………………


やっぱり



何も言えなかった。

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