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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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その時は近い

人間は、何にでも割とすぐ慣れる。

身をもってその事を知った日から、けっこう経ったなあ。


異世界転生ものの小説は、いくつか読んだ事があったけど。

まさか自分が当事者になるなんて、想像した事さえなかった。…いや、

した事ないとは言い切れないかも…

とにかく僕は、異世界の赤ちゃんに転生してしまった。その後の事は、

正直あんまり語りたくない。前世の年齢を考えれば、思い出したくない

幼年期だ。いや幼年期という形容が正しいかどうかさえ分からない。


両親は、とてもいい人だ。このまま生きていく選択も無くはない。

それでも僕には、悲しませたくない両親が元の世界にいる。戻る方法が

あるのなら、絶対それに賭けたい。その気持ちはずっと変わらない。


トランさんたちは、僕のその願いを叶えるためキッチンカーで発った。

さすがに恐縮したけど、みんな実にノリノリだった。

ポーニーさんに教えてもらっていた世界情勢は、限りなく不穏だった。

そんな只中を旅する皆さんの事を、心配しない日はなかった。だけど、

タカネさんが一緒という事実が僕に安心をくれていた。


何もできない己を嘆く必要はない。ローナさんだけでなく、誰もが僕に

そう言ってくれた。気休めとかではなく、健やかである事だけが僕の

務めなんだと。

僕の中には、現在もフレド君の魂が眠っている。帰還を決めた僕には、

彼という存在に対する責任がある。


そして、思い出もできた

危ない目にも遭ったけど、両親との旅行は楽しかった。


ああ。

もう陸が見えないや。

イグリセが見えてくるのは明朝だ。ここしばらく、快晴が続いてる。


海を渡れば、後は帰るだけ。

聖都グレニカンで起こった騒動は、タカネさんがウルスケスと協力して

解決してくれたらしい。ぬいぐるみ分体が教えてくれた。ホッとした。

やっとトランさんたちが戻ったっていうのに、僕がいなくてどうする。

後は本当に、無事に帰れるように…


デッキの手すりに、明らかに海鳥と異なる鳥がずっと留まっている。

鳥タカネさんだ。このまま帰るかは未定だけど、とにかく海を渡るまで

護衛をするという事だった。色々とお世話になりっぱなしで…。


僕はもうすぐ、この世界を去る。

全ての光景を憶えておこう。



自分だけの思い出として。


================================

================================


「よし。んじゃやってみて。」

「はーい。」


………………


「あの、まだ?」

「無理でした。」

「え」

「予想通り、無理でした。」

「うわぁ煮え切らないなあ…!」


両手を挙げたローナがそう嘆いた。しかし俺もネミルも何も言わない。

失敗は当然だろうと思ってるから。多分、ポーニーもそう思ってる。


「やっぱダメか―頑張ったのに。」


ノートパソコンに未練がましい視線を向け、ローナがなおも嘆く。

ここまでの手間を考えれば、嘆きも当然だろう。しかし俺から見ても、

やはり無茶が過ぎると思うのもまた事実である。


カーライル親子が帰って来ないと、話が進まない。その間は待ちだ。

旅の疲れもあったから、俺たちには特にその状況に不満などなかった。

神託師による襲撃というのも、現地にいるタカネが解決してくれた。

迎えに行くような事でもないので、鳥やぬいぐるみと連絡を取りつつ

帰ってくるのを待っている状況。

はっきり言って、オラクモービルで営業していた時と比べるとぬるい。

気が抜けたものあって、暇である。ネミルもローナも同じらしい。


そして。

ローナが暇に明かせて試したのは、ポーニーの「能力拡充」だった。


おなじみ彼女のノートパソコンに、「三つ編みのホージー・ポーニー」

の文章を全て入力で写す。つまり、パソコンの中に本を再現するという

事らしい。これにより、パソコンの中にある本の世界に入れないかと。


言いたい事は分かるけれど、無茶が過ぎる。拡大解釈にも限度がある。

そう言ったけれど案の定、ローナは意地になった。


「やってみなきゃ分かんないよ。」


そう言われたらどうにもならない。まあ、手間かけて写すのは本人だ。

静かに暇つぶししてると考えれば、別に何にも問題はなかった。


かくしてローナは、高速入力によりシリーズの3冊分を丸ごと写した。

これだけあれば十分だろうと言ってポーニーに頼み、実験に臨んだ。


結果は見ての通りだ。



…まあ、ほぼ分かってたけどな。


================================


「何がダメだったんだろ?」

「理由は想像つきますよ。」


誰にともなく口にしたであろうそのローナの問いに、ポーニーが即答。

食い気味に答えるとは、予想外だ。


「え、何なの?」

「多分あたしが入れる物語世界は、「出版された本」限定なんですよ。

つまり出版社の人が認めて、値段をつけて発売した書籍です。それが、

「作家」エイラン・ドールの天恵の特性なんです。」


ああ、なるほどな。そういう事か。


「うーん…違法コピーじゃダメって事か。電子書籍とかは?」

「言葉の意味が分かりませんけど、正式な販売物なら多分いけます。」


未練がましく異界の知を問うローナに、ポーニーは辛抱強く答える。

付き合いがいいよなあこの子って。と言うか…


「何でそんなにこだわるんだよ。」


思わず問わずにはいられなかった。手間かけて何を調べてるんだ一体。


「いやあ、トモキの帰るべき世界に興味が尽きなくってさ。」

「は?」

「彼の記憶にエイランの小説を全部詰め込んで向こうに送り返したら、

ひょっとしてポーニーが行けるかも知れない。そう思って…」

「ちょいちょいちょい!!」


興味なさげだったタカネが、そこで尖った声を上げる。


「無茶な事考えるんじゃないわよ。モリエナみたいに頭がパンクしたら

どうするつもり!?」

「その無茶を生後すぐにやったのはどこのどなたでしたっけ?」

「お、喧嘩売ってんのか恵神?」

「落ち着いて下さいってば!!」


見かねたらしいモリエナが、甲高い声で仲裁に入る。

俺もネミルもランドレも、その様に揃って小さなため息をついた。


暇な時にロクな事を考えないのは、人も神も同じだな。

多分、そんな思いを共有しながら。



久々に平和なひと時だった。


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ぶるっ!!


「あらフレドちゃん、寒いの?」

「そろそろ中に入るか。」


お気遣い頂き、どうもすみません。

ちょっと寒気がしただけです。

…何と言うか、ろくでもない予感が背筋を走り抜けた感じで…。


不安が無いと言えば嘘になる。

だけどもう、今さらためらったりはしない。選択を撤回する事もない。

まだ自分の人生を手放す気はない。戻れるなら、危険も試練も受ける。

ドンと来いだ。トランさんたちも、想像を超える苦難の果てにネイルの

天恵を持ち帰ってくれたんだから。


僕の名前は、荒野友樹。



もうすぐ、世界の壁を超える試練に挑む男だ。

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