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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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これぞチート天恵

ルトガー爺ちゃんが亡くなって。

ネミルが神託師の職を継いで。

俺が喫茶店を開く事になって。


誕生日を迎えるまでは、全く考えもしなかった日々が始まった。

色んな事があり、色んな人を知り。天恵の存在意義を、何度も考えた。

天恵は、間違いなく俺たちの人生を大きく変えた。


そんな中で、もっとも俺やネミルの生きる道を変えたのは誰だったか。

思い出す必要も、迷う必要もない。答えはいつも同じだ。むろん今も。


エゼル・プルデス。

【死に戻り】の天恵を持つ男。



間違いなく、こいつだった。


================================


この男は、ネミルから天恵の宣告を受けた事により、狂気に染まった。

自分を裏切った女性を始めとして、大勢の人を意味もなく殺し回った。

その中には、ディナさえ含まれた。


奇跡に近い偶然を逃さず、俺たちはエゼルの天恵を消した上で葬った。

無限に世界を巻き戻す【死に戻り】の連鎖を、どうにか断ち切った。

失敗していたら、ディナはそのまま失われていた。

ディナがあの時点で死んでいたら、タカネやトモキがこっちの世界まで

やって来る事もなかった。本人には自覚すらないけど、ディナの天恵は

世界を超える偉大なものだった。


ローナははるか昔、【死に戻り】の天恵持ちを「処分」した事がある。

本人に聞いたけど、殺したとかではない。ただ天恵を打ち消した。

神の状態のままなら、特定の天恵を取り上げる事もできるんだそうな。

もちろんネイルたちのように、己を殺させて分離…って手段ではない。

割と容赦なく個人の持つ天恵を消す処置だ。そこはやはり恵神である。


しかしローナは、これを嫌がる。

神として一方的に力を振るう事に、マイナスの感情を持っている。

そして、人間の歴史に興味など全く持たない恵神として、干渉しない。

いつ誰がどこで何をしようと、一切関与しない。それが彼女の道理だ。

その道理を曲げざるを得ない天恵。それこそ【死に戻り】なんだとか。

つくづくとんでもない相手と戦ったのだと、今さら呆れる話である。


【死に戻り】はこの世界で唯一の、「チート」天恵らしい。世界全体に

無限の影響をもたらし続けるのは、明らかに反則級のイレギュラーだ。


「何でこんな天恵があるんだよと、処分した時はいつも思ってたよ。」


おそらくよほど不本意なのだろう。語るローナは随分と悔しげだった。

いずれにせよ、エゼルの天恵こそがこの世界におけるチートだったのは

間違いない。


だけど今、あらためて思う。



【偉大なる架け橋】もまた、場合によってはチートなんじゃないかと。


================================


ついに、トモキを元いた世界に戻す作戦が開始された。


と言っても、正直俺に出来る事などほとんど何もない。見守るだけだ。

頑張るのは本人とローナ、タカネ、そしてネミルだ。俺はここまでで

それなりに役目を果たしてるから、潔く任せて成功を祈るばかり。

ポーニーもモリエナたちも同じだ。


「んじゃ、頼むねタカネ。」

「分かった。」


そう言ったタカネは、いつもどおりノートパソコンの中に吸収される。

ちなみに鳥やぬいぐるみなど、分体と呼ばれるタカネも統合している。

残ったのはトライアルεの分だけ。しかも機能だけ残し、「タカネ」の

人格は本体に戻したんだそうな。


これは、タカネなりの線引きだ。

この世界に来た理由と向き合って、その上で決めた事らしい。そこに、

俺たちの気持ちを差し挟む余地などない。それはみんなが分かってる。

分かった上で任せる。


「よし、同期した。」

『こっちも行けるよ。』


ローナとスピーカー越しのタカネの声がダブる。いよいよらしい。


「それじゃ、ネミルお願い。」

「分かった。」


ここで、まずネミルが受け持つ。

ネイルの天恵を使った、現時点での最重要ポイントを。


================================


2039年9月18日の夕暮れ。


向こうの世界のこの時点において、トモキは交通事故に遭って死ぬ。

確定した事実であり、これまでにも何度もその瞬間をパソコンの画面で

見ている。何度見てもぞっとする。


事故の瞬間以降の向こうの世界は、決して見る事ができない。それは、

俺たちの行動次第で変わる「未来」だからだ。と同時に、事故より前の

どこかに干渉する事も許されない。歴史が変わってしまうからだ。

トモキを送り返すのは、事故直後。死んで魂がディナの天恵に引かれ、

こちらの世界まで来た直後である。この瞬間に魂を体に戻す。


もちろん、ただ戻しただけならまた死んで、今度こそ終わってしまう。

そうならないようにタカネが損傷を修復し、肉体の蘇生を試みるのだ。

全快などは望むべくもない。ただ、致命傷だけを治して助けを呼ぶ。

文字通り、死ぬほど痛い目に遭う。それはトモキも覚悟の上である。


だからこそ、万全を期す。


「じゃ、CTスキャンしてみよう。やってみて。」

「ええっと…CTスキャン…」


パソコンのキーを指で押しながら、ネミルが聞いた事もないその言葉を

呟きながら集中する。俺としても、それが異界の知なのはすぐ判った。

ネイルが魔鎧屍兵の概念を異界から持ち込んだように、トモキの世界の

医療技術を引き込んでいるらしい。


たっぷり20数秒後。


「あ、来た!!」

『表示するね。』


ローナとタカネの言葉の後で、別のウィンドウが開く。どうやらそれは

何かを輪切りにしたような映像だ。もしかしてこれがCTスキャンか?

つまり…


「…トモキの体の映像か、これ?」

『そう。』

「ええー…」


ポーニーたちがドン引きしていた。俺も同じである。正直、不気味だ。

向こうの世界にはこんな医療技術があるってのかよ。想像を超えるな。

でも、不気味なのはどうでもいい。必要なのは損傷を知り得る情報だ。

こんな風に輪切りで透過できるのは本当に凄い。


『よしよし。頭と呼吸器の損傷は、これで把握できる。』

「どんな感じ?」

『さいわい脳に損傷はない。なら、中にいるあたしも無事って事よ。』

「よっしゃ!」


思わず異口同音の歓声が上がる。

重傷なのは一目瞭然だ。しかし脳に損傷がないなら、望みは見える。

まずは最初の関門突破だ!


それにしても。

最初から異界の知を知り尽くしてるローナが、【偉大なる架け橋】を

使ってそれをパソコンに読み込む。こんな連携が出来るなんて、まさに

恵神ならではといった感じである。本当にいいのかと、不安になるよ。

でもまあ、やっちゃいけないという決まりなんかないんだろう。何せ、

やってるのが恵神その人なんだし。


あらためて思う。

今のこの使い方こそ、【死に戻り】をも超えるチートじゃないのかと。

いや、きっとそうだろうな。


だから何だ。


天恵は自己責任。それはこんな状況においても揺るがない定義だろう。

人を助けるためなら、俺たちはその領域に迷わず踏み込んでいく。



チート、望むところである。

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