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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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最後の朝に

今さら言うのも何だけど。

俺は子供の頃から喧嘩が弱かった。するのも好きじゃなかった。

その割にあんまり牧歌的な性格にはならなかったけど、それはいい。


【魔王】という天恵は、そんな俺を少しずつ変えていった気がする。

良かったか悪かったか定義するのは愚の骨頂だ。天恵が自分の運命だと

受け入れなければ、全ては納得からほど遠いものになってしまう。

要するに、全て自分次第って事だ。

そして俺は少なくとも、【魔王】に呑まれてしまう事はなかった。

これからの事は分からないけれど、まあ何とか折り合いをつけていく。

そのつもりでいる。


まだまだ俺は人間だ。

だからこそ俺は、俺たちは。

トモキを元いた世界に帰すために、あれほど苦労をしたのである。


そして明日、いよいよその大いなる目的に挑む。

これに関して俺に出来る事はない。いや、俺に出来る事はもうやった。

旅の途中で何度となく、【魔王】を使って危地を切り抜けてきたんだ。

ここから先をローナたちに一任するという現実に、卑屈にはならない。

信じて任せるだけだ。少なくとも、それができる程度には色々な事を

一緒に乗り超えてきたんだから。


誰かのために必死になる。

誰かのために全力を尽くす。

多分生まれて初めてだったと思う。


いや、家族やネミルのために自分の命を懸けた事は何度かあった。

やらなきゃどうにもならない事態。乗り越えるために全力を尽くした。


だけど、トモキは違う。

フレドの体に宿ったとは言っても、異世界から来た他人である。正直、

知らん顔をする選択だってあった。ローナもそれを責めはしなかったと

今でも思っている。何と言っても、トモキは一度死んでいるんだから。


思いがけない出来事が重なった末、俺たちはトモキの選択を尊重した。

元の世界に帰りたいという希望に、全力で応える事にした。


他人のためにここまで必死になれる自分が、意外だけど誇らしかった。

今思えば、こういうお節介な性分が【魔王】に呑まれないための大切な

道標だったのかも知れない。俺は、誰かのために頑張る事で己の天恵と

折り合いをつけているのか、とな。


ずいぶん、天恵の扱いに慣れた。

今ではもう、相手を煽るのも容易くなってしまった。つくづく俺って、

自分で思う以上に順応性が高い。


明日だ。

明日の朝、ディナがトモキを預けに来る。帰りは遅くなるらしい。

明日は多分、臨時休業になる。俺もネミルもポーニーたちも、その事に

異存はない。しっかり確認した。


あとは。



ただ一人。


================================


翌朝。


「いやあ久しぶりだね。と言ってもあんたの不在中も、しょっちゅう

預けには来てたんだけどさ。」

「今日が最後か?」

「さすがにそうは行かないけれど、でも多くてあと5回くらいよ。」

「そうなんですか?」

「いくら何でも、あたしももう少しちゃんと子供と向き合わなきゃね。

何となく、フレドには自分の横着を見透かされてる気がするし。」

「それは…」

「…そうなんですね。」


地味に反応に困る言葉に、俺たちはしどろもどろになってしまった。

鈍いのか鋭いのか、イマイチ判断が出来ないんだよな俺の姉貴は。


気付いてるとは思わないけれど。

そろそろ潮時と考えているのなら、やはり本能的なものがあるのか。

予感のようなものが。


俺たちは、何も言わなかった。

沈黙は、10秒ほど続いた。


そして。


「今日もお利口さんだねえフレド。じゃあ、ちょっと行ってくるね。」

「あー。」


軽く振られたディナの手を、じっと見ていたトモキが素早く掴んだ。

そのまま、ディナの目を見返す。


「あらどうしたのフレドちゃん?」

「あー。」

「うん?なぁに?」

「あー…リガ…とう。」

「え?」


ディナは、目をまん丸に見開いた。よほど驚いたんだろうな。

トモキが発した、その言葉に。


「何かしら!どういたしまして…はちょっと変か。でも嬉しいよ!!」


そう言いつつトモキを抱きしめる。トモキ自身も首に手を回していた。

それが彼の精一杯なんだなと、俺もネミルたちもじっと見つめていた。



選択は成された。


================================


二日前、俺たちはトモキに言った。


もしこの世界で生きていきたいと、そう思い直したなら遠慮はするな。

俺たちはキッチンカーでそれなりに楽しみ、思い出も作れた。だから、

旅が無意味になる事は決してない。そこは気にしなくていい。


もしここに留まる気になったのら、思いっ切り大泣きしろ。

駄々さえこねれば、それで俺たちは察する。そしてそれを尊重する。

そこで変な気は遣うな。


そして今朝。


トモキは、ハッキリと選んだ。

元の世界に帰る道を明確に選んだ。


つまり。

これはトモキにとって、ディナとの永別である。

母親として己を預けていた俺の姉貴との、これがサヨナラだったんだ。


ありがとう、か。


練習したんだろうな、きっと。

愛してくれてたのかな、ディナを。

そうだったら、俺としても嬉しい。


「行ってくるね!バイバイ!」

「バイバイ」


小さな手を振るトモキにとびきりの笑顔を返し、ディナは出ていった。

ネミルは、涙を堪えて笑っていた。俺も笑って見送った。


なあ、姉貴。

振り回されたけど、ありがとな。

姉貴にも姉貴の天恵にも、俺たちは間違いなく感謝しているから。


だから。



明日からも、フレドをよろしくな。

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