梁の上の語らい
イイね。
ちょっとラッシュを思い出すけど。
ラッシュ?
誰それ?
ラッシュ・リーズナー。
こことは違う世界で戦った、かなりヤバめの魔術師よ。
…それが、あたしに似ていると?
生き物を魔獣に変えて操る点がね。
ラッシュの場合、屍を傀儡に変える魔術の達人だったけど。
…うーん、複雑。
まあ気にしないで。
人質の見張りはあの男だけだから、後は一気に辿り着ける。
それでいいの?
一箇所に集められてるってのはほぼ間違いない。ならあのぬいぐるみを
持ち主に届けてくれればいいだけ。そこまで行けば、安全は保障する。
…分かった。
じゃ、落ちないように掴まってよ。屋根裏から侵入するから。
了解了解。
外に残ってる連中は、ネズミと鳥で撹乱して気を逸らす。その後は?
あたしが直接行って、眠らせるよ。
接近する事さえ出来れば、さっきと同じ方法で無力化できるから。
なるほど。
鳥だの何だの他にいれば、本命から注意を逸らせるって事か。
その通り。
んじゃ、よろしくね。
分かった。
タイミングを合わせてよ。
それと…
それと?
あとでちょっと、話させてよ。
騒ぎが収まったら。
もちろん、喜んで。
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「…ん?」
「きゃあッ、ネズミがいる!!」
壁際を走る影に気付いたと同時に、他の人質の女が甲高い声を上げた。
その悲鳴を合図にしたかのように、半数を超える人間が恐慌を来たす。
「いやぁぁ!!」
「ちょっ、来ないでよ!!」
大きなネズミが何匹も迫る光景に、悲鳴が上がるのは当たり前の話だ。
そういう意味では、ディナと家族は至って冷静だった。…何でだ?
もちろん、俺もミクエも騒がない。しかし理由は全く異なっている。
駆け回るネズミが、明らかに魔獣になっているのが見て取れるからだ。
つまりこれらは、ウルスケスが使役しているという事なのだろう。
俺たちを助けるための事とすれば、下手に口出しはしない方がいい。
これだけの数を投入するとなれば、きっと本命を隠しているはずだ。
それを見きわめて…
「あれ?あれってフレドの…」
「えっ!?」
不意にそんな声を上げたのは、傍らのディナとその夫だった。
そちらに視線を向ける前に、何かの物体が彼ら目掛けて跳び上がった。
パシッ!!
かすかな音と共に、跳び上がったであろうぬいぐるみが掴み取られる。
ディナでも夫でもなく、彼らが守る小さな男の子の手に。
何だ今の?
明らかに赤ん坊なのに、
どこかから運ばれてきたぬいぐるみを、掴み取ったとでもいうのか?
どうやって…
というか、何のために?
しかし俺はその瞬間、奇妙なものを目にした。
無意識に集中した事で、天恵の目を発現させてしまっていたからだ。
………………
【異世界転生者】?
何だそれ。
聞いた事がない…
いやいや、問題はそこじゃない。
なんで赤ん坊に天恵が?
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しかし、考え事をする時間はそこで終了と相成った。
ここと同じように部屋の外が何だか騒がしくなり、やがてゴトッという
何かが倒れる音が重なり合う。
ウルスケスか?
陽動すると同時に、外にいる連中を他の魔獣で攻撃したって事なのか?
…いや、それはあまりにも無謀だ。
魔鎧屍兵ならばともかく、あいつの操る魔獣はそこまで強くはない。
そんな無謀な突撃など…
………………
………………………………
その待ち時間は殊更に長く感じた。ぶっちゃけ、人質になった時よりも
緊張したかも知れない。部屋の外で何が起きたか、判らなかったから。
しかし、心配は杞憂に終わった。
静かになった外から、多くの足音が近づく。戦いが起こる気配はない。
ほどなく扉が開かれ、我先にと警察関係者がなだれ込んできていた。
ああ。
助かったみたいだな、どうやら。
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よぉし、うまくいった。
警察もすぐ来たね。
凄いわね。
あたしじゃ、さすがに戦いもせずに制圧するってのは無理だったかも。
ま、そこは向き不向きよ。
ぬいぐるみを届けるのが、そんなに重要だったの?
もちろん。
あれも形を変えたあたしだからね。本人のいる場所に戻れさえすれば、
多少の無理はできる。人質の人数を考慮しても、守る事は出来るから。
ふうん。
同じく鳥の姿の眷属だけど、色々と負けたわね。本体性能の違いか。
眷属ってのはちょっと違うけれど、まあそんなところね。
こればっかりは、そんな簡単に真似できるような事じゃない。だから、
あんまり気にしないで。
そうね。
あ、出てきた出てきた。
あれが、ぬいぐるみを届けたかった子なのね。抱いてるのは両親?
まあ、両親と言えば両親ね。
そこはちょっと複雑でさ。
ああ、訊かない方がいいって奴ね。まあいいけど。
申し訳ない。
あ、あっちの二人があなたの仲間?
そう。怪我もないみたいね。
よかったよかった。無事解決して。ええっと…
【鑑定眼】オレグスト・ヘイネマンと「治癒」ミクエ・コールデンか。
なかなか癖のあるお友だちね。
………………
何なのあなた。
どうしてそんな事まで知ってるの?
色々と関わったからね。
およその話は耳に入ってるよ。
あなたの事もね。
どういう意味よ。
あたしの何を知ってるの?
レンネ・ヘーゼルに魔核を渡した。
そのあたりから知ってるよ。
………………
そんな警戒しなくていいってば。
今さらな話だし、そもそもあたしはよそ者。とやかく言う気はない。
それに今回は、人質の救出のために手を貸してくれたんだから。
………………何が目的?
話がしたいだけ。
過去じゃなく、未来の話をね。
お互い気楽な鳥同士。
ここだけの秘密にしてもいい。
あなたの歩む、未来の話を。
あなたという人間を、きっちり理解しておきたいからね。
いい?
んじゃ、屋根に戻ろうか。
あそこからの光景、イイよね。




