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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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帰還の挨拶

「いやもうホント大変だったよ。」


ようやく帰ってきたディナさんは、開口一番そんな事をのたまった。


「初めての家族旅行だってのにさ。いきなり襲撃だの監禁だのと。もう

生きた心地しなかったっての!」

「そうか、大変だったな姉貴。」


カウンターに陣取ってまくし立てるディナさんに、トランが気のない

答えを返す。何だかあたしも、妙に冷めた感覚しか抱けていなかった。


もちろん、リアクションが薄いって自覚はちゃんとある。正直な話、

タカネがいるから心配ないってのもあった。確かにピンチだろうけど、

あたしたちからすればマイナー級。我ながら感覚がおかしくなってる。

だけど、リアクションが薄い理由は多分、それだけじゃないだろう。

って言うか、それはお互いさまだ。


だってさ。


「それはそうと、何かないのか?」

「え?」


キョトンとするディナさん。対してトランもあたしもポーニーたちも、

何とも言えない苦笑を浮かべてる。何だったら、ディナさんが抱いてる

トモキでさえ苦笑している。


たっぷり数秒後。


「あ、ああ、うん。」


言わんとする事に思い当たったか、ディナさんがちょっと赤くなった。


「おかえり。」

「ただいま。」


そんな短いやり取りの末、トランとディナさんが笑い合う。もちろん、

見守るあたしたちも。奥の席に座るローナも小さく笑っている。


そうなんだよね。

そっちもそっちで大変な旅行だっただろうけど、何しろあたしたちが

長い旅から帰って来て初めて会ったのである。まずはそっちの挨拶よ。

お互い本当に奇妙な事になっているけど、そこはきっちり分かち合う。


まあ裏を返せば、お店がごく普通に回っていた…という事なんだろう。

ポーニーたちがオラクレールという存在を守っていてくれたからこそ、

大仰な挨拶抜きで「いつもの感じ」にすぐ立ち戻れたんだ。これって、

何気に凄い事なのかも知れないね。



ただいま、お義姉さん。


================================


「お土産は?」

「悪いな。何にもないんだよ。」


すっかり気持ちを切り替えたらしいディナさんの問いに対し、トランは

頭を掻きながらそう答えた。いや、そう答えるしかなかった。


遊びに行ってたわけではないのは、もちろんディナさんも理解してる。

しかし言葉の意味というのは広い。この場合の「遊びじゃない」には、

間違いなくディナさんの知らない、知らない方がいい事が含まれる。

…いや、どっちかと言うとそっちが大半と言ってもいいかも知れない。

最初にキッチンカーを作ろうなどと言い出した時から、あたしたちには

人に言えない目的があった。そしてそれを果たすためには、何かしらの

戦いに臨んだりするような機会も、きっと巡って来る。ただ気まぐれで

「移動店舗をやりたい」と言ってた訳ではないのである。


でも、言えない事は言えないよね。

神託師としてのあたしが、どういう存在になっているか。そのあたしが

トランに天恵を宣告した事により、彼がどうなったのか。どれひとつを

取っても、決して今のディナさんに説明する事は出来ない。ましてや、

トモキの事なんて絶対に言えない。何と問われようと、その事を話せば

きっと悲しい破綻が訪れるだろう。誰ひとり、そんなのは望まない。


「まあいいよ。こっちも今回の旅はイレギュラーばっかりだったから、

まともにお土産買えてないし。」

「じゃあ、おあいこだよな?」

「そういう事にしとこう。」


久し振りのトランの紅茶をゆっくり飲みながら、ディナさんは笑う。


「お互い無事な顔が一番ってね。」

「ああ。」

「そうですね。」


そう言い添えたあたしは、ちょっと笑いながら心の中で詫びた。



ゴメンね、お義姉さん。


================================


「ロナモロスの教主か。それはまた凄いのと話したな。」

「まったくの偶然だったけどね。」


ひと息ついたディナさんは、旅先の出来事をあれこれ話してくれた。

概要は既に知ってるけど、やっぱり当事者の話には聞き入ってしまう。

ローナもタカネもさりげなく聞き耳立ててるのが、ここから見えるよ。

そりゃそうだろうね、うん。


ミクエ・コールデン。

ロナモロスの現教主たる彼女とは、結局会う機会が訪れなかった。

副教主のネイルとは血の繋がりなどない。出自はかなり悲惨らしい。

淡々と語ってくれたモリエナにも、やはり気の重い話なのだろう。

有益な天恵を得たからこそ、彼女はお飾り教主として大事にされた。

ロナモロスがイグリセから撤退した後は、いよいよお飾りになった。

いや、まともな出番などもほとんど巡ってこない籠の鳥状態。


…何であたしの方が詳しいんだか。


ともあれ、聖都グレニカンにいたというのはちょっと驚きだった。

しかもオレグスト・ヘイネマンや、ウルスケス・ヘイリーと一緒とは。

ロナモロスの残党が凝縮している。雑に表現するとそんな感じ。正直、

ちょっと怖い。


「それで記事にするってのか?」

「ええ。本人と話が出来たってのは快挙だし、逃す手はないわよ。」

「…あんまりヤバい事書くなよ。」

「分かってるってば。」


さすがに心配そうなトランに対し、ディナさんは笑って手を振った。


「こう見えても、ロナモロスが割とヤバい集団だったのは知ってるよ。

ミクエはごく常識的な性格だった。だけどどこまでを公表するのかは、

編集部でじっくり検討するから。」

「ならいいけど。」


ううん、このあたりは難しいね。

言える事と言えない事があり、またディナさんしか知らない事もある。

何でもかんでもあたしたちの知見で判断するのは、さすがにまずい。


「あたしだってプロですから。」


そう言うディナさんを信じるだけ。これもまた、自己責任の形だろう。

きっと大丈夫だ。


「というわけなんで、帰ってきた早々悪いけど…」

「ああ、分かってるって。」


そう答えたトランが、ディナさんの抱いているトモキに目を向ける。


「ずっとこっちのみんなに任せてたけど、またお世話させてもらうよ。

何たって、かわいい甥だからな。」

「助かります!」


そう言ってディナさんは笑った。

いつも通りの快活な笑顔が、何だかたまらなく懐かしかった。


さあ。

笑顔を曇らせないようにしなきゃ。


ずっと着けっ放しの指輪がちょっと痛いけど、いよいよもうすぐだ。

あたしに宿らせたネイルの天恵と、みんなの力を合わせる。

あたしの些細なミスから始まった、この長い試練を終わらせる。



その日はもう、まもなくだった。

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